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フランスのジャーナリスト、アンヌ=ロール・ボネルとは何者か?

モスクワによると、ドンバスに関する仕事で検閲を受けたと言うフランスのジャーナリスト、アンヌ=ロール・ボネルとは何者か?Check Newsに出演した際、彼女はドンバスでウクライナ人が犯した「人道に対する罪」を糾弾し、特にこの地域で2014年以来1万3000人が死亡していることに言及した。

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Liberation誌 3/3/2022の記事

この事件は、ロシア政府にまで及んでいる。ウラジーミル・プーチンの外相のセルゲイ・ラブロフは、木曜日のテレビ演説で、フランスのアンヌ=ロール・ボネル記者のメディアやツイッターでの最近のやり取り(投稿)を受けて、こう切り返した「マクロン大統領は、ゼレンスキーは非難されるべきではないと発言た。そしてフランスのジャーナリストが答えた。彼女はドンバスに行き、学校への砲撃、この学校で働いていた2人の女性が殺害されたことを目撃して記事を書き、欧米人に真実を直視するよう呼びかけた。この記事の出版は許されなかったが、彼女の(記事の)解説はインターネット上で公開されているので、ぜひ事実を知って欲しい。」

これは、このフリーランス・ジャーナリストが投稿した、ドンバス地方のドネツクの街角に横たわる死体を写した一連の特に露骨なツイート(その内ひとつは、このSNSプラットフォームの規則に反するため削除された)のことをほのめかしている。ウクライナ東部のロシアと国境を接するこの地域は、2014年から独立派のロシア人とウクライナ当局の間で戦争が起こり、ロシアのウクライナ介入の口実となった。

しかし、アンヌ=ロール・ボネルが特に注目されたのは、(今年)3月1日にCheck Newsで放送されたパスカル・プラウの番組に出演した時だった。ドンバスから発言(出演)した彼女は、「8年間も続いている」紛争を激しく非難した。「これは深刻なことで、明らかに(ヨーロッパ人は)目を逸らして来た。ドンバスのロシア語を話す住民は、自国の政府によって狙われ、キーウの政府によって爆撃されてきたのです。(今日、私がいる側 - 分離独立派)では、苦しめているのはウクライナなのです。(前線近くの…ドンバス側で…それはウクライナ軍なんです… 私が2015年に作ったフィルムは、これらの人道に対する犯罪の証拠です。」パスカル・プラウ「ドンバスは何年もウクライナ軍に空爆されているのですか?」アンヌ=ロール・ボネルの答え:「2014年以降、1万3000人が死亡しました。」遺体の写真を見せるより前に、彼女によると、結果として、ここ数日のウクライナの砲撃によるものだと。

Anne-Laure Bonnelとは?

アンヌ=ロール・ボネル(40歳)はツイッターの経歴では、「フィルターなし、フォトショップなし、トリミングなしの、リアル・レポーター/フォトジャーナリスト」と自己紹介している。パリ高等ジャーナリズム学院、パリ第1大学、INA(Institut national audiovisuel)で教えているそうだ。昨年は、アルメニアとアゼルバイジャンの戦闘を題材にしたフィルム、ナゴルノ・カラバフの「Silence」を制作した。Linkedinのプロフィールによると、彼女は7年間レポーター兼コンサルタントを務めているドキュメンタリー・プラットフォーム、Spiceeで放送されたものだそうだ。この情報は、Spiceeに否定された。

2020年、ドンバスに行ってから“ジャーナリストと呼ばれることを拒否した”のは、”この職業に非常に失望した“”この紛争に関するメディアの報道を恥じた“からだと言う。彼女は、ロシアびいきの欧州議会議員であり(フランス右派政党)国民連合のメンバーでもあるThierry Marianiが会長を務める団体「Dialogue Franco-Russe(仏露対話協会)」が主催する討論会で、2016年に公開された彼女のドキュメンタリー『Donbass』について話していた時の発言だ。このフィルムは、彼女がウクライナ東部のこの飛び地に住む「ロシア語を話す人々」の日常生活の証言としているもので、コメントや事実に対する注意喚起は一切含まれていない。彼女は2015年に2週間にわたる3回の旅行で、ドネツクとルハンスク(ロシアによるウクライナ攻勢の3日前、2022年2月21日にウラジーミル・プーチンによって独立を認められた共和国の二つの「首都」)周辺の様々な町を訪れて本篇を制作した。つまり「分離主義」の領域で。


