雪月風花 読了
雪月風花。#にじそうさく02 で出版されたにじさんじ文芸部の合同誌。
季節ごとのテーマで分かれた短編集に当たる同人誌であり、同人誌とは思えないような濃密な内容だったと思う。
四季ごとのテーマに分けられた小説は、ハッピーエンドからバッド・ファンタジーなど様々な展開をしており、どの小説も読んだ後、思わずほっと一息ついて味わってしまう、そんな最高のものだった。
*惜しむらくは、小生がDL版で購入してしまったことだろうか。この同人誌は本当に””本””で読みたかった。(追記)我慢できなかったので買いました。
春
・『うそとさくら』珈琲さん
手のひらクルクルするような樋口さんの思考が、彼女が好きすぎて本当にしょうがないって感じを伝えてくるので、はじめずっとニヤニヤしながら読んでしまう。その中でも、樋口さんが彼女へ抱く尊敬の気持ちや、彼女の等身大の姿をところどころで感じとる描写も入ることで、凄く感情移入がしやすく、思わず入り込んでしまう。
タイトルにもあるように『うそ』が関係するこの小説。中盤からどんどん幸せな雰囲気だけでなくなり、その不安感は読んでいるこちらでさえ目が離せないものになっていく。
そして最後。正直小生は馬鹿みたいにないてしまった。終わり方が良すぎた。小生は頭おかしくなりながら泣きはらした。本当に彼女の一言を盛り込んだ最後の一文が大好きなんだ。
・『ゴーストロール』タチバナさん
にじさんじ外から唯一出演するこの作品。主人公の椎名の設定を上手く取り込み、さらによく練り込んで落とし込んだ舞台設定が、より没入させてくれる少し不思議な、でも怖くて、でも面白くて。読んでいてハラハラドキドキしてしまう。
描写が非常に生々しい感じがあって、より恐怖感を掻き立てられるが故に、絶望感や同情、そしてそれを心配する人々(?)の気持ちにも共感が出来て楽しかった。
でもその中に、出演者独自の言い回しだったり行動が的確に盛り込んで合って、思わずそんな怖い雰囲気なんてなかったように、シリアスなんて吹き飛ばしてしまうような、怖いだけじゃない面白い!と思わせてくれる一作だった。
・『花より団子』なん。さん
幸せすぎて、本当にこんなことあったんじゃないかな、あってそうだなぁ。なんて思ってしまうくらい、ほのぼのとした読んでいるこっちまで笑顔になるような一作。この作家さんは、セリフの言い回しが、本当に本人が言ってる声で再生されるくらい丁寧で、可愛いセリフ・面白いセリフまで思わず「言いそ~~~~」って笑ってしまうくらい。ものすごく読みやすくて、きっと小説苦手な方でも、すっと読めるんじゃないかなと思う。
かといって、幸せな日常だけで終わらせるのではなく、終盤では思わず「おぉ」と声が出てしまうくらい綺麗にまとめてあって、出演者をもっと好きになる。もっと応援したくなる。そんな素敵な作品。
・『春三日月と懐中銀河』沼中ももやろうさん
一人が暇で、寂しい月ノさんのお話。暇な時、ぐるぐると回る思考回路が丁寧に描写してあって、委員長の頭の中を垣間見ている感じが好き。暇だと、手持無沙汰だとずっと言い続けているけど、彼女がいたら、彼女だったらっていう気持ちが溢れているのがすごくかわいい。
寒い・痛いなどの間隔の描写がすごく共感しやすいうえに、とてもきれいに描写してあるため、委員長に入り込んでいける感覚があった。
寂しい気持ちも、彼女がいれば、春三日月に乗っていけたらいいななんて大きな夢も、一緒にいたいっていう願望も抱いてまた日常がはじまるのかななんて思ったら、読み終わった後すごく幸せになった。
夏
・『濡れぬ先に露など厭わず』小芽ゆきさん
主人公である、えるちゃんの心理描写と、行動、そして見て感じたこと、全ての地の文が綺麗だった。雨にうたれる窓の描写綺麗すぎて何回も読み直してしまう。途中のトリートメントで変な声出すくらいには、いじらしさがたまらない。
えるちゃん自身の脊髄的な言動が、ある意味自分の中にちゃんとした価値観があって、思いやってるのかなと思うような、ある種の信仰にも近いような彼女への思いが、ふと出てくるのが本当に好き。それを悟った上での彼女の行動に、正直涙を禁じえなかった。
最後の最後でエッチすぎて叫んだ。甘えたいえるちゃんもそれを理解して許す彼女も。
・『DOORS』そんやまスズメさん
夏休みに、2人でバッティングセンターに行くお話。不思議なまでにレトロな街を、断片的に表現されるのが余計に、その不可思議さとぞの町並みを想像させてくれて楽しい。しかもその中にも様々な伏線がはってあり、もう一度読み返したくなる作品。
