見出し画像

「米国とロシアにおけるホワイトナショナリズム(白人民族主義):国境を越える絆、国内への影響」

Harvard International Review 4/29/21の記事の翻訳です。

米国でホワイトナショナリズムが再び脚光を浴びている。過去10年間、米国はオルト・ライトの驚くべき台頭を目撃し、米国内だけで330人の死者が右翼の過激派行為に起因している可能性がある。2021年1月6日の米国連邦議会議事堂への攻撃とそれに至る出来事は、これらのグループが米国の民主主義にもたらす脅威を浮き彫りにしたに過ぎない。

しかし、米国における白人民族主義者集団は、真空地帯で活動しているわけではない。特に米国とロシアの組織の間には、国境を越えたつながりがあり、非常に厄介な存在である。2004年、白人至上主義者のデイビッド・デュークはロシアを「白人生存の鍵」と呼び、同じく白人至上主義者のリチャード・スペンサーは最近、ロシアを「世界で唯一の白人パワー」と評した。ロシアのプーチン大統領は、米国の多くの白人至上主義者にとって希望の光となっており、この両国の民族主義者集団の間につながりがあることは、ほとんど驚きではないだろう。

ホワイトナショナリスト達の国境を越えた結びつきは、暴力的な過激主義の脅威とそのグローバル化をいかに抑制するかという重要な問題を提起している。本稿では、ロシアの白人至上主義組織がどのように国際的影響力を行使しているか、過激派グループがどのようにソーシャルメディアを活用しているか、そして国境を越えた白人至上主義の脅威を抑制するために米国はどのように対応すればよいかを検討する。

ムーブメント

ロシア帝国運動=RIMは、ロシアのサンクトペテルブルクに拠点を置く、極右の白人至上主義過激派組織である。また、西側で白人至上主義を煽るために活動しているグループの一つでもある。

広報担当者によると、RIMは 「世界中の右翼、伝統主義者、保守派の組織と連絡を取り続け、”右翼インターナショナル“を創設する 」ことを目指している。

この取り組みには、RIMの代表者が世界中を訪問することと、彼らのメッセージをより多くの人々に伝えることを目的としたソーシャルメディア・キャンペーンの両方が含まれている。

例えば、RIMは2015年に世界保守運動(WNCM)を組織し、リベラリズムの西洋と価値観に反対する世界中のホワイトナショナリストを招集した。

こうしたイベントの開催以外にも、RIMの代表者は米国を訪れるなどして、世界中のホワイトナショナリストと個人的に関わりを持っている。そうしたつながりは、RIMの関係者が米国のホワイトナショナリスト、マシュー・ハインバッハを訪問した2017年にまでさかのぼる。

ハイムバッハはその後、2017年に米バージニア州シャーロッツビルで開催された「ユナイト・ザ・ライト」集会の主催者のひとりとなる。

こうした取り組みを通じて、RIMは、白人民族主義者グループ間の国境を越えたつながりを強化し、互いの暴力的行為に賞賛の念を抱かせるように努めた。

更に、RIMは準軍事組織であるパルチザンのコースに積極的に個人を採用し、帝国軍団と共に戦うために彼らを訓練してきた。

RIMのキャンプに参加する参加者は、国際的なテロ攻撃と結びついている。例えば、RIMのキャンプで訓練を受けたスウェーデンのネオナチ2人は、2017年にスウェーデン西部で起きた爆破事件の実行に協力した。

米国の情報機関内では、白人至上主義者の国境を越えたつながりの危険性を強調する声が多く聞かれる。FBI長官クリストファー・レイは、国内テロを推進する白人至上主義者の役割を警告し、国土安全保障省は米国内の社会的・人種的緊張を引き起こすために最も懸命に働いている国としてロシアを挙げている。

2020年4月、トランプ政権はロシア帝国運動を特別指定グローバル・テロリスト(SDGT)グループに指定し、民族主義組織として初めてそのレッテルを貼られた。

SDGTに指定され、RIMの指導者がテロリスト監視リストに載ったことで、同様の暴力的で至上主義的な組織が今後も非難される事が期待されている。しかし、RIMの行動に対するロシアの反応と米国の人種的緊張に対するロシア自身の見解は国際的現象としてのホワイトナショナリズムの理解を複雑にしている。

SOVA情報分析センター代表、アレクサンダー・ヴェルコフスキーが主張する様に、ロシア当局はRIMの行動を知っていて容認している。従って、クレムリンからの直接的な支援がなくても、国内のテロ対策の圧力がないため、ロシアはホワイトナショナリズムを西側諸国に対する道具にすることができたのである。

