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ロシアの教師は反戦演説の生徒を録音したことで刑務所に直面し、「ショックを受けた」

The Guardian紙 4/6/22に載った記事の翻訳です。

イリーナ・ゲンが録音メッセージでスパイ機関に呼び出され起訴された後、社会の「スターリン化」を危惧する声

ロシアのペンザ市で英語とドイツ語の教師をしているイリーナ・ゲン(55歳)が教室で反戦演説を始めた時、自分の生徒から録音されているとは思いもよらなかった。

「私はただ、生徒の世界観を広げたいと思っただけです。この国に流布しているプロパガンダを打破したかったのです。しかし、その結果、私はどうなったか見てください」とゲンは言った。彼女のメッセージが広まった後、ロシア軍の「信用失墜」の罪で長期の実刑判決に直面することになったのだ。

3月18日、ゲンの13歳と14歳の生徒達は、ロシア選手が国際(競技)大会への出場を禁止された理由を尋ねた。- 彼女は西側による決定だと答え、その背景を説明しようとしたと語った。

「ロシアが文明的な振る舞いを始めるまで、ロシア選手の競技会への不参加は永遠に続くでしょう...私はそれが正しいと思います」と語った彼女の音声、クレムリンと関連したテレグラムチャンネルで最初に共有された。「ロシアはキーウに到達し、政府を転覆させようとしたのです。ウクライナは主権国家であり、主権政府が存在します...我々は全体主義体制の中で生きています。いかなる反対意見も犯罪とみなされます。」

また、包囲されたマリウポルリの産科病院が爆撃されたことを、ロシア国営メディアがウクライナ式の挑発行為と決めつけたことについても、ゲンは非難の声を上げた。

学生への反戦発言から5日後、彼女は地元の連邦保安局支部から事務所に来るよう電話を受け、そこで治安当局が彼女の授業中の発言映像を入手したことを知らされた。

「ショックでした。まさか自分が録画されているとは思いもしなかった」とゲンは振り返る。「私は検察官に、嘘はついていないと言いました。APやBBCのような、プロフェッショナルで客観的な報道をする、尊敬すべき西側の報道機関を引用しているだけだと」。「しかし、勿論、それは彼らが受け入れることができる議論ではありませんでした。」

先月末、ロシア検察は、ロシア軍に関するいわゆるフェイクニュースの流布を犯罪とする最近導入された法律に基づいて、ゲンを刑事事件として立件したことを発表した。

検察は特に、マリウポリ産科病棟に関するゲンの発言を問題視している。それ以来、彼女は出国を禁止され、彼女の弁護士によると、有罪が確定すれば最高で10年の懲役刑に処せられると言う。

ロシアは反戦感情に対して前例のない弾圧を開始し、ゲンのケースは、戦争を批判した教師が生徒から親や当局に訴えられ、解雇または起訴された少なくとも4件のうちの1つであることが知られている。

「私は、公式の見解と違うと言うことで起訴されただけです。私の家族はす​​でにソビエト連邦で弾劾キャンペーンを体験しました。」とゲンは、何十万人もの一般市民が、隣人や友人、親戚を「国家の敵」として糾弾したスターリンの大粛清のことを指して言った。

よく知っている生徒達から録音されていると知って「動揺」したが、彼らを恨んだりはしなかった。「生徒達は親の言うことに従うだけだから」とゲンは言う。

教え子の親の一人は、ゲンが以前授業中に「小さな」反戦発言をした際、自分の子供に録音するように勧めたと考えている。「この状況はひどいものです。個人的にはとてもつらかった。でも、私の周りの人達、私が知っている大多数の人達、私が友人だと思っていた人達が、この紛争でロシアを支持しているのを見ると、おかしくもなります。」

ウラジーミル・プーチンによるウクライナ侵攻から6週間、世論調査は、クレムリンが執拗な国家プロパガンダの助けを借りて、その軍事行動に対する国民の支持を何とか動員していることを示している。

モスクワは早くから、教育分野での反対意見を許さないという姿勢を示していた。同国のセルゲイ・クラフツォフ教育相は、西側に対する「情報戦と心理戦に勝つ」ためのロシアの戦いには学校が不可欠だと公然と述べている。

3月1日から、学校では新しい授業が導入され、教師は生徒に、なぜロシアが「ウクライナのファシスト政権」に対して戦争を始めざるを得なかったのかを説明するよう指示された。また、ロシアのソーシャルメディアには、ロシアのウクライナ侵攻を支持する国民の主なシンボルとなっている軍事標識「Zサイン」を作って写真撮影する小学生の投稿が何百と掲載されている。

地元の幼稚園では、幼児がプレイマットの上に寝そべってZの陣形を作ったり、園児が自国の軍事シンボルをロシアの三色旗の色で塗ったりする画像も投稿された。

カーネギー・モスクワ・センターのアンドレイ・コレスニコフは、ゲンや他の教師たちの経験から、ロシア社会の「スターリン化」が憂慮されると指摘した。「タイムマシンの中にいるような感じです。当局が糾弾を奨励するような風潮が出来上がっているのです。我々はスターリンの下で同じプロセスが発展するのを見たが、それは破壊的な結果をもたらしました。」

コレスニコフは、“ウクライナの話題”に触れるのが怖いと言う”多くの大学教授達“から相談を受けたと言う。「彼らは、学生達が自分達を糾弾するために、紛争について話すよう挑発しようとしていると言うのです。」

コレスニコフは、もし現在の国の雰囲気が持続するなら、ロシアは「すぐに新しい世代のパブリク・モロゾフができるだろう」と語った。当局に父親を糾弾してプロパガンダの象徴となり、彼の像がロシア全土で掲げられたソ連の少年を指している。

コレスニコフは、戦争熱の影響は、国内の教室の中に収まらず、それをはるかに超えていると言った。

最近、反戦メッセージを店の窓に貼った中小企業の経営者を、無差別に通行人が糾弾しているという報告が相次いでいる。

「権威主義的な体制が、完全な全体主義的な体制へと変化する兆しが見え隠れしています。」とコレスニコフは言った。

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