地下室に詰め込まれた住民、病院にいる負傷者、ロシアの人道的輸送隊の到着、即席の墓地...。しかし、彼女は「接触(境界)線」の向こう側へ行き、何が起こっているのかを見ることはしなかった。"当初は両側から撮影したかったのですが、無理でした。2014年、ドンバスに行きたいとキーウに申請したのですが、ジャーナリストが反乱地域に入るのを妨害されていました。その後、私は自分が反対側(キーウ政府側)での撮影を10年間禁止されていることを知りました」と彼女はCheck Newsに語っている。 特に、ルモンド紙のモスクワ特派員であるブノワ・ヴィトキネは、アンヌ=ロール・ボネルが撮影中、分離主義者グループのメンバーに同行していたとツイッターで報告し、この(報道の)偏りを批判している。「彼ら(分離派)がそのフィルムに中で、目撃者に質問していた人達で、ジャーナリスト(アンヌ=ロール・ボネル)ではなかったと私達は聞いた。何を言っていたか?ウクライナ軍による恐ろしい虐待:妊婦の斬首、耳を切り落とされた年金生活者、集団処刑...何度も反証されている嘘のような話、ロシアのテレビが作り上げた作り話、アンヌ=ロール・ボネルの(分離派の)ガイドが彼女の目と鼻の先で魔法をかけてくれたんだ。」このジャーナリスト(アンヌ=ロール・ボネル)は、私達のこれらの非難を否定している。

また、パリのロシア科学文化会館で行われたイベントで彼女のドキュメンタリーが紹介され、「仏露研究所の公式雑誌」である「Méthode」の記事で、ドネツクの国立工科大学へ訪問したことも取り上げられた。こうした(情報の)流通経路に、今日、彼女の中立性を問う声が上がっているのだ。「私のフィルムが公開された時、私が期待したような反響は得られませんでした。それは最初に選択され、次に検閲され、メディアの言論統制がありました。だから、それを見せるために彼ら(親露派)に頼るしかなかったのです」とアンヌ=ロール・ボネルは説明する。2021年6月、Buzz on Webのインタビューで、彼女は「アムネスティ・インターナショナルは5回のフィルム上映に同行した後、カタログからこの作品を削除した 」と詳述している。連絡を受けた人権NGOは、こうした非難に驚き、南部地域で開催された「Au cinéma pour les droits humains (人権のための映画館)」という地元の映画祭の一環として、2016年3月に彼女のフィルムが確かに上映されたと説明した。「無料の地方イベントですから、お祭りが終わると支援がなくなるのが普通です。長期的なパートナーシップの問題は全くなく、我々の団体も同団体の書類も国家レベルのブラックリストには載っていません。」と、NGOの文化活動部門の責任者であるイワン・ギベールは言う。映画祭の責任者であるジャン・リュック・ルヴェネスは、彼の側では、このコラボレーションは良い状態で終わったと断言している。「企画された通り5回の上映と討論会が行われ、契約も履行され、とてもうまくいきました。」2016年以来、アンヌ=ロール・ボネルと連絡を取っていないルヴェネスは、最近彼女のFacebookページの登録を外した:「私は彼女の政治的ポジショニングに同意できません、彼女は漂流しています。しかし、このドキュメントフィルムは客観的で質が高く、それゆえ選ばれたのだと私は信じています。」


ツイッターでは、Check Newsに出演して以来、記者に対するコメントが日に日に増えている。この騒動は、当初、彼女のアカウントが停止されたという(誤った)噂によって煽られたものであった。最近ドンバスに戻る前、彼女のアカウントは非常に活発で、フランス海軍、Valérie Boyer、Eric Ciotti、Valeurs actuellesの記事、更にはアンチワクチンの出版物からのリツイートがあった。

