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えべっさん

えべっさん。(七福神の恵比寿様。十日戎。)
それは我が家にとって最大の厄日である。

私の親は親族で小さな会社を経営していて、毎年必ず「えべっさん」に行く。
しかも、わざわざ、えべっさんといえば…の今宮戎に行く。
私も学生時代まではついて行っていた。
幼い頃は人々に揉みくちゃにされ、親が笹と飾りを吟味して、京唄子さんが福娘に混じっているのを見て、「あ、渡る世間は…の怖そうな人…」となり、笹を得たあと屋台は素通り(夕方行くので、晩御飯が待っているから)、子供にとっては何の面白みもないイベントであった。
(なんというご利益の得られなさそうな感想…。)

社会人になってからは、えべっさんとは無縁な職業に就いたので、行かなくなった。

では、なぜ、厄日なのか。
えべっさんに行くと、当日や翌日あたりに、良くないことが起こるのだ。
ある年は、親子3人で大喧嘩。
それもなぜか、2対1ではなく、1対1対1の壮絶な争いであった。
またある年は、母がぎっくり腰。
1週間はほぼ寝たきりであった。
そのまたある年は、実父と夫(婿養子)が大喧嘩。
面と向かって喧嘩したのは後にも先にもアレだけだったんじゃないだろうか。
そしてそれらがなければ、だいたい両親が大喧嘩する日、であった。
理由は、持ち帰った笹の飾り方について。
やれやれ、どーでもええがな。

これを繰り返すうち、両親がえべっさんに行く日、それが宵戎であろうと本戎であろうと残戎であろうと、私にとっては1年で一番ハラハラする日となった。

ところが…である。

今年は何も起こらなかったのだ!!

いつしか私は、このえべっさんに行く日に起こるトラブルが、1年の厄落しと考えるようになっていたのである。
厄落しができなかった…ということは、会社に多大な不利益があるってこと!?
これはこれでハラハラするものである…。

と、思っていた矢先。

昨夜、両親が、過去にミシュランで星2つほどついたことのある和食屋に食事に行った。
帰ってきて、1階で何やら2人で騒ぐ声がする。
(我が家は2世帯同居で、1階部分に両親、2階部分に私たち家族が住んでいる)
美味しいモン食べてきて、何をそんなに騒いでいるのやら…と思い、下に降りると、和食屋に行く前に買った高級食パンをタクシーに忘れてきたと。
レシートを見ながらタクシー会社に電話をし、乗ったタクシーに確認するのでと折り返し待ちとなる。
そのあいだに母が、やっぱりタクシーを降りたときに落としたんじゃないかと、家の前に落ちてないかと外に出た。
そこには高級食パンと共に買った塩パンだけがポツンと落ちており、野良猫がつついている最中だった。

……おそるべし、野良猫。

そんなに時間たってないのに。

とりあえず私たちを見て、野良猫はすぐに逃げていったのだが、それを食すのは、ちょっとねぇ…ということで、塩パンはその後ゴミ箱行きとなってしまったはずである。
もったいないけど。

しばらくして、乗ったタクシーから連絡があり、すでに我が家からはもうだいぶ離れたところまで戻っており、その近くの交番に届け出ることなら可能、という返事であった。
消費期限の短い食パンを交番に預けてもらって、翌日に電車か車に乗って取りに行くのも大袈裟かねぇと思った両親は、タクシーのおっちゃんに高級食パンを差し上げることにした。
我が家としては、もったいないけど。

まぁ、せっかく買ったもの(それも、品にしては結構なお値段のもの)が自分たちの胃に収まらなかったことはもったいないことであるが……。
この「もったいない」トラブルが、日は開いているけれども、今年のえべっさんの厄落しと考えたいものである。

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