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おれたち、しんせき。

(注;今回は、反社会的な方が出てくるお話です。
但し、当時の時代背景と子供の視点ということでご了承ください。それでも不愉快とおっしゃる方はご遠慮ください。)


私が、幼稚園児くらいの頃である。
近所に、いわゆる『ヤ』と噂されるおじさんが住んでいた。

暴対法も無く、任侠映画も過去のモノでは無い時代。
今では反社会的とされる方々が日本中の街のあちこちに、まだ存在を自己主張できた時代だったのだろう。

私は子供だったので、詳しいことは知らない。
大人の噂話によると、大都市で大きい組の幹部をしている、恐ろしい人ーと言う話だった。

しかし、子供心に言わせてもらうと、ただの迷惑な目付きの鋭いおじさんだったし、幹部ならどうしてこんな田舎町に住んでいるのか、甚だ疑問でもあった。
 何故彼が迷惑なのか?
それは、彼の妙な親切心による。

実は彼には、『用水路のザリガニを手づから天ぷらにして、皆に供する。そして、その喜ぶ顔が見たい』と言う性癖?があったのだ。

彼の主張によると、こうである。
『アメリカにはロブスターちゅうもんがいるらしい。ザリガニだって似たようなもんだ』と。

当時は今ほど海外が身近ではなかったご時世。
海外を紹介する番組が多く、芸能人だって英語さえ喋れれば、もてはやされた時代。
おじさんは、恐らくテレビでロブスターを知ったのだろう。

皆に喜んでほしいと言う気持ちはわからないでもない。
但し、下水道も整備されていない時代の、汚水垂れ流しの用水路にいるザリガニを食べたいと思う人がいるだろうか?

誰に聞いても答えはNOであろう。

ともかく、本人の妙な思い付きと親切心は暴走していたようである。
ジ@@アンよろしく、『俺の天ぷらが食えないって言うのか』
と、あちこちでやっていたらしい。
大人たちの陰口が聞こえてくる中、とうとう我が家にもやってきた。
渋い顔をする父の前で、おじさんはその現物を出して、父に食するように迫ったのだ。

そこへ立ちはだかったのが、幼稚園児!!
『おじさん、そんな汚いの食べたくない!』
まさに、裸の王様状態である。

おじさんは当然カンカンになり、両親は必死で彼をなだめにかかった。
子供心にまずいことになったらしいと思ったが、そこは幼稚園児の浅はかさ。
負けじと、おじさんを睨み付けた。
『大好きなお父さんのピンチ』だと思ったのだろう。

彼は私をチラリと見ると、『しつけがなってないぞ!!』と捨て台詞を残して、二度と来ることはなかった。

その後、母からは『おじさんの気持ちも考えなさい!』と妙なお説教?をくらった。
父からは、こっそり呼ばれて、『俺も嫌だったんだ、ありがとう』とお礼の言葉を貰った。

幼稚園児としては、正しいことをしたと感じていたが、今思うと『幼いって恐ろしい』と思う。

擁護するわけでないが、あの時代の任侠の方は、『女子供には手を出さない』と言う不文律でもあったのかもしれない。
ともかく、そのお陰で助かった。

さて、時は過ぎ令和6年。
思い出して当時の関係者を探してみたものの、皆鬼籍に入る年になってしまった。
『食べなかったら、ひどい目にあっていた』らしいが、具体的な被害者は見た覚えがない。
妙なことに、この一件以来、ザリガニ被害者の話を聞かなくなった。

そして、おじさんも風の噂で、あの世へと旅だったと聞いた。

つまり真相は、全て藪の中と言うことになる。

そうして、もうひとつ気になっていたことをインターネットで調べた。
それによると、(正確ではないだろうが)
何とロブスターとザリガニ(種別不明)は遠い親戚であることが判明した!!

おじさんの思い付きは、当たらずとも遠からずと言う所だったようだ。

ロブスターやザリガニを見ると思い出す、古き懐かしき、少し複雑な?思い出である。


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