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クシュン!クシュン!みんな死ぬ

3月5日、野毛のゴシックバー プラシーボで謝肉祭イベントを開催してきました。
謝肉祭(カーニヴァル)は移動祭日なので、今年の日程を調べて3/3~5だ、ということで、プラシーボのマスターと「5日にしましょう!」と日程を決めたのですが、実は3/3~5だったのは昨年で、今年の謝肉祭は2/23~25だったことが後から発覚。
そもそも謝肉祭は日曜から火曜なんだから(その翌日の「灰の水曜日」から四旬節が始まります)、もう少し早く気付いても良さそうなものですが、残念ながら日本ではあまり一般的な祭日ではないので、印象が薄いんですよね。

以前、フィレンツェに3ヶ月間語学留学していて、その後イタリア各地を旅行して回ったのですが、偶然にもヴェネツィア滞在日とカーニヴァルの時期が重なったので、世界に名だたるヴェネツィアのカーニヴァルを楽しむという非常に貴重な体験ができました。
ドレスやマントを身に着けた人々で溢れる街は、まるで中世にタイムスリップしたようです。
観光客は、普段着にマスクだけしていたり、鈴のついたピエロのような帽子をかぶっていたり。
サンマルコ広場には、ゴージャスな仮面と衣装を纏った人々が世界中から集まっていて、それはそれは見事でした。

カーニヴァル、イタリア語ではカルネヴァーレですが、その仮面を売っているお店がフィレンツェにありました。
Davidという若いアーティストのお店です。