楓ちゃんと、彼女の違いを少し遠くから見せつけられるような、楓ちゃんの好きをさらに自覚させるような不思議な感覚。読んでいて先の展開が気になってしょうがなかった。
そして最後の1文が、すごく好き。彼女の無邪気で、それでいて不思議でなんだか神々しい姿がありありと脳裏に浮かんだ。
・『よだかにさえもなれやしない』紅花さん
風邪を引いた緑仙と、それをお見舞いにくる子。そして二人の思い出であり、過去のあの子。
熱が出て朦朧としているはずなのに、寂しさが少し楽になったのか、煽られて負けじと踏ん張っているのか、まるで普段のように繰り広げられる会話。
彼女の悪戯っぽいところ、そして少し手慣れた看病の姿がすごくやさしくて、本当に根がいい子なんだよなぁってなってた。
朦朧と思い出されるあの子。同じような思い出だけど、彼女とはまた違う思い出。そこからはあの子のことはしっかり覚えているところもあって、読んでるこっちも心臓が締め付けられた。
最後に、まるでハッピーエンドのようで、きっとそんな優しいものじゃないんだなと、少し考えさせられる作品でした。
・『夏の幻を胸に抱いて。』魔王ぽむさん
詩子お姉さんを中心とした不思議な夏の思い出。子供時代の心の動きや、それに伴う行動が子供らしくて本当に可愛い。だからこそ、その終わりへの不安感と、現実のいらだちが引き立っていて、展開が気になりすぎた。
詩子お姉さんの思い切りのよいところや、優しいところ、性癖、色んな魅力がふんだんに活かされていてより好きになった。
だからこそ、不思議で悲しい物語がものすごく映えていて、悲しくも美しい、本当に大切な思い出を読んでいる小生にも植えつけられた。
そこで終わらないのが、また詩子お姉さんの配信のネタや魅力を本当に最高に伝えてくれて、読んだ後に思わずヒェッって読み返してしまうくらいには、最高の落ちでした。
秋
・『ちいさな愛のはじめかた』亜久野千嘉さん
ちーはじ二人のそれぞれの視点を、二つの短編でまとめた作品。
ちーちゃんの小さい身体でも、身振りとかの大きさとか可愛さが所々に表れていて、本当にかわいい。さらに、子供ながらの行動だったり、少し舌ったらずな話し方が端々からにじみ出ていてかわいい。ちーちゃんが来るまでの、ある意味すごく人離れした独りの暮らしと2人のあたたかい暮らしの違いをひしひしと感じる。そして離れ難い気持ちも。
また「視線」や「声色」のように、2人の体格差や注目するところが違うのもすごく好き。2人が幸せにこれからも暮らして欲しいなって凄く思った作品だった。
・『或るハロウィンの夜に』いちのせかえでさん
OD組の劇場を元としている作品。表現がとても綺麗で、だからこそどこかおかしい世界というか、少しの違和感が引き立つ感じが好き。なかなか繋がりのないメンツとも違和感なく会話していて、その中にも色んなにじさんじの思い出が入っていて思わず笑ってしまうところもしばしば。でも誰一人としてセリフや考え方に違和感がないのも、読んでいて楽しかった。
かなり難しい設定のはずだけれど、それを一切殺すどころか作風に取り込んで活かしきった作品だと思う。あまりOD組を見れてない小生だが、すごく本家が気になった。
・『楓になれない楓』海蓮さん
楓ちゃんが主人公で、彼女と楓を見に行くお話。
読点の使い方が上手い作品だと思う。セリフの部分で入る読点が、すごく言い方や雰囲気、表情を少し曖昧にしている感じで想像するのが楽しい。
地の文にも少し若い感じの部分があるのが、楓ちゃんの思った事という感じが滲み出てて好き。
心情と描写の切り替えがすごいすき。主観的な小説の醍醐味だと思う。終始幸せそうな2人と、最後の変化を楽しむような終わり方がスッキリしていて、読みやすかった。
・『輪っかの中で過ごす永遠の秋の日』函館なお部長さん
リリちゃんと彼女を取り巻く不思議で苦しくて苦しくてそして愛情たっぷりの作品。セリフとセリフの間に細かく彼女の行動の描写や、リリちゃんの思考が入り込むことですごく主観的な、まるで自分の事のように読めてハラハラしてしまう。アプリや世界線など、全部かなり難しいテーマであるにもかかわらず、全編読みやすい上に色んな考察が捗る。
しかも行動が全部好きだから、あなたが好きな私がっていう愛故っていうのが、少しの虚しさを感じさせられて好き。色々言いたいけど、かなり伏線が多くて語れないのが辛い。
最後の改行。天才だと思う。
・『大切な思い出』ぽこさん
アキくんのカフェに遊びに来た1期生のお話。秋風の寒さが丁寧に描写されてるからこそ、皆が来てからの暖かい空気感が心に染みる。みんなとの掛け合いも、普段の会話だったり、共通点を溶け込ませていてそれでいて和気あいあいとしているのがすごく優しい世界。アキくんが優しい言葉でみんなの特徴や感謝の気持ちを語るの本当に泣いてしまう。
