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ご自由にどうぞ

今朝、会社に向かう途中のこと。ふと近所のアパートの前にいつもは見かけない長方形の大きな箱がいくつか並んでいるのを発見。ちょっと近づいてよく見てみると、中にはぎっしり、かわいいボタンやレース、布の切れ端などが詰まっていた。箱には黒のマーカーで大きく「ご自由にどうぞ」のメッセージ。

もっとゆっくり見られたらよかったのだけれど、今日は急いでいたのでゲットならず。ちらりで通り過ぎてしまった。

ところで、この街は若者がとても多い。アパートがたくさんあって人の入れ替わりが早い。私もお隣さんにあったことは1回きり。あったというか鉢合わせて会釈したくらい。そんな感じの街なので、ここら辺に住む皆んなのことを何一つ知らない。だから今朝発見した「ご自由にどうぞ」はちょっと嬉しくなった。

だって、すぐご近所で、見たこともないその人はひっそりと暮らしていて、手作りのものが好きで、それか縫い物のお仕事をしていて、毎日ちくちくとボタンやレースを使って素敵なお洋服や小物やカーテンなんかを作っていたのねなんて考えるとわくわくしてしまう。

そして、ある時その人にとってはもう要らないものとなって。なんで要らなくなったのかは分からないけれど、その人は何かをキュッと心に決めて身の回りの整理を始めたのかもしれない。周りの誰にも知られずに、せっせと大量のボタンやレースを大きな箱に詰めた。たくさんお世話になりました、でももう、ご自由にどうぞ。あなたも私もお互い何にも知らないから、それがいいの。ご自由にどうぞ。

近いある日にきっとその部屋は空になる。小さな手芸屋さんは誰にも知られずひっそりすっかり。何にも残さずさっぱり。ご自由ってそうゆうことかな。

なんて勝手な妄想をしていたら遅刻しそうになったのでした。

「ご自由にどうぞ」

羽みたいに軽やかで、明るくフレンドリーで、なかなかいい言葉。明日まだ箱があったらのぞいてみようかしら。



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