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ヒプマイ楽曲が引用・オマージュしてる洋楽ネタを検証してみた vol.1

こんばんは、台風19号の被害は幸いにも半日の停電で済んだナカジです。
さて今回はタイトルにもあります通り、「ヒプマイ」こと『ヒプノシスマイク』の楽曲で引用・オマージュされてる洋楽ネタについて書いてみます。
全部一気に載せようかと思ったけどめっちゃ長くなってしまったので何回かに分けますね。
解説しようと思ってる曲は聴き比べやすいようにApple Musicのプレイリストも作っておいたので適宜ご活用ください。


ヒプマイ、前々から気になりつつも他にも推してるものがいっぱいあってなかなか手を出すタイミングがなかったんですが、オオサカとナゴヤの新ディビ加入発表のタイミングで6ディビ版になったオールスター曲をようやく聴きまして(遅)。
で、聴いてみたら「今ロンドン・コーリングって言った!?」ということがまず気になり、そこから現時点でAppleMusicで聴けるもの全部聴いてみたら「めっちゃいろんな洋楽オマージュ入ってるじゃん!!!」ってことで、ネタ元のまとめを探したのですが見当たらず……しょうがねえ自分で作るか!ってことで自分と友人用の備忘録として書きました。
が、これを機にヒプマイから新しい音楽に触れるリスナーの方がちょっとでもいたら嬉しいな、なんて洋楽関係のライターもやっている私はこっそり思っています。

ご留意いただきたいのは、この記事は「パクリの元ネタを暴く」という目的で書かれたものではないということです。むしろ真逆で、ヒプノシスマイクの楽曲を作った人が、どんな音楽に影響を受け、愛とリスペクトを込めてヒプマイの曲にしているか、その源泉を辿りたくて書きました

ヒップホップにおける「作曲」は、ピアノやギターを使って曲を作るようなジャンルとは根本的に手法が違います。既存の楽曲からビートやコーラスなどを引用=サンプリングし、新しい楽曲を生み出すということが繰り返されてきたジャンルです(詳しく知りたい人は「ヒップホップ サンプリング」とかでググってね)。
だから、ヒプマイの楽曲が既存の洋楽を元ネタに新しい曲を作っているのは、ある意味とてもヒップホップ的な行為と言えます。もちろんヒプマイの音楽は商業ベースに乗っているので、既存の楽曲をそのまま使用してリリースすれば著作権の問題も発生します。なので原曲からの影響をハッキリと出しつつも、直接的なサンプリングはしてないんですね。
とにかく、この記事を読んで「ヒプマイの曲がパクリって言われた!!!」とは考えないでほしいなーと思います。

とまあ前置きはこのくらいにして本題に入りましょう。
1回目はこの曲です。

●「シノギ(Dead Pools)」MAD TRIGGER CREW/「Swimming Pools(Drank)」Kendrick Lamar

はい、まずモロにわかりやすいやつ。MAD TRIGGER CREWの「シノギ(Dead Pools)」です。
Twitterで検索してみたらリリース当初に一部で話題になってたみたいなんですけど、なにしろド新規なもので今更ビックリしましたすみません。

これはアメリカのラッパー、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)が2012年に発表した曲「Swimming Pools(Drank)」をオマージュしています。
元ネタになってる曲はこちら。

「シノギ」ではオリジナル曲のメインタイトルとサブタイトルを入れ替えて、サブタイトルに「Pools」という単語を残しているところからして共通性を感じますよね。

曲は英語の語りから始まりますが、これもKendrickの楽曲で時折取り入れられている手法です。Kendrickが2015年にリリースした大ヒット曲「Alright」のアウトロなんかに、この独白的な語りが用いられています。

で、左馬刻のラップパートが始まりますがここのフロウが「Swimming Pools」の冒頭そのままなのはもうオリジナルの方を聴いていただければすぐわかります。
しかも左馬刻らしい言葉を選びつつ、英語の歌詞に極力近い音の日本語をわざと配置して、原曲との違和感がないように構成しているという念の入れようです。
銃兎が各センテンスの最後を「権力」で終わらせてるのも、原曲で各センテンスの最後が「Kendrick」になるのと対応させていますね。しかも「溺れようじゃないか」というのは、曲のイメージの「プール」とも繋がるようになっています。

Kendrickの「Swimming Pools」は、飲酒についての曲です。
「自制心をもって2〜3杯しか飲まないなんてダサい、強い酒をプールに満たしてそこへ飛び込んじまえ」という誘惑と、「これ以上飲んだら中毒だ、もうやめとけ」という良心の忠告が一曲の中でせめぎあっている。
「シノギ」の歌詞の「なみなみに注がれた欲望のプール」という部分も、元曲のイメージを引用して書かれたものでしょう。

Kendrick Lamarへのオマージュであるこの曲を、シブヤやイケブクロではなくヨコハマにやらせたという点もストーリー的によく出来ていると思います。
と言うのも、Kendrickはアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の街、コンプトンの出身。このコンプトンという場所は、全米屈指の犯罪率の高さで、要するにヤバい街として有名なところです。
MTCも「Yokohama Walker」の中で「何事もない一日なんてこの場所じゃありえないぜ」と、自分たちの街の治安の悪さを歌っています。
イケブクロやシンジュクも治安がいい場所とは言えませんが、この曲の作者はヨコハマとコンプトンの危険さを重ねたんじゃないでしょうか。

ちなみにKendrickの「Swimming Pools」は『Good Kid M.a.a.D City』というアルバムに入っています。このタイトルは「狂った街のいい子」という意味なんですが、Kendrickは非常に治安が悪いコンプトンという街で、奇跡的に両親が揃っている環境で育ち、悪事に手を染めることがなかった子供でした。
コンプトンにはアフリカ系の貧困家庭、しかも父親不在の母子家庭が多く、男児は良い成人男性のお手本が身近にいないまま、ギャングに所属したりドラッグに手を出したりして犯罪に手を染めてしまう子が多いと言われています。
そんな環境に飲み込まれずラッパーとして成功したKendrickは、ヨコハマ育ちで過酷な生い立ち設定のある左馬刻とはある部分では似ていて、ある部分では対照的な存在だなと感じました。その点も踏まえると、やっぱり「シノギ」は他のディビジョンよりもヨコハマ=MTCのキャラにピッタリな曲だと思います。

Kendrick Lamarは2010年代最高峰のラッパーと言われる存在です。
アメリカの貧困層のリアルや黒人差別を鋭く描写した歌詞は文学としての評価も高く、報道や文学、音楽などに対して贈られるピューリッツァー賞も受賞しているほどです。
日本でもファンは多く、2018年のフジ・ロック・フェスティバル(日本国内で最大級の洋楽アーティストも出演するフェス)では一番大きいステージのトリも飾っています。
もし「シノギ」からKendrickに興味を持った人がいたら、まずはアルバム『Good Kid M.a.a.D City』から聴いてみてください。Apple MusicとかSpotifyでも聴けるよ!

次回は飴村乱数の「drops」をやりまーす。

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