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SUMMER SONIC 2018 TOKYO DAY 2

引き続きざっくりしたサマソニレポ、東京2日目。1日目はこっち参照。

●ENDRECHERI
たっぷり8時間寝て再度海浜幕張へ。昼頃は特にコレというのを決めていなかったので、大阪民の間で評判だったENDRECHERIを観にマウンテンに行く。Kinki Kidsの堂本剛がやってるバンド。今までの人生でジャニーズの人を生で拝んだことがなく、ほとんど好奇心。

開演前の観客の数、前日のQOTSAよりも多い。前の方はENDRECHERIファン、後ろの方は堂本剛のバンドってどんなかなっていう野次馬根性の人々(私を含む)。
まずバンドが登場、総勢13人。多っ。1曲目からフジロックのフィールドオブヘヴンにいる時のような音がする。バンドが上手い。と思ったらギターが佐藤タイジさん(シアターブルック)でベースが鈴木渉さん(元urb〜売れっ子のセッションミュージシャン)。そら上手いわ。しかもパーカッションの方どっかで見覚えあると思ったら初期SHERBETSなどに参加されてたスティーヴ・エトウさん。ドリームチームやんけ!
堂本さんはヴォーカル&バンマスって感じでメンバーそれぞれ見せ場を作ってて、堂本剛+バックバンドという感じのプロジェクトでは全然なく、プレイヤー同士めちゃ対等な印象を受けた。New Mastersoundsとか好きな耳には気持ちいい音だった。

残念だったのは開演前の話。友人がENDRECHERIの前に出演したKnox Fortuneを観に行ったら、前方でENDRECHERI待ちの複数のファンに面と向かって「来るんじゃねーよ」と言われたそうだ。確かにフェスは座席や整理番号の運に関係なく努力次第で最前〜数列目がゲットできるし、彼のような大スターを近くで観られるチャンスを一歩も譲りたくない気持ちはわかる。でも言い方ってもんがあるでしょ。ENDRECHERIのファンとそれ以外の観客の分断を招くような物言いはしないでほしい。「これのために来たんです、前で観たいんです」の一言で気持ちは伝わるから。

●REX ORANGE COUNTY

エンドリケリー終わって友達と合流し、ご飯食べたりビール飲んだりしてダラダラ。ビーチのNulbarich(ぼやぼやしてたら武道館完売してしまった……)に行こうか迷ったけど、結局ソニックとマウンテンの間の通路でまったりしてしまった。本当に今年は日中も暑すぎない爽やかな陽気で、ついチルアウトタイムが捗ってしまった。

気を取り直してソニックにRex Orange Countyを観に行く。イギリス出身の宅録アーティスト。歌声は素朴なんだけど、曲からはこいついろんな音楽聴いてるオタクなんだろうなってセンスを感じさせる。でもまだ20歳。タイラー・ザ・クリエイターとも親しいらしく、よく見たら彼の緑色のTシャツに「GOLF」の文字。タイラーのブランドの服着てライヴとかどんだけマブダチアピールやねん。

金曜の夜からここまでうるさめの音楽ばかり聴いていたので、ベースとドラムを従えただけのシンプルな彼のパフォーマンスは一服の清涼剤みたいな清々しさがあった。Alex GootとかRex Orange Countyみたいな若い才能に簡単にアクセスして投げ銭という形で誰でも支援できるようになったんだから、本当インターネット様様である。

●HIGHER BROTHERS

Rex Orange Countyを途中で抜けて、メッセからマリンへバスで移動。ビルボード・ステージでHIGHER BROTHERSを観る。中国出身の4人組ヒップホップ・クルーという予備知識以外は情報皆無で観たんだけど、めちゃくちゃカッコよかった。サウンドは今っぽいトラップで、MCの4人がそれぞれしっかりキャラが立ってて。ケンドリック・ラマーもチャンス・ザ・ラッパーも来日した2018年が日本におけるヒップホップの革命イヤーっていうのはもう間違いないけど、そこに中国からのクルーも来てたっていうのは超大事なことなのではないかと思う。ブッキングした人、いいもの見せてくれてありがとうございました。

●MIKE SHINODA of LINKIN PARK

断っておくけどマイク・シノダに関しては私情たっぷりの長文。

2018年上半期、「Black Panther: The Album」に夢中になった身としてはジョルジャ・スミスを観たい気持ちもあったが、私はどうしてもマリン・ステージでマイク・シノダを見なければならなかった。
チェスターについてと、マイクのサマソニ出演に対する想いは以前ここに書いたので、興味があったら参照してください。


