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神様の不在

絶対に願いを叶えてくれる神様がいるんだ。あの神社でお賽銭を投げてお参りして、絵馬に願い事を書けば必ず叶うよ。

塞ぎ込んでいた私に彼女はそう言った。
一緒に行こう、大丈夫、と言う彼女の背中を追って、私は山の中の小さな神社に辿り着いた。

言われるままに私はお賽銭を投げて、柏手を打ち、心の中で強く念じる。
どうか、あいつが苦しんで惨めに死にますように。
目を開けると、隣りで彼女がまだ祈っている。

絵馬に願い事を書いて、私たちは神社を後にした。
こんなものは気休めだと思った。神様なんていなくて、あいつも死なない。それでも私みたいに救われない人がたくさんいるから、あんな神社があるんだろう。
けれどせっかくここまで連れてきてくれた彼女にそんなことを言うのは忍びなくて、私は黙っていた。

願い事、叶うよ。

私の心の中が透けて見えたのだろうか。彼女は真面目な顔でそう言った。

もし神様がいないなら、私が叶えてあげる。

私は何も言わなかった。山道を一歩一歩下りていく彼女の歩みは危うくて、私はなぜあの神社が山中に建てられたのか、解った気がした。

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