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Zero Hedgeはロシアのトロイの木馬か?

3/9/20のThe Soap Boxの記事を翻訳しました。

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陰謀サイトの創設者の父親がブルガリアで私に対して刑事告訴をした。その後、奇妙なことが起こった。

クリスマスの1週間ほど前、私は受け取りたくないメールをもらった。ブルガリアという、一度も行ったこともなく、個人的なつながりもない国で、私が刑事告訴されたと言うのだ。名誉毀損、検閲未遂、個人・家族・企業情報の不正な流布、両親や祖父母の思い出を侮辱した、といった内容である。

そのメールは、ブルガリアの退役軍人ジャーナリスト、クラシミール・イヴァンジスキーからで、彼の41歳の息子、ダニエルが創設した大人気のウェブサイト、ゼロヘッジ(Zero Hedge)について私が書いた記事を問題視していた。私の記事は、私の個人ブログに掲載されたもので、ゼロヘッジが大きな役割を果たしている陰謀のビジネスについて書いたNew Republicの記事から発展したものであった。毎月何百万人もの読者がゼロヘッジを訪れ、ウォール街に対する深い悲観的な見方と、国際情勢に対する警鐘的で陰謀的な捉え方に引き込まれているのだ。ゼロヘッジの世界では、金融市場は常に崩壊寸前であり、米国は常に衰退する大国である。

ゼロヘッジは、しばしば虚偽の情報を流したとして非難される。ツイッターは2月、67万人以上のフォロワーを持つゼロヘッジのアカウントを、偽アカウントやスパムを禁じるツイッター社の方針に違反したとして永久追放した。これは、2016年の大統領選でロシアがソーシャルメディアを利用して有権者に影響を与えたことを受けて強化された取り締まりの一環である。ツイッターによると、ゼロヘッジは、コロナウイルスは武漢の研究所から流出した中国の生物兵器であり、「偶然かどうか」という陰謀論的で証拠のない主張によって停止されたと主張している。ゼロヘッジのツイッター禁止令は大きなニュースであった。そして、両方の立場をカバーするジャーナリスト達が反射的な反応し、コロナウイルスの偽りの陰謀はさらに広まり、共和党のトム・コットン上院議員がフォックス・ニュースでそれを繰り返して以来、その勢いは止まらなくなっているのである。

最初、私は刑事告訴を冗談だと思った。私が訴状を受け取った時点では、100人以上が読んだだけの個人的なブログの記事に、なぜそこまでするのか理解できなかった。そのメールは被害妄想的で、"comlpaint "(訴状complaintの間違い)などの誤字脱字が散見される。イヴァンジスキーと彼のブルガリア人弁護士は、ブルガリア語で書かれた訴状の原本の提出を拒み、私がどの法律に違反したのか、あるいはどの国の法律に違反したのかさえ不明なままであった。しかし、調べたところ、ブルガリアの検察庁に告発されていることがわかった。

ブルガリアでは、ゼロヘッジの出版社がアメリカ人ジャーナリストを刑事告訴したというニュースが大反響を呼んだ。私はブルガリアのテレビに2回出演して質問に答え、この話は複数のニュースサイトで取り上げられた。ブルガリアのジャーナリスト達も、私と同じようにこの刑事告訴に困惑していた。「アメリカではよくあることなのですか?」ブルガリアのあるオンライン出版社のジャーナリストは、私に聞いた。- いや、こんな事は滅多にない。ブルガリアのテレビ局の司会者などは、「身の危険を感じましたか?」と聞いてきた。- いいや、しかしブルガリアの裁判所で首を吊るされるかもしてないね。
それでも、ひどい前例ができるかもしれないので、私はブルガリアで弁護士を雇って戦うことにした。

ブルガリアでは、ゼロヘッジの発行元がアメリカ人ジャーナリストを刑事告訴したというニュースが大炎上した。


私が訴えられたさまざまな「犯罪」の中には、ゼロヘッジとブルガリアとの関係を明らかにする情報を公開したことが含まれていた。イヴァンジスキーの息子、ダニエルはニュージャージー州北部の裕福な郊外に住んでいるが、ゼロヘッジのドメインは米国ではなく、ソフィアに登録されていたのである。裁判記録から、ゼロヘッジの所有者はABC Media Ltdというブルガリアの会社であり、その唯一の経営者がクラシミール・イヴァンジスキーであることが判明したのである。