チェスター・ベニントンが逝ってしまってから、マイクが初めて日本のファンの前でステージに立つ日。リンキン直撃世代の音楽ライターとして、この日ここで起こることを見ておかなければいけないという気持ちで、アリーナ前方ブロックで開演を待った。

まずマイクは一人でステージに飛び出してきた。バックトラックに合わせてFort Minorの「Petrified」を軽快にパフォーマンス。その後、2人のメンバーが合流してパーカッシヴなアレンジでリンキンの「When They Come For Me」を披露した。

2曲終わったところで客席を見渡したマイクが最前列のファンに目を止める。「そのフラッグもらえる?ステージに飾ろう」と、スタッフに指示した。そしてサポートメンバーのキーボード?に飾られたフラッグは日の丸の上にリンキンのロゴがプリントされていて、その横には「MAKE CHESTER PROUD」の文字。もうこれだけで涙が溢れてしまった。

4曲目に演奏した「Kenji」は日系3世である彼が、真珠湾攻撃の後にアメリカ政府によって強制収容所に入れられた日本からの移民について歌った曲だ。彼が楽器を置き、ハンドマイクだけを持ってラップしていた時の眼光の鋭さと気迫は他の曲の時のそれとは明らかに違っていた。マイクにとってこの曲を日本でプレイすることには、他の国でやるのとは違った特別な意味があるんだろう。彼のソロ・ツアーのセットリストを可能な限り調べてみたが、アメリカでは稀にしかやっていない。アジアでもやったりやらなかったりだ。

私は音楽を聴く時、どうしても「自分はこの音楽にどれくらい深くコネクトできるだろうか」ということを考えがちだ。「音楽なんて楽しんだもん勝ち」と思いながら、他方ではアフリカン・アメリカンの苦難と闘争が根底にあるヒップホップの本質にアジア人が迫ることはやはり容易ではないと思う。例えばケンドリック・ラマーの音楽はとても好きだけど、黒人差別を題材にした「Black The Berry」のような曲をアジア人である自分がどれくらい理解・共感できるかと問われたらやはり自信がない。

けれどFort Minorの「Kenji」に綴られているのは、我々の祖先の受難の物語だ。恥ずかしながらヒップホップ史には疎いのでご存知の方がいたらコメント欄で教えてほしいのだが、Fort Minorのアルバム「The Rising Tied」がリリースされる2005年以前に、アジア人の歴史と人種差別について描いたヒップホップ・ソングがメジャー・レーベルからリリースされたことはあったのだろうか。しかも「The Rising Tied」はアメリカ国内だけで100万枚のセールスを記録したヒット作だ。それくらいマスな影響力のあった作品に「Kenji」のような曲が入っていたことは、実はかなり珍しくて革新的なことだったんじゃないか。リリースから13年経った今年、そんなことを思いながら私は「Kenji」を聴いていた。

ライヴ中盤、マイクは自分の楽器歴について少し語った。
「俺が最初に習った楽器はピアノだったんだけど、モーツァルトでは友達の心を動かすことはできなかった。でもPublic EnemyやDr.Dreの曲を弾いてみせたら、みんなが『ワオ!いいじゃん』って言ってくれたんだ」
そして「Waiting for the End / Where'd You Go」のマッシュアップと、「Crossing The Line」をプレイした後、彼は一人で同じフレーズを繰り返し弾きながら、チェスターのことを語り始めた。一語一句正確には覚えていないので、要旨を書き出す。

「リンキン・パークの前身バンドがヴォーカリストを探していた時、オーディションに応募してきたチェスターと初めて会い、一気に彼の歌の虜になった」

「昨日はLPU(リンキンのファンクラブ)の会員20人とミート&グリートをしたんだけど、みんな目に涙を溜めて待っていて、今までとは違うエモーショナルな空気だった」

「チェスターが亡くなってから、ソロ・アルバムを作り始めるまで、『自分には本当に準備ができているのか? ツアーに出てファンのみんなの気持ちを受け止める準備ができているだろうか?』と自問自答していた」

「君たち一人一人がチェスターに対してどんな感情を持っていても、それは100%許されるんだ」

「チェスターの死を悼むのではなく、彼と出会えたことに感謝し、セレブレーションする時間にしたい」

そしてマイクの伴奏で、「In The End」の合唱が始まった。みんなチェスターのことを想いながら歌っていたはずだが、私はといえば嗚咽が止まらなくなってしまい、ほとんどロクに歌えなかった。

この後選曲は再びマイクのソロ曲に戻った。「About You」の後の「Over Again」は彼がチェスターを喪った後、ステージに戻るまでの葛藤を描いた曲だ。それをリンキンの「Papercut」と繋げてパフォーマンスした。

