見出し画像

宇宙旅行

GW、妻の実家にいる。
妻の部屋に布団を敷いて、飼っている犬と僕、3者川の字で寝る。各々特段の会話はないけれど、彼女はスマホで熱心に服を見て、犬はイビキをかいて、僕は本を読んだり、犬と戯れたりしている。なんとも暇で良い時間だ。

朝になる。
カーテンを少し開けると、窓の向こうに青い屋根のマンションが見える。朝日が反射して屋根がキラキラと光っている。その青い輝きが寝ぼけた目に飛び込む。
あんなところにマンションがあったなんて、今まで気づかなかった。何故だろう。少し眺めて、思いを馳せてみる。
あのマンションの、あの部屋の住人についてだ。


あの扉の向こうには誰かが住んでいる。(かもしれないし、誰も住んでいないかもしれない)
その部屋の角の本棚には、住人のお気に入りの本がある。きっと僕がまだ目にしたことのないおもしろい本。住人の人生に登場し、彼(彼女)の標になっている本。
本だけじゃない、音楽、ゲーム、絵画、調味料、写真、服、好きな香り、フィギュア、ぬいぐるみ、花、ペット、どれも彼の要素になっている一部分。そんな彼なりの部屋があり、彼はその国の主。とてつもなく広大な8畳のワンルームの主。彼の話はきっと面白いだろう。僕とは重ならない世界で生きているのだから。


ふと、我に帰る。

あの部屋は空き部屋で、何もなかったかもしれない。伽藍とした空間が広がり、カーテンのない窓からは、春の日差し、ベランダから小鳥の声が響いている。

これは僕の妄想上のお話。
扉を開けるまでわからない。

こうやって、物思いに耽ながら、GWは過ぎてゆく。
思いを馳せれば、知らない部屋の知らない住人がいる。一瞬で未知と遭遇できる。格安最速の宇宙旅行へ。

遠くの公園から、子どもの声が聞こえてくる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?