羽や瞳、背景の描写に至るまで綺麗で暖かで、幸せすぎて泣いてしまうのは久々だった。
最後の最後、タイトル回収するの本当にズルいなぁ(いい意味で)って泣きながら読み直した。
冬
・『月へ落ちて』ゴンさん
楓ちゃん視点のある冬の日のお話。凄く感覚というか、寒さや温かさ、重さの描写が、さりげなくそれでいて想像しやすいから砂糖で死ぬ。さらに2人の日常というかあたりまえの行動がすっごいイチャついててすごい。かわいくて、えっちさでドキッとして、でもやっぱりかわいくて。
彼女との幸せな日々を噛み締めて、愛を育てていく感じが読んでいるこっちすらも幸せになる。砂糖で死ぬ。
雰囲気の切り替えがうますぎて、突然だけど違和感なく雰囲気がガラッと変わるの、本当に天才。
・『聖典「月ノ美兎」』SYSTEMAさん
月ノさんがライブをして神になるお話。ものすごく異色な小説だった。観測者という客観的な視点で描かれる神に至る道は、血のにじむような努力や、不運のような幸運で。さながらマジックのような科学が、実際に科学的にもそうなってるのが、ただのSFじゃなくて現実味を帯びてるからこそ説得力が凄いんだと感じた。
しかも所々にVのネタが入っていながらも奇跡のような話に、最初は不思議に思う気持ちからドンドン作品に引き込まれていく文章力すごい。
・『ライトヴァース』マルポッキーさん
剣持くんと、思い出せないなにかの話。言葉選びというか言い回しが、本当に剣持くんにそっくりだから、地の文が多いにも関わらず軽快な語りでスラスラ読めるのがすごい。
何かを思い出せないその感覚、狐につままれたような不思議な体験、全てが剣持くんの言葉で語られているようにしか見れなくて、映画を見ている感覚にちかくなる。
言葉へのこだわりがあるからこそ、全てのセリフ部分への重みがすごい。最後の言葉に胸を打たれた。
・『春を待つ』森野さん
えるちゃんが人を待つお話。長命のえるちゃんだからこそ感じる、変わるものと変わらないもの、大切な日々。280年の長い間の変わらなかったものが、彼女や皆と出会って少しずつ変わっていったこと、変えられない受け止めたいと思っていた彼女の変化を、美しい景色の描写と様々な移り変わりで表現してあり、引き込まれていく。セリフが少ないからこその言葉の重み、感情が引き立っていて好き。
季節の移り変わりを、日々の変化を大事にしたいと思わせてくれる作品だった。めっちゃ泣いた。
・『Bucket List』わいんりばーさん
月ノさんが彼女とオーロラを見に行くお話。彼女の不安な気持ち、それを察しながらも楽しみだと返す月ノさんに、幸せな日常の少し不安定な部分を見ているようで、引き込まれていた。終盤の場面転換、天才だった。小説だからこそできる表現だと思う。
星空が綺麗だった。彼女の涙が綺麗だった。映像で、写真で見たらたったそれだけしかきっと言葉が出ないような、情景が目の前で広がるような感覚すらした。
何度読んだって、きっと私はこの作品で泣くんだろうなと思う素敵な作品だった。
イラスト・扉絵
イラストも力作揃いで、本当に文芸部?と疑いたくなるほどだった。一人一人の個性が出ていて、ぱっと開いた瞬間に「あの人だ!!!」と分かるくらいには、愛がこもっていた。実際に小説を読んだ後に見直して、思わずにっこりしながら読み返したくなるものもあって、すごく好き。是非裏話とか聞いてみたい。
扉絵の俳句(詳しくないので定かではない)が凄く好き。浅学ゆえ、きっと作者の意図は掴めていないかもしれないけども、その季節の美しい雰囲気が出ていて、季節ごとに気持ちを切り替えて読むことができ、すごく楽しかった。
言いたいことの半分も言えていないものの、ネタバレとか本編読んで泣いてくれという気持ちがあるので、今回はここまで。
参加された方々に最大限の感謝を。素敵な作品を本当にありがとうございました。笑って泣いて、幸せになった作品です。出会えてよかった。
普段小説読まない人や、読み応えのある作品を探している方、もしちょっとでも興味が湧いたなら是非読んでほしい。あなたにもこの感動を味わってほしい。
《リンク》
雪月風花(ダウンロード版) | 2434文芸部 https://booth.pm/ja/items/1351106 #booth_pm
雪月風花 | 2434文芸部 https://booth.pm/ja/items/1355120 #booth_pm
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