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読書感想文「タイムカプセルを読んで」


私は「バンドマンに曲にされテェ〜」としょっちゅう言っている。それは他人の中に自分が存在していて欲しいという承認欲求から来るものかもしれないが、人生という物語的な文脈の中では自分は主役であり脇役だ。誰かの物語の中では私はなんてことない脇役で「あ〜、そう言えばそんな子居たねえ」とか言われてるんだろう。
この本は作者の目線で最後まで書き進められており、自分語り的な要素が殆どだ。しかし、友人や家族などの登場人物は個性的でとても魅力的に描かれている。(実際にキャラが濃いのだろうが。)バーで居合わせたただの客から血の繋がりのある家族まで、親交の深さに関わらず、そういった登場人物たちに接することで作者の思想が輪郭を持つ。

現実社会を刹那的に生きているとついつい忘れてしまうのが、過去現在という時間軸と脳神経のように張り巡らされる人間関係が織りなす物語性。人生はとにかく色んなことが起きるため、脈絡があったり無かったりするところがまたリアルで、読了後には一つ人生の走馬灯を見た様な感覚が味わえる。

作中に、自身を金魚鉢の中の金魚にたとえてみる部分がある。そこの文章が私はお気に入りで、繰り返し読んでみた。確かに自分の知る世界など金魚鉢ほどの狭さで、東京に住もうが浜松に住もうが富士市に住もうが、金魚鉢の大きさは変わらない。唯一変える方法があるとすれば、それは他人の思想に触れ、他人の人生と交わる事によると思う。

高校・大学の後輩である作者の物語に触れて、私の金魚鉢は少しだけ広くなった様な気がする。

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