13,000人の犠牲者という数字はどこから来たのか。

アンヌ=ロール・ボネルがドンバスでの紛争での死者数1万3000人について「誰も語らない」ことを残念がるが、実際、この数字は近年このテーマについて書かれた記事で広く使われている数字である。ドンバスの状況に関する記事でLiberation誌が当時報告したように、この死者数は、国連によって最初に(審議が)進められた2019年以来、二転三転している:「国連によると、紛争は、これまでに、13,000人以上の確認された死者数を出し、これは約3,300人の民間人を含む。」

この推定値は、その後、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によって繰り返し精緻化されている。OHCHRの報告書によると、2014年4月から2020年2月までに、合計13,000人から13,200人が殺害された。ただし、この1万3千人の死は、分離主義地域に住む民間人だけに関係するものではない。国連によると、「少なくとも3,350人の民間人、約4,100人のウクライナ軍メンバー、約5,650人の親ロシア派武装集団メンバー」がいたと言う。負傷者の数も同様で、「約7,000~9,000人の民間人、9,500~10,500人のウクライナ軍メンバー、12,500~13,500人の(分離派)武装集団メンバー」を含む29,000~31,000人が紛争で負傷している。

言い換えれば、これらの13,000人の死者を、たとえこれが暗に示されているだけの数字であっても、全てドンバス分離主義者の側にいた民間人として提示することは誤解を招く恐れがある。 彼らの大多数(約10,000人)は紛争の両側での戦う戦闘員だった。

また、OHCHRが武装勢力やグループに対して行うように、殺害された民間人が政府側と分離独立派のどちらに属していたかを判断することはできるのだろうか?欧州安全保障協力機構(OSCE)ウクライナ監視団の活動は、民間人の犠牲者を死亡した地域によって区別し、いくつかの答えを提供している。2016年の1年間と2017年1月1日から2020年9月15日までの2つの報告書によると、2016年から2020年秋までの間に249人の民間人が死亡していることが判明した。このうち83人はウクライナ政府支配地域に、154人はドンバスの分離主義者支配地域に、12人はどちらにもコントロールされていない地域に住んでいた。

実際、多くの民間人が銃撃戦に巻き込まれた。パリ・ナンテール大学で政治学を教える研究者で、ポストソビエト社会を専門とするアンナ・コラン・レベデフは、「近年、前線は『人が住まなくなったが、もともと都市化した領土』を横切っている」と指摘する。

「連絡線は、村のすぐそばを通ったり、村の真ん中を通ったりすることが非常に多かった。ドネツクの場合、それは街のかなりの部分にまで及んでいました。」と、OSCEのオブザーバーとして2015年から2018年まで現地に滞在したカリーヌ・アルドーは付け加える。「この間、接触(境界)線上に住む民間人は、特に健康や経済的な理由から必ずしも離れることができず、時には各当事者の軍事的立場の間に身を置くこともありました。」と、武力紛争を専門とするこの弁護士は強調する。


Check Newsが接触した専門家(カリーヌ・アルドー)は、だから数字だけではなく、詳細と文脈を整理することが重要で、「ドンバスのロシア語を話す住民はキーウ政府によって爆撃された」あるいは「ロシア語を話す側では、今日も爆撃が行われている」と言うアンヌ=ロール・ボネルが使う用語を非難している。「いわゆる接触(境界)線の両側には、ロシア語を話す人々が住んでいました。ロシア語を話す人は、(ドネツクとルハンスクの)2つの共和国にだけいたわけではありません。」と、カリーヌ・アルドーは振り返る。

このような偏った表現をしても、双方で虐待が行われた事実は変わらない。アンヌ=ロール・ボネルがこの1万3000人の死者を指定するために用いた「人道に対する罪」という言葉について、国際刑事裁判所(ICC)は、2014年以降ウクライナで行われた行為の一部がこれに該当するかどうかを判断するために調査を開始したばかりだ。2020年に発表されたICCの報告書では、拷問や即席の処刑など、ロシア側とウクライナ側の双方に起因するさまざまな虐待について言及されている。最後に、民間人の殺害について、報告書は「双方による重火器の繰り返し使用」を主張している。