つまり、RIMのような集団が米国内の白人至上主義を煽り、国内の緊張を激化させ、民主主義に対する人々の信頼を弱めているのである。こうした国際的な影響に対処することは、白人至上主義を抑制するだけでなく、民主主義を守るための重要な鍵となる。

ソーシャルメディア(SMS)による絆の構築

白人民族主義グループの国境を越えた繋がりを理解するには、彼らの成長を促進した道具であるSMSを考慮する必要がある。ソーシャル・ネットワークを道具として、RIMの様なグループは効果的にSMSを駆使してメンバーを集め、自分達のイデオロギーを広めてきた。

Twitterのような主流プラットフォームが白人至上主義者のアカウントを削除し始めても、過激派グループや個人は、互いにつながり、新しいメンバー候補に接触するための代替的な安全地帯を見つけつつある。

ソーシャルメディア・プラットフォームの移行は、こうした過激派組織の活動にとって、さまざまな成功をもたらしている。過激派の巣窟となっていたTelegramは、最終的にアプローチを変更し、過激派に関連する数千のチャットやチャンネルを削除した。Parlerのような他のプラットフォームでは、一部のユーザーから発せられる暴言や米国での暴力との関連性が問題となり、このプラットフォームは長期間のオフラインに至った。ほんの一例に過ぎないが、暴力的なコンテンツに対する規制が緩い新しいスペースを継続的に見つけようとするこうした努力は、こうした組織の維持・拡大におけるソーシャルメディア・ネットワークの重要性を裏付けている。

なかでもRIMは、ソーシャルメディアの活用が重要な役割を果たす白人至上主義組織の一例である。VKページ、帝国軍やパルチザンのソーシャルメディア、ウェブサイトやTelegramチャンネルに至るまで、RIMは強固なソーシャルメディアの存在感を誇っている。

SDGT(特別指定グローバルテロリスト)として指定された後、そのオンラインコンテンツはより穏健なものになることを余儀なくされたが、このような暴力的なメッセージの拡散を防ぐためには、それまで強固だったソーシャルメディアの存在を抑制する圧力が重要な役割を担っている。

白人のナショナリズムが不満の種をまく道具として利用されることがあるように、ソーシャルメディアもまた同様だ。今回もまた、ロシアは自らのアジェンダのためにソーシャルメディアを利用することを選択した。

ロシアのインターネット調査局は、2020年の選挙期間中、ソーシャルメディアを通じて偽情報を流す手法に着目し、極右の人々に人気のあるGabやParlerといった小規模なプラットフォームに焦点を当てた。

極右が好む小規模なソーシャルメディアプラットフォームへの転向は、この戦略がもはやそれほど有効ではないことを示唆しているが、それでもこの転向は、極右の支持者の間で混乱を煽り、政府に対する信頼を更に弱めるために費やされている努力を浮き彫りにしている。

世界中のホワイトナショナリストによる世論への「ソフト」な影響は、白人至上主義のあからさまな暴力と同様に、米国の民主主義にとって潜在的に危険である。更に厄介なのは、こうした国境を越えたつながりが十分に理解されていないという事実である。

場合によっては、過激派グループ間のつながりは、影響力ではなく合流度の問題であることもある。ロシアがホワイトナショナリストの暴力を直接的に生み出したわけではないという事実は、更なる緊張を誘発し、人種差別的イデオロギーを増幅させる行動の免罪符にはならない。

極右の人々が「政治的解決」はもはや不可能だと考え始めると、暴力的なレトリックの増加は、暴力と分裂を拡大させる扉を開くことになる。更に、個人同士が自由に繋がり、情報を消費できるSMSの分散型構造により、右翼のレトリックを吸収した「一匹狼」が暴力に訴える可能性はますます高まっている。

次は何か?

ドナルド・トランプ前大統領は、米国におけるホワイトナショナリズムの脅威を過小評価し、その国境を越えた結びつきを最小限に抑えているという批判に直面している。ロシアが米国内の人種的緊張を煽り続けたことで、RIMのようなグループが世界中につながりを築き続けることが容易になったのだ。

RIMがSDGTに指定されたことは、国際的なホワイトナショナリズムの脅威と戦うための一つのステップに過ぎない。米国における白人至上主義をめぐる話題の多くは、国内のソーシャルメディアやルーツに焦点が当てられてきた。白人至上主義者による国境を越えた相互称賛の可能性を考慮することは、ソーシャルメディアがこうしたつながりやこうした組織の成長を促進する方法について、よりよく理解するのに役立つに過ぎない。更に、白人至上主義が持つもうひとつの危険性、すなわち国際的なプレーヤーによって分断を生み出す道具として利用される可能性があることも明らかになった。今後、このような国境を越えたつながりをより深く理解することで、国内に根を張り、悪質な影響力を拡大させることがないようにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?