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一緒の車両で同じ景色を共有できてとてもうれしい

ひとつの空間に集まった人たちは、ただ当たり前の日常として、何の目的もなく、お互い踏み入れることなく混じり合うことなく、身を寄せ合っている。そんな体験は電車やバスなどの公共交通機関以外でしたことがない。電車で出会うひとはみんな普通の人で、でもよく目を凝らすと一人一人が愛おしい。私は一緒に居合わせた、その人たちと手を取り合って踊りたい。電車で出会った人たちと私の試行エッセイ。

高校生の女の子4人組が電車で話している。議題は、どんな仕事で稼ぐか。「YouTuberやInstagramerは停学になるかも」「停学になったらまずくない?」「停学なら良くない?」「やー高校生で停学はキツイよ」「なら小説家かなー」なんで、なら小説家なんだろうと思ったけど、小説家、いいやんと心の中で賛同を送る。そして、たわいもない会話は続いていく。「転売ヤーかな?」「それは人生売りすぎ」私も高校生の頃、将来の話とかするのとても楽しかったなと思い出す。でも転売ヤーという職業名はなかったかも。議題はあっちこっちに飛んでいき、「お父さんが仕事辞めたらどうする?」「ぎゃーうちはやばい!」という話をしている。「でも、私立の高校に行かせてもらえているだけ豊かだよね」「やー本当にね」と話している。自分が恵まれている環境にいると自覚しているなんてすごいことだと思う。そのまま、そういう他者への優しい意識を持ち続けてほしいと願う。

@京王線 2023年4月11日 渋谷行き


通路挟んで座っている人たちの中で、私を含めて4人が本を読んでいる。4人はなんとなくだけど、多い気がする。だいたいみんなスマホを触るか寝るかしちゃうよね。それも若い人がそのうちの2人占めている。前の男の子は『良いコード悪いコード』的な技術書。隣の女の子は、小説(隣なので、本のタイトルは見えなかった)を読んでいる。そしておじいちゃんがなにかしらのソフトカバーの本(紀伊國屋書店のブックカバーがかかっていた)を読んでいた。私も余裕がある時しか読めないけれど、この時は石山修武さんの『セルフビルドの世界』を。なんだかんだ本を読む人が好きだ。本を読んでいる人たちで視線で交わされる「あ、この人も本を読むんだ」っていう小さい交流が好き。この時も車両で言葉はないが本を通した交流がなされていたんじゃないかな。

@京浜東北線 2023年4月14日 高崎行き


ちょうど夕暮れ時の18時30分くらいに電車に乗った。長めの電車移動の時に、座れた喜びはひとしお。川上未映子さんの『安心毛布』を読んで過ごしていると、ふと目に飛び込んできたのは、とても綺麗な夕暮れ。東横線は、多摩川があるから、夕陽と夕暮れのハッとするくらい美しい空模様が川に映し出されて思わず、ぼんやりしてしまう。刻々と闇の面積が増える空。本を開きながらも、ずっとぼんやり眺めてしまう。電車でドアに寄りかかっている人も夕暮れを見つめている。一緒の車両で同じ景色を共有できてとてもうれしい。

@東横線 2023年4月27日 志木行

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