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#007 幼い日のクリスマス

クリスマスが近づくと、クリスマスキャロルを聴く。幼い頃、私には二つのクリスマスイベントがあった。

一つはフルート演奏会。父の友人夫妻がフルート講師でその主催だった。聖心女子大にあったこじんまりした会場には、チェンバロとハープがあり、フルートとの組み合わせは音色も景色も美しく、子供心に素敵な空間だった。とはいえ、すぐ飽きてしまう私はロビーで一人遊びしている時間の方が長かったと思う。薄暗いロビーには、赤いコカ・コーラの自動販売機があった。瓶のタイプで、コーラとファンタが売られていた。自動販売機でそれを買う大人に憧れたが、炭酸が飲めないのでただ眺めているだけだった。

もう一つは小さなパーティ。父が学生時代所属していたコーラスサークルのメンバが、毎年クリスマスにピアノがあるレストランを借り切り、クリスマスキャロルを歌っていた。サークルの女性の紹介で父と知り合った母は、私を連れて参加していた。私は大人に混じって歌いたがったが、外国語だから歌えなかった。代わりに母と、テーブルに準備された御馳走をつまみ食いしていた。「鶏肉の塩釜焼き」をはじめて知り、感動したのはここ。「オリオン座」をはじめて教えてもらったのも、この会の帰り道だった。私の星座知識はその頃から大して変わっていない。塩釜焼きは、帰宅後に母がノーレシピでトライしたが、食卓塩を何キロも使ったためしょっぱすぎて食べれたものではなかった。料理上手だった母の数少ない黒星。サークルのおじ様もおば様も、皆とても可愛がってくれて、私はそのパーティが大好きだった。


私はもうとっくに大人で、サークルの皆さんもほぼいない。フルートのご夫妻も。数年前に母も去り、父の介護は日々シビアになっていく。時間が過ぎるのは恐ろしいほど早く、そのことが寂しくなる時もある。けれど、優しい温かい記憶を胸に積み上げてきた時間だと思うと、愛おしく、とても穏やかな喜びに満たされていく。

私はもうとっくに大人だけれど、この先も素敵な気持ちを想い出として積み上げていきたい。そして大切な人たちの優しい記憶の一部でありたい。そんなことを、クリスマスキャロルを聴きながら思った冬の朝。

あと数日でクリスマス。今年もクリスマスキャロルを聴きながら、キャンドルを灯そう。

Yuri Masumi



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