どの曲だったか記憶が定かでないのだが、後半マイクはステージ袖からピカチュウのフードタオル?を持ってきて頭に被りパフォーマンスしていた。ライヴがチェスター追悼モードのしんみりした雰囲気で終わらないように、ファンが笑顔になれるようにという彼なりの心遣いなのだろうと思った。だがライヴ後に他のファンの方のツイートで、チェスターがピカチュウが大好きで、あのフードタオルと同じものを生前のチェスターも持っていたことを知った。マイクの何重もの優しさと気遣いに胸が痛い。
そんな彼の配慮もあって、終盤はカラリとした空気で進行した。マイクはステージを降り、客席間の通路を駆け抜け、ファンとタッチしたりブロック前方の柵に乗って歌ったりしていた。終演後の余韻は爽やかで、「In The End」で号泣していた私も最後は笑顔と拍手でステージを去る彼を見送った。

今でもチェスターのことを考えるのはつらい。でも今回、マイク・シノダのステージを観に行ってよかった。それは他ならぬ彼から「君たち一人一人がチェスターに対してどんな感情を持っていても、それは100%許されるんだ」という言葉が聞けたことに尽きる。チェスターの死に対して、疑問や後悔を抱え続けていてもいい。まだまだ乗り越えられなくてもいい。その気持ちはあなただけのもので、それでいいんだとマイクははっきり示してくれた。今回サマソニに行けなかったというリンキンのファンにも、マイクのこの言葉だけは知っておいてほしい。

これから先、マイクの活動には「チェスターの死を乗り越えた」という言葉がついてまわるだろう。というか既にこの言葉はいろんなところで見かけるし、本人も「自分が何をやってもチェスターの死と関連づけられるのは覚悟の上」と言っていた。けれど、人の心の中なんて誰にもわからない。ソロ・アルバムを作り、ツアーに出て、多くのファンの気持ちを受け止めている彼も、実は人知れずチェスターに対して煩悶を続けているのかも知れない。それでも表舞台に立つマイクの勇敢さは、私にとっては大きな救いだ。マイク・シノダの偉大さを改めて思い知ったサマソニだった。

●CHANCE THE RAPPER

マイク・シノダで目からだいぶ水分を流失してしまったので一旦外に出て水を買い、涙で崩れた化粧を直して再びマリンの前方ブロックに戻る。前日の大阪では動員が芳しくなかったという話がTwitterで流れていたが、東京も確かに例年のトリ前の動員と比べればやや空いてるかなという印象だった。PAテントの中を振り返ったらRex Orange Countyが観に来ていたが、キミせめてステージ衣装から着替えようよ(緑のGOLF Tシャツのままでした)。

正直、この夏は面白い新譜が多すぎて、チャンスに向けての予習は「Coloring Book」と最近出たシングルくらいしかできていなかったのだが、そんな私ですらめちゃくちゃ楽しめたくらいチャンスのステージは素晴らしかった。何と言ってもチャンス本人がチャーミング。2曲目の「Blessing」からライヴが終わるまで、何度もイヤモニを外してオーディエンスの歓声を確かめ、時に驚き、時に喜びながら歌い続ける彼は最高にラブリーだった。

DJ Khaled「No Brainer」とKanye West「Ultralight Beam」、2曲のゲスト参加曲の披露もあり。アーティストとしてヒップホップに分類されてはいるけれど、ゴスペルからの影響も強く感じさせたり、誰もが歌って踊れるポップ・ミュージックの機能性も備えていて、初見の人でも楽しめるエンターテインメント性も充分。そういえばバックのコーラス隊(男性3人、女性1人)がみんな普段着みたいな格好で、統一性もなくてんでバラバラだったのがおもしろかった。

後半には「No Problem」と「All Night」の2連打。日没とともに暗くなっていく中、この辺の盛り上がりは2018年サマソニ東京の一つのハイライトだったと言えるだろう。終盤の「Same Drugs」だったか、会場のスクリーンには瞳を潤ませながらしきりに目元を拭うチャンスの姿が映った。彼にとっても今回の来日が素敵な思い出として残ったなら、オーディエンス冥利に尽きるってもんだろう。

