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女鹿と王様

今は昔昔のお話です。

わたしたちが暮らす土地とは、随分時間も距離も遠く離れた、とあるお国のお話です。

その国の季節は、実りの秋を迎えておりました。空は青く高く澄んで、

朱色や黄いろ、緑色や茶色の色とりどりの葉っぱや木の実を

太陽は温かく照らしていました。

その日はとてもめでたい日で、たくさんの人がお祝いのために王宮に集っていました。

王様は新しくおきさき様をお迎えになり、王宮では盛大な式がとり行われていたのです。

昔のことですから、
王様は王様、
お百姓さんはお百姓さんで、住むところ、食べるもの、着るものすべてに大きな違いがありました。

王様は、王様ですから、

祝宴の席では、高価な絹糸で作られた立派な衣装をお召しになっておりました。

そして、きらびやかに着飾った親族や貴族たちは、豪華な祝宴を楽しみました。

この王様は、少し変わったところがおありになって、王宮の何不自由のない生活に実をお感じになっておりませんでした。

この日の豪勢なお祝いにも自然実をお感じになれませんでしたが、かわいい珠のような子を授かることを考えると喜びがわくのでした。

王様は、結婚式の日から子を手に抱くのがいよいよ楽しみで楽しみでなりませんでした。


しかし、一年たっても2年経っても子供が生まれません。

王様は今か今かと待ちました。

3年経っても4年経っても産まれることがありませんでした。
それでも王様は今か今かと待ちました。

こうして10年の年月が流れたある日、
王様は狩りにおでかけになりました。

都の中心から離れて野山で鹿を狩りに行くのです。


王様は、
矢が届くか届かないところに、草をはむ毛並みがすぐれて適度に肥えた女鹿が見えました。

「やれ、あの女鹿を射止めよう。」

王様は、矢をつがえましたが、女鹿は王様に気が付くとすっと森の中に深くに入り込んでしまいました。王様は、
「やれ、待て。」
と勇ましく矢をつがえながらあとを追いました。

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王様は馬を走らせました。

森は深まり、辺りはしんしんと、
女鹿はぐんぐんと近くなました。

馬が枝や落ち葉を踏みしめるざっざという音に加えて、

女鹿が草間を飛ぶ音もしゃっしゃと聞こえるほどになりました。
「いまだ。」
王様は、弓を大きくぐいと引きひゅー矢を射りました。

女鹿の悲痛な高い鳴き声が澄んだ森に響きました。

「仕留めた。」

王様は馬を颯爽とおりて女鹿に近づきました。女鹿は、脚から血を流して木の根元に倒れておりました。

そのとき、どこからともなく男の声がしました。

「人の王よ、これ以上はやめてはくださらぬか?」
王様はあたりを見まわしました。

すると、弓矢がちょうど届かないほどの向こうに角の立派な牡鹿を見つけました。

女鹿が倒れている木の根とても大きく、その根から大樹がまるで夫婦のように2本に屹立しておりました。その2本の木の間から牡鹿はじっと王様の方を見ていたのです。

「人の王よ、これ以上はやめてはくださらぬか?」

また声がしたので、王様はお尋ねになりました。

「そは、今余と目があっておる牡鹿であるか。」

「いかにも。人の王よ、その女鹿は、子をはらんでおります。命をとるのをやめてくださらぬか。」

王様は、落ち着いておりました。

「ほお、獣が話をするとは珍しい。よもやお伽の話が誠とは。」

「王様、もし女鹿の命を助けてくれたのでしたら、王様の願い事をなんでも聞いて差し上げましょう。」

そういったときには鹿だと思っていたものは、道家風の白い衣を纏った凛々しく若きお姿の仙人。

「溢れかえる富でも見渡す限りの豊かな土地でも何でも王様のご所望どおりになりましょう。」

王様は、迷わずにこたえました。
「子である。予は子がほしい。」

すると、仙人は朗々とした声でこたえました。

「お望みであれば、先祖代々子がたえぬように子を授けましょう。することはただひとつ。土地をお変えくださいませ。木の疎らな都市をお離れになるのです。思惑が行き交う王宮を去り、澄んだ泉が湧く音、緑緑とした木々の呼吸が聞こえる土地に居を構えるのです。
お后様と壁と天蓋で囲まれた部屋を出でて、陽光の元を歩けば、川のせせらぎ、葉風、鳥の鳴き声きこえる森の近くにお住まいください。」

仙人はそう言って霧となって消えました。王様は、女鹿から矢を抜きそれから薬を塗り水をお与えになりました。女鹿は、矢の的となったときよりずっと小さな声で鳴き声を上げると、怪我の脚をかばうようしにし飛び羽ながら森の奥に消えていきました。

王様は、王宮に戻ると親族の一人に王位を惜しげもなく渡し、
お后様と森の近くにお住まいになりました。

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王様は居を変えてからというもの、王宮のきらびやかなものがますます不可解なものに思えてきました。

なぜって、森の木々の葉や川の未菜もに太陽の光があたる様子のほうがずっと心にきれいにうつりましたから。

小さな木の実や野の花の方がずっと心の深いところで喜びをもたらしましたから。

森は声もとてもいいものでした。
王様に取り入ろうとする声よりも鳥たちや虫の声はずっと、心地良い響きでしたから。

お后様もその場所がとても気に入ったようで、

それから王様は文字通り間もなく、まぁ玉のような子を授かったという話です。


それから、王様の祖先は代々、子だからに恵まれ続けたということです。

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おはなしおはなし

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少し余談ですけれど、
王様の子孫は、他でもないあなたご自身の可能性もございます。

なぜって、このお話に辿り着いたお方ですから。

もしあのときの王様の玉のようなお子様が20代前だとしたましたら、

代々お二人のお子を産んだとしましても100万人を超える子孫となるそうです。


感謝、でしょうか、
だとしましたら、だれにでしょうか?

仙人さんに?ご先祖様の王様に?それとも森に?
授かった命そのものに、それから・・・

『受け継がれる命に幸ありますように。』

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目をとおしていただき、ありがとうございました📚

実りの秋を迎えられますように

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