2018年のランド研究所の調査によると、ゼロヘッジは「クレムリンの路線を頻繁に反映する」政治ニュースや論評を掲載しており、ブルガリアとのつながりに興味をそそられたのだ。ゼロヘッジの最もロシアに都合のいいものの中には、ミューラー調査をデマと描く記事、元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパリの毒殺は英国情報機関による演出だと主張する記事、スティール文書が4chanのインターネットトロールによる「ファンフィクション」作品であると断言する投稿があった。米国情報機関のために仕事をしてきた民間情報アナリストのアンドリュー・ウェイスバードは、ゼロヘッジが、インターネットの最も暗い過激で極端な論者に広める陰謀サイトの網の中心にあることを発見した。

ゼロヘッジは、2014年にウクライナで撃墜され、乗員298人全員が死亡した旅客機、マレーシア航空17便をめぐる論争に特に関心を持っている。オランダ主導の犯罪捜査は昨年、4人を起訴し、うち3人はロシア情報機関とつながりがあったとして、同機の撃墜容疑で逮捕された。刑事告発の数日後、ゼロヘッジは、米国がウクライナ東部へのNATO侵攻の口実としてMH17墜落事故を利用しているとする記事を、根拠もなく掲載した。大西洋評議会のプロジェクトであるデジタル・フォレンジック・リサーチ・ラボの分析によると、ゼロヘッジは英語で書かれているにもかかわらず、この偽情報の物語はロシア語のメディアで取り上げられ、"英語の陰謀報道とロシア語の親クレムリン派メディアの相乗効果 "を実証しているとのことだ。

同サイトの政治的コンテンツの多くを書いて1年で10万ドル以上を稼いだというコリン・ローキーという元ゼロヘッジ社員は、誤解を招くような形で問題を組み立てるプレッシャーを感じたと主張している。「私は自分の投稿にできる限り真実を注入しようとしたが、その余地はない 」と、ローキーは2016年にブルームバーグに語っている。「ロシア=善、オバマ=バカ、バッシャール・アル・アサド=慈悲深い指導者、ジョン・ケリー=マヌケ、ウラジミール・プーチン=国家運営の歴史上最も偉大な指導者」
ゼロヘッジは、公開された返答の中で、ローキーを "deranged "(狂ったやつ)と非難し、批評家(ローキー)はこのウェブサイトをロシアの偽情報発信源と誤って呼んだ、そして「単に我々が親米派の脚本に従うことを拒否したからに過ぎない 」と返答した。

このようなことから、私に対する刑事告訴はより不可解なものとなった。なぜ、ブルガリアで?なぜ訴訟ではなく、刑事告訴なのか?なぜ、このサイトとブルガリアの繋がりに注目させるのか?ひょっとしたらロシアとの繋がりの方の可能性か?しかも、ほとんど誰も読んでいないような記事で?
私が神経を逆なでしたのは明らかだ。でも、どうして?私は何につまずいたのだろう?

ブルガリアは、共産主義という過去と向き合いながら、私に対する刑事告発を行った。ブルガリアは現在、NATOとEUの両方に加盟しているが、歴史的にも文化的にもロシアと密接な関係にあり、冷戦時代には最も忠実な属国の1つだった。そのロシアが、今もなお影を落としている。2006年、ブルガリアがEUに正式加盟する準備をしていた時、ロシアの長年の駐EU大使であるウラジーミル・チゾフは、「ブルガリアは我々の特別なパートナー、EUのトロイの木馬のような存在になるのに良い立場にある」と述べた。昨年、ブルガリア当局は、ロシアが非政府組織を利用して同国の対西側政策に影響を与えていたことを調査するスパイ活動調査で、社会党議員を起訴した。調査の結果、「プーチンのソロス」と呼ばれるロシアの大富豪で超国家主義者のコンスタンティン・マロフェーエフが、国内から追放されたのだ。

