『デイ・ドリーム・ビリーバー』ビリーバー
2009年5月、忌野清志郎が亡くなった。ブルーハーツ好きの父親の影響でロックに興味を持ち始めていた小6の僕に、連日流れるきらびやかな衣装を身に付け大歓声の中歌い上げるロックスターの映像は強烈なインパクトを残した。その後数週間ほど、両親が酒で高揚した夜、我が家のスピーカーからは決まってRCサクセションが流れていた。当時PSPで音楽を聴いていた僕のメモリーカードには『雨上がりの夜空に』が入っていた。
2021年8月、前年は異例の事態で中止となったフジロックが、今年は関係者や参加者の努力が実り見事開催となった。音楽の力を信じて止まない人々の揺るぎない、太く固い意志を感じた。全員に面と向かって頭を下げて謝礼を言って回りたい気分である。
8月22日18時50分、デビュー50周年を迎えた忌野清志郎が盟友を連れてフジロックに帰ってきた。その名も「忌野清志郎ROCK’N’ROLL FOREVER」だ。地方に住む僕はもちろん現場には行けず、それでも現場にいる人同様の、もしくはそれ以上の熱量をもって5分前から自室のパソコンの前で待機していた。
2分ほど遅れてライブが始まった。僕は、必ずといって良いほど遅れる開演を待つこの時間が実にライブらしくて好きだ。画面が暗転し、ビニールハウスのようなステージの上に土方姿にヘルメットを被りギターを持つ男が3人現れた。後ろにはドラムもいる。あまりの物々しい雰囲気に、「あぁ忌野清志郎は生きているんだな」と安堵しかけた自分がいた。エセタイマーズだ。ゴッチ、トシロウ、細美武士、恒岡章にどことなく似た4人が『デイ・ドリーム・ビリーバー』を演奏する。見事だった。恒岡のドラムを背に、ゴッチが低く落ち着いた、でも熱のこもった声で歌う。トシロウと細美武士のコーラスを贅沢に使って。僕と趣味を共有できる本当に貴重な友人と感想をLINEで伝え合う。1秒もエセタイマーズの動きを見逃したくなくて、ほぼスマホの画面を見ずに入力していた。『タイマーズのテーマ』が流れた時には気づけば片手に開いたビール缶があった。
その後のゲストも素晴らしかった。グリムスパンキーから始まり、トータス松本や奥田民生、チバユウスケら僕が大好きなアーティストが清志郎を心に宿し見事に歌い上げる。ラインナップを見た時はどこか浮いているようだったYONCEが雨に打たれながら『すべてはALRIGHT』を熱唱する姿を見て、僕は本当にすべてがオールライトになる気がした。
中でも心打たれたのはやはり甲本ヒロトだ。生まれた時からブルーハーツを聴かされていた僕は、きっとゆりかごから墓場まで甲本ヒロトが好きなんだろう。
力強いトランペットが印象的な演奏をバックにして黒Tと細いジーパン、スニーカー姿の甲本ヒロトがステージ中央に走ってくる。もう最初から舌を出している。すでに最高潮だ。『キモちE』の冒頭を歌ってすぐにTシャツを脱ぐ。あばら骨むき出しのこの姿に僕は今まで何度勇気をもらっただろうか。本当に気持ちよさそうに最初のバイブスのまま歌い切った。圧巻だった。かっこよすぎてただただ笑うしかなかった。
最近好ましくない事が立て続けに起きる。気持ちを切り替えようとしてもどうもうまくいかない。でも僕が目を背けていただけで現実はそんなものなのかもしれない。音楽が好きだからこそ、「音楽は人を変える」みたいな台詞は好きじゃないが、今はそれにすらすがりたい気分だ。これから数週間ほどは、一人暮らしの我が家のスピーカーからはRCサクセションが流れているだろう。
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