今回のチャンスのステージに関しては、「頼むから東京組はこの曲で合唱して盛り上げてくれ」という初日大阪組の叫びや「東京の合唱すごかった」という報告、「客の合唱頼りのパフォーマンスはアーティストの甘え」「アメリカみたく合唱が起きればいいってもんじゃない」という反論もあったりして、どの意見も興味深く読んだ。私はチャンスの来日を待っていた人達の援護射撃ができればと思って、歌詞が覚えられなかった曲でも適当に「にゃー」で歌っておいたが、確かに合唱が起きないからと言ってその場にいる人の熱量が低いわけでは決してない。ただ今回は、初めて日本に来たチャンスに、「待ってたよ!」という気持ちを伝えるのに合唱という手段は有効だったなと、彼の感極まった様子を見るに思うのだ。

●THUNDERCAT〜GEORGE CLINTON & PEARLIAMENT FUNKADELIC
チャンスの後の爽やかな満足感で、ウキウキとビーチへ。ソニマニで微妙だったサンダーキャットのリベンジと、たぶん今回で見納めのジョージ・クリントン御大のステージ。

サンダーキャットはやっぱりビーチの方が音も良く、日没後のムードと相まって最高!……と思ったらおもむろに「Tokyo」をプレイし始めて、彼がオタク道に堕ちた経緯をコミカルに歌い出す。終盤の数曲だけしか観られなかったのが悔やまれる。またアニメイト行くついでに単独公演お願いします。

パリピの総本山ジョージ・クリントンご一行はセッティングの後、前フリとか特にないままいきなり演奏スタート。すみません正直曲名一つも知りません。でもはちゃめちゃに楽しい。77歳のパリピ力半端ない。コーラスのお姉さんのピンクのビキニと揺れるおっぱいも半端ない。時々砂に足を取られながら踊りまくった。

●PARAMORE
ジョージ・クリントンで踊りながら燃え尽きたい気持ちもあったけど、2000年代エモの番人としてやっぱりParamoreを観ておかなくちゃという使命感に駆られ、後ろ髪を引かれつつメッセへ向かう。ダッシュでソニックに向かうとちょうど「Ignorance」をプレイ中。実はドラマーのザック・ファロが復帰してからは初めて観るのだが、ザックすんごい痩せたな!? それはさておき、ステージ上は7人編成。4人はサポートだ。すったもんだでメンバーの入れ替わりが激しいバンドだが、ヘイリーとテイラーがいればParamoreは成立するということがここ2作のアルバムで証明されたので、実はあんまり心配していない。

フロントに立つヘイリーからは、酸いも甘いも嚙み分けた女の色気と凄みがプンプン漂う。バンドの浮き沈みや私生活での結婚離婚、そういった経験を経てもまだ彼女は30歳手前。かつては男性メンバーに囲まれる紅一点という印象だった彼女は、今や完全にロック・アイコンとしてバンドを率いるリーダーだ。その存在感の頼もしさよ。

その成長を裏付けるように、ヘイリーは「Misery Business」の前にこう言った。「自分が17歳だった時のことを振り返ると、恥ずかしさを感じる。17歳の時に書いたこの曲に、今の自分はもう同意できない。でも今夜はみんなのためにこの曲をプレイするわ」

そして曲の途中、ヘイリーは客席から女性ファンを一人選んでステージに上げた。選ばれた女性ファンはヘイリーからマイクを渡され、曲の続きを歌うことを任されるのだが、この日選ばれたファンは度胸があった上に歌も上手く、彼女の歌と激しいアクションに会場はヘイリーも驚いた様子。2人のシンガーが歌った「Misery Business」は異様な盛り上がりを見せた。

終盤にはザックがやっている別バンド、HalfNoiseの曲をプレイするちょっとした遊びもあり、ラストは最新作「After Laughter」から「Hard Times」。最近のParamoreのニュー・ウェイヴ志向が端的に表われた曲で、デボラ・ハリーのような髪とメイクにトーキング・ヘッズのTシャツを着ているヘイリーが歌っている。それは10年を超えるキャリアを持つバンドの現在地点がとても美しく可視化された瞬間だった。エモから出発した彼らはこの先どんな音楽の旅を続けるのか。続きを楽しみにしている。

以下、フェスに対する感想箇条書き。

●天気と涼しさに恵まれて全体的に最高でした(帰りとか肌寒かったくらい)

●クリマン清水さんが今年のブッキングについて「ロック・ファンに失礼なことをしていたと気付いて原点に戻った」というようなことを言っていたが、パンクやエモに夢中だった自分がそれ以外のジャンルのライヴを観る楽しみを知ったのはサマソニだった。今こうしてヒップホップを楽しめてるのものサマソニのお陰なところある。

●フジでもサマソニでもいいんだけど来年はChildish GambinoとTyler The CreatorとBROCKHAMPTONを絶対呼んでくださいお願いします特にBROCKHAMPTONを!なにとぞ!

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