「ブルガリアは国でもなく、国家でもなく、ロシアの基地として機能している」と、ブルガリアの著名な政治ブロガー、イヴォ・インジェフが教えてくれた。「彼らはロシア国家の代理人として働いてくれる人をたくさん持っている 」と。アメリカ人の無知が、この国をロシアの対米情報戦の絶好の舞台にした。「ブルガリアは、誰でもない(無名)だ。一般のアメリカ人には知られていない。」と彼は言った。

ブルガリアに対するアメリカの無知は、ロシアの対米情報戦の完璧な中継地となった。


ブルガリア政府とつながりのある複数の情報筋が、ゼロヘッジもトロイの木馬ではないか、と私に語った。ブルガリア政府の元高官は、「ブルガリア情報機関のプロジェクトだと信じている」と語った。「モスクワからの支援や資金提供なしに独自に乗り出すとは考えにくい」と。政府との関係から名前を伏せたある学者も同意見で、私に対する刑事告訴はゼロヘッジとモスクワとのつながりを証明するものと見ていると語った。「影響を受けたのはロシア人である可能性が高い 」「そして、彼らは、ゼロヘッジを運営しているサークルのブルガリア人を煽って、刑事告訴をさせたのかもしれない。」と彼は言った。

その根拠は間接的なもので、主にクラシミール・イヴァンジスキーの過去の交友関係から来ている。「彼の経歴をよく読むと、彼の影にKGBがチラつくのが見てとれる」と、ブルガリアで私の代理人を務めたニコライ・ハジゲノフ弁護士は言った。

イヴァンジスキーは、ソフィアの英語学校で学び、1971年にワルシャワ経済学校を卒業後、ブルガリア外務省で短期間働き、軍に所属した後、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせた。記者時代のブルガリアの報道は、共産党のプロパガンダが主な任務であった。イヴァンジスキーの経歴によると、海外特派員として十数年を海外で過ごし、アフリカの様々な戦争に「特使」として参加したという。また、1974年から国際ジャーナリスト機構の会員であることも誇らしげに語っている。この機構は、機密指定を解除されたCIAの調査によって「ソ連のプロパガンダの道具」とされたフロント組織である。

ソ連崩壊後、イヴァンジスキーは「中立ブルガリア」という運動に参加するようになった。この運動は、ブルガリアを「中立」、つまりNATOから外すという目標をモスクワと共有しており、まさにロシアの代理人のような存在だった。「中立ブルガリア」でのイヴァンジスキーのパートナーは、ブルガリアの冷戦時代の諜報機関「国家安全保障委員会」で重要な役割を担っていた共産主義者の将軍の息子である。 この元政府高官は「我々は核心部分の話をしているんだ」と言った。

現在、イヴァンジスキーはブルガリアで「ストロゴ・セクレトノ(トップ・シークレット)」という自分の陰謀サイトを運営している。私に対する訴状に記載されたもう一つの「犯罪」は、このストロゴ・セクレトノの露骨な反ユダヤ主義を指摘していたことだった。例えば、最近の投稿では、コロナウイルスはロシアと中国を弱めるために西洋の「結託したシオニスト」によるバイオテロ行為だと断言している。イヴァンジスキーによれば、これは彼と彼の「反ファシスト」である家族に対する侮辱であり、ブルガリアではこれを「忠実な共産主義者」と読むそうだ。

イヴァンジスキーは、私や私の事件に関する記事を書いたブルガリアのジャーナリストからのコメント要請には、決して応じなかった。彼は自分のホームページで、自分はKGBとは何の関係もないと書き、そうでないと主張する者は誰でも訴えると脅している。冷戦時代のブルガリアのトップエージェントに関する約14万件の秘密ファイルが破壊されたため、彼の間違いを証明することはほぼ不可能だと、元ブルガリア政府関係者は私に言った。

昔、大学生だった頃、ある人から「Covert Action Information Bulletin(秘密作戦情報速報)」という雑誌を渡された。その雑誌は、元CIAのケースオフィサーで、CIAに反旗を翻したフィル・エイジーが共同設立したものだった。「Covert Action Information Bulletin」は、CIAの作戦や人事を暴露することに特化した雑誌である。最初の数号は、アメリカのスパイを暴露する悪名高いコラム「Naming Names」を掲載したが、1982年に米国議会が「反エイジー法案」と呼ばれる法案でこれを非合法化するまで、この雑誌は続いた。