なぜ、この言葉がロシア当局の主張と合致するのだろうか。

アンヌ=ロール・ボネルが伝えたドンバスの状況に対するこの非常に一方的な見方は、ロシア当局とその支持者の見方でもある。親ロシア派メディアのスプートニクは、彼女のCheck News出演をきっかけに発表した記事の中で、「アンヌ=ロール・ボネルの提示した数字は、2月28日にキエフの軍事行動によりドンバスで1万4000人が死亡したと宣言したモスクワの数字と一致しているようだ」と解説している。モスクワのウクライナ介入を正当化する理由となった、数字の誤用。

ロシア国防省のイーゴリ・コナチェンコフ報道官は2月28日に「キーウ政権の軍事行動とドンバス住民の組織的な抹殺は8年間続いた。この戦争で、数百人の子供を含む1万4000人以上が死亡した」と言った事を、スプートニクは以前の記事を思い起きさせる様に(関連付けて)書いた。

この言葉は、2月24日の侵攻当日のテレビ演説で、死者を「大量虐殺」と表現したウラジーミル・プーチンの言葉と一致している。「8年間、果てしない年月、我々は(ドンバスで)平和的、政治的手段によって状況が解決するよう、あらゆる手を尽くしてきたのだが、無駄に終わった。前回の講演で言ったように、現地で起きていることに同情せずに見ているわけにはいかない。もはや、傍観しているわけにはいかないのだ。この悪夢は、そこに住む何百万人もの人々、そしてロシアのみに希望を託している人々に対する大量虐殺であり、直ちに終わらせる必要があったのだ。ドンバス人民共和国を承認する決定を下した主な理由は、まさにこの願い、感情、人々の痛みだった。」


ドンバスで今何が起きているのか。

Check Newsで、アンヌ=ロール・ボネルは「ドンバス地方のロシア語圏では、まだ爆撃が行われている」と述べている。「ロシア人は国の中心(原文のまま)にいる。前線近くのドンバス側、それはウクライナ軍(の仕業)だ」と主張する。

ソーシャルネットワークに公開された写真の中で、アンヌ=ロール・ボネルは、タバコを片手に、2人の遺体が倒れている横に写っており、次のようなキャプションが添えられている:「…ドネツク。ウクライナの攻撃 3月1日午後3時半頃」 この画像は、同日ロシアの通信社タスが報じた襲撃事件の場所と一致する建物の前で撮影されたものである。タス通信によると、ドネツクで3月1日に「複数のウクライナ製ロケット砲による」砲撃があり、実際に2人の民間人が死亡したとのこと。この攻撃に対応すると思われる他の画像や動画がソーシャルネットワーク上で出回っているが、正確な出所や背景を特定することはできていない。

ロシアの機関は、ドネツク行政長官の声明に依存している。テレグラムのアカウントでは、この日、市内のさまざまな場所でウクライナ側から「大規模な砲撃があった」と非難している。一日中、被害状況を示す情報や写真を共有し、そのたびにウクライナ軍に責任があると指摘した。Check Newsは、これらの告発を確認することができなかった。

いずれにせよ、この地域は、現在のウクライナの多くの地域と同様に、戦争状態にあるのだ。ドネツク州(地域)でも、ホルリフカの町の支配をめぐる接触線の西側で衝突が起きている。しかし、激しい軍事活動にもかかわらず、2014年の戦争から受け継いだ最前線はほとんど変化していない。ロシア軍と分離派軍は、主にマリウポリまで南下し、クリミアからの部隊と合流した。人口約45万人のこの港町は、ウクライナ軍参謀本部がロシア軍に奪われたことを否定しているにもかかわらず、現在包囲されている。ルハンスク州では、ロシア軍が北西に進軍している。セヴェロドネツク、リシチャンスク、スタロビルスクの各町に到達した。

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