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工場戦士:Episode2「研修と帝都製鉄の歴史」

新人研修の始まり

敏夫は、帝都製鉄株式会社に入社して最初の一歩を踏み出した。彼を待っていたのは、ハードな新人研修だった。敏夫は同期の大磯慶次郎らと共に、その厳しい研修に臨むことになった。大磯は東洋大学経済学部を卒業したインテリであり、敏夫とは対照的な存在だった。

研修初日から、敏夫と大磯は製鉄所内での基本的な作業から始まり、次第に体力を要求されるハードなプログラムに進んでいった。ある日、研修メニューには30kmの歩行訓練が組み込まれていた。炎天下の中、重い装備を背負って歩くこの訓練は、彼らにとって大きな試練となった。

歩行訓練の日は、朝4時に起床するところから始まった。目的地は独身寮から近くの湖までの30km。キャリア組の敏夫と大磯、高卒で現地採用されたノンキャリ組との合同訓練だった。

「朝4時からか…」敏夫は時計を見て、眠い目をこすった。

炎天下の中、全員が必死に歩いた。夕方には合宿所に到着し、ノンキャリ組と一緒に夕食をとることになった。テーブルにはカレーが並び、みんなが黙々と食べていた。

「カレーはやっぱりこういう時には最高だな。」敏夫はつぶやいた。

大磯は頷くだけだった。

次の日の朝、敏夫はノンキャリ組の一人と話をする機会があった。

「佐藤さん、初任給っていくらなんですか?」

「25万円だよ。君は?」

「14万円です。大学院出てる人は違いますね」

敏夫は驚きを隠せなかった。彼らが同じ会社で働いているのに、これほどの差があるとは思ってもみなかった。

研修が終わる頃には、敏夫と大磯は次第に厳しい訓練にも慣れ、仲間たちと共に成長を実感していた。最終日、二人は互いに励まし合いながら最後の訓練を乗り越えた。

「これで研修も終わりだな。」敏夫は達成感に満ちた表情で言った。

「でも、これからが本当の始まりだ。」大磯は冷静に答えた。

こうして、敏夫と大磯は厳しい新人研修を乗り越え、大手製鉄会社での新たな一歩を踏み出した。彼らの友情と決意は、これからの困難な道のりを共に歩むための強い絆となった。

帝都製鉄の歴史

研修の一環として、座学の時間が設けられていた。ある日の午後、研修室に集まった新人たちは、帝都製鉄株式会社の歴史と現状について説明を受けることになった。

「帝都製鉄は、三友金属工業株式会社と大和製鉄株式会社が合併して誕生しました。」講師が説明を始めた。

スクリーンには、両社の歴史と規模の違いが映し出されていた。三友金属は財閥系の企業であり、プライドが高かった。一方、大和製鉄は規模が大きく、現場主義を徹底していた。

旧Mと旧Yの組織再編図

「皆さんもご存じかもしれませんが、合併後、旧三友は旧M、旧大和は旧Yと社内で呼ばれるようになっています。」講師の言葉に、敏夫は緊張感を覚えた。

入社前に敏夫がOBから聞いた話では、一応は対等合併という形で合併したものの、売上規模の差による数の論理には勝てず、大和製鉄のルールに合わせることが多く、旧Mの社員たちは不満を抱えているとのことだった。

研修が終わった後、敏夫と大磯は休憩室で話をしていた。

「旧Mと旧Yの対立か…。ややこしそうだな。」敏夫は考え込むように言った。

「そうだな。これからの仕事でこの対立がどう影響するか、注意していかないとな。」大磯は冷静に答えた。

その後、敏夫は自分の配属先が茨城県にある旧Mの製鉄所であることを知り、少し不安を感じた。派閥の影響をどのように乗り越えるか、彼の新たな挑戦が始まろうとしていた。

「旧Mの製鉄所か…。大丈夫かな。」敏夫は心の中で呟いた。

そして、敏夫の彼女の早苗の住む福岡と茨城はとても距離がある。2人の関係は、ここから疎遠になっていった。

(つづく)

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