しかし、その雑誌は、私の第一次ブッシュ政権時代の政治的信条のようなものを反映していた。私は、CIAが世界情勢や企業メディアを支配する悪の勢力であると考え、それに怒りを感じていた。その結果、主流派以外の人間だけが真実を暴くことができると信じていた。それから数十年後、KGBの脱北者の暴露記事を読んで、私はいかに深く騙されていたかを知った。ロシア情報機関の元書記官であるバシリ・ミトロヒンがロシアから持ち出したファイルによると、この雑誌は”KGBの主導で“創刊され、CIAを危険にさらすような資料を提供し続けるためにタスクフォースを組織した、とある(KGBが雑誌を創刊した証拠はない)。(雑誌のスタッフがKGBの役割を知っていた証拠はない)。

これは、インターネット時代の偽情報戦に対する訓話であり、少なくともそうでなければならない。「私のニュースはどこから来るのか」という問いを持つアメリカ人は最近少なくなった。老舗の新聞社が倒産し、FBIがロシアが我々の言論に毒を盛っていると警告する中でも、ゼロヘッジのような人気サイトは勢力を拡大し続け、影響力を持ち続けているのである。

「私のニュースはどこから来るのか」という質問は、最近あまり聞かれなくなった。

ゼロヘッジの投稿はすべて、映画『ファイト・クラブ』でブラッド・ピットが演じた反体制派の人物、「タイラー・ダーデン」の名で書かれている。「我々は匿名の言論を快く思うだけでなく、そうでない言論には疑いを持つべきだと信じています」とゼロヘッジはその「マニフェスト」で主張している。どういうわけか、人々はこれに賛同しているようで、チャック・パラニュークの小説に登場するサイコパスの名前が、議会調査局のレポートや学術的な法律評論の論文に出典として引用されたり、ブルームバーグラジオのゲストとして紹介されたりするのは、奇妙な光景である。

ゼロヘッジの匿名性、ブルガリアとのつながり、親クレムリン的な見解は、一部の金融に詳しい読者を遠ざけた。プロの投資家であるマーク・B・シュピーゲルは、このサイトの「壮大な」市場報道を称賛する一方で、外交政策については無視していると非難している。「私はゼロヘッジを、素晴らしい情報源(金融関連)と悪い情報源(外交関連)の集まりだと思っている」と彼は私に語った。「私は、ニューヨークタイムズは、悪い情報源(かなり全体の論説と国内ニュースセクション)と素晴らしい情報源(特集記事)の集まりだと考えています。」 しかし、他の多くの金融専門家は、このサイトをウォール街版インフォウォーズと見なしている。

『ファイトクラブ』の中で、タイラー・ダーデンは「すべてを失って初めて、自由に何でもできるようになる」と宣言しているが、これはゼロヘッジの創設者、ダン(ダニエル)・イヴァンジスキーの頓挫したキャリアパスを反映する感情である。ソビエト時代のブルガリアに生まれたイヴァンジスキーは、ある種の天才だった。複数の言語を操り、ピアノの名手でもあった彼は、医者になることを希望してペンシルバニア大学に入学するためにアメリカに移住してきた。2001年、卒業後、ウォール街でどれだけ稼げるかを知り、考えを改めた。7年後、インサイダー取引で780ドルを得たとして、証券業界から追放された。ヘッジファンドの仕事を辞め、2009年初めにゼロヘッジを立ち上げる。

イヴァンジスキーの初期の構想は、ウォール街の生意気なブログ「ディール・ブレーカー」を、量的なコンテンツで表現したものであった。イヴァンジスキーは、サイト立ち上げ当初、1日20時間労働をこなしていた。「彼は機械だ」「それしかやることがなかった」と、彼をよく知る人は言う。ゴールドマン・サックスのような金融界の寵児を相手に、高頻度取引の問題に注目したイヴァンジスキーは賞賛され、サイトは急成長した。ニューヨーク・マガジンは彼を「本格的なカルトヒーロー、弾丸を持ったブロガー」と呼んだ。(イヴァンジスキーは、コメントを求めるThe New Republicのメッセージに返答していない)。

数年後、このサイトとその読者は進化を始めた。ゼロヘッジは毎年、その年に最も読まれた記事を紹介しているが、それによると2013年には社会問題やイデオロギー的な問題が金融を抑えて最も読まれた記事となった。その後数年間で読者は急速に増え、愚痴をこぼすミレニアル世代に関する1つの投稿が940万人の読者に届いた。この頃から、憎悪に満ちた有害な意見がコメント欄を賑わすようになった。ゼロヘッジの差別告知には、「このサイトでは、宗教を含む人種差別はいかなる形であれ許されない」とあるが、コメント欄には「joos(ユダヤ人)」への言及やアフリカ系アメリカ人への言及が散見され、それは明らかに事実とは異なる。

ゼロヘッジは本質的に、オルト・ライト(オルタナ右翼)の怒れる白人たちの憎悪と陰謀に満ちた声のフォーラムになった。人種差別主義者、反ユダヤ主義者、極端な右翼、陰謀論オタクは、十分なサービスを受けていない視聴者であり、結果的に利益を生む視聴者だったのだ。最近、ゼロヘッジの「大ファン」だと自称する元ホワイトハウス顧問のスティーブ・バノンは、こうした見過ごされた大衆が、強力な政治勢力に変身させることができる未開発の怒りの源泉であるという同様の認識に基づいて、主にキャリアを築いてきた。

昨年、フェイクブックがゼロヘッジを一時的に禁止したことで、ゼロヘッジとトランプ時代の相乗効果は明らかになった。ゼロヘッジを擁護するために立ち上がったのは、怒りをキャリアにする政治家やメディア関係者だった。ブレグジット党党首のナイジェル・ファラージ、公然と偏見を持つ英国メディアのケイティー・ホプキンス、そしてドナルド・トランプ・ジュニアだ(フェイスブックが「スパムを検出する自動化のミス」と呼ぶものを確認した後、禁止は解除された)。

「検閲は続いている 」と大統領の息子はツイッターに書き込んだ。「(フェイスブック)は彼らに同意しておらず、時折、プラットフォームの明らかな欠陥を叩く。もう、うんざりだ!」

「匿名性は多数派の専制政治からの盾である 」とゼロヘッジの「マニフェスト」には書かれているが、このサイトの元従業員の一人との会話で、ゼロヘッジの匿名性とブルガリアとの不明瞭なつながりに、何か別のものが隠されているかもしれないことに気づかされた。

ゼロヘッジは、要するに、オルト・ライトの怒れる白人達の憎悪と陰謀に満ちた声のフォーラムになったのだ。


domaintools.comがまとめた記録によると、Zero Hedgeの立ち上げから数カ月後、ダニエル・イヴァンジスキーは「zerohedge.com」というドメインを海外で静かに登録していた。最初はリヒテンシュタインとスイスという金融機密で知られる国で、次に2011年にブルガリアで登録している。

これはどういうことなのか、元社員に尋ねてみた。「ダンは、自分のやっていることをアメリカに見られたくないんだ」とその元社員は言った。つまり、若いイヴァンジスキー(息子の方)は、FBIやアメリカの情報機関が自分の行動を追跡することに神経質になっているのだと思ったが、それは間違いだった。イヴァンジスキーは、自分のサイトに何人の人が訪れたかを政府に知られたくないのだ。「5年前、あれは数百万ドルの収益を上げていたはずだ」と、元社員は続けた。「ダンの確定申告を見れば、100万ドルどころの収入ではないだろう」と、元社員は続けた。

ダン・イヴァンジスキーの父親であるクラシミールは、ニュージャージー州の裁判所に圧力をかけた無名の人物の代理人として私を非難した時、ゲームを放棄した。最終ページの彼の要求のリストで、彼は私が共謀していると彼が信じていた人々の名前を私が引き渡すことになっていると言った。

この陰謀の目的は、ニュージャージー州バーゲン郡での離婚事件だった。これは、私が会ったことも話したこともない原告によってもたらされたもので、その原告とは彼の離婚して疎遠になった義理の娘であることが判明した。

ダン・イヴァンジスキーの妻は2018年、夫が自分のウェブサイトに隷属したことに一因する和解しがたい不和を理由に離婚を申請した。夫婦は、一人の子供の監護権、扶養手当、養育費をめぐって争っている。

メディアの要請で、The New Republicに開示された裁判所文書によると、230万ドルの豪邸を含む夫妻の豪華なライフスタイル(架空の人物Tyler Durdenが間違いなく嫌悪するもの)のツケは、ゼロヘッジが払っていたという。イヴァンジスキーの別居中の妻、ブレア・クレスは、訴状で、自分自身と夫婦の子供ひとりの養育手段も、離婚弁護士に支払う資金さえも不十分であると述べている(夫はこの主張に反論している)。(両者の弁護士は、この件について話すのを避けたのか、コメントを求めるメッセージに返答しなかった。

私が見た裁判資料にはゼロヘッジのことは書かれていなかったが、このウェブサイトとそれが生み出す資金がこの事件の争点になっている。イヴァンジスキーの父親は、ブルガリアで私に対して刑事告訴されたことを知らせる電子メールの中で、私が息子の離婚訴訟から、ブルガリアの個人情報保護法および欧州連合の法律で保護されているゼロヘッジのブルガリアでの親会社の登記を含む文書を不法に盗み出したと非難していたのだ。これは虚偽だったが、陰謀サイトのビジネスについて書くことの危険性の一つは、自分が他人の陰謀の中心人物に仕立て上げられることがあるということだ。

というのも、イヴァンジスキーをはじめ、急成長中の陰謀ビジネスで成功した起業家達を動かしているのは、イデオロギーではなく金だからだ。「彼らは、ページビューを稼ぐことを気にしている。クリック数。お金だ」と、ゼロヘッジの元社員であるコリン・ローキーはブルームバーグ紙に語っている。イヴァンジスキーの個人的な信念は、サイトのコンテンツとはほとんど関係がない。別の元社員は私に言った。「彼は、すべてが爆発すると体の2パーセントで信じているかもしれない 。しかし、残りの98パーセントは、これが金になると知っている 。」また、彼をよく知る別の人物は、「彼は読者を引きつけるものを書くだろう 」と言っている。

ゼロヘッジは、初日から利益を上げているというが、このサイトがどれだけ儲かっているかは、厳重に守られている秘密である。ダン(ダニエル)・イヴァンジスキーは、ゼロヘッジのビジネス上の秘密が漏れないように、離婚の際に妻に秘密保持契約書にサインさせるという異例の措置を取った。「彼はとても秘密主義だ」と彼をよく知る人物は言い、ウォール街を離れてゼロヘッジを立ち上げた方がより有利なキャリアパスだったのかもしれないとも付け加えている。ダニエル・イヴァンジスキーと彼の妻は、ニュージャージーにある自宅の170万ドルのローンを2年足らずで完済していることからも、このサイトがいかに利益を生むかがわかる。

ゼロヘッジが主張するように、ロシア、アメリカ、どの政府の誰とも接触したことがないというのは、事実かもしれない。同時に、ゼロヘッジがどこからどう見てもロシアの偽情報操作であることも事実かもしれない。陰謀と偽情報の奇妙な世界では、両方のことが同時に真実となることがある。インターネットの歪んだインセンティブによって、ゼロヘッジのようなサイトは、ウラジーミル・プーチンの助けなしにクレムリン寄りの内容を掲載するようになる。陰謀や親ロシアのプロパガンダによって、視聴者がゼロヘッジを飾る広告をクリックし続けるなら、それが彼らの手に入るものなのだ。これがわれわれが向かっている未来だ。「ニュース」は読者の注意を引くものなら何でもよく、それが何であれ、収益を最大化する限り、真実と嘘、事実とプロパガンダの区別をしない機械によって配信される世界である。市場の冷たい論理を出版に適用したものだ。

ブルガリアの地方検察官が、私が犯罪を犯したという証拠が不十分であるとして告発を断念した後、私は、告発のきっかけを作ったのはロシアやブルガリアの諜報活動ではなく、もっと身近なところにあるものだと気づきいた。私は金のなる木を脅かしたのだ。タイラー・ダーデンは銀行にいくら預金があるか、財布に何が入っているかで定義されるわけではないが、ダン・イヴァンジスキーは自分の名前で反体制的な記事を書いて財を成した男であり、まさにその通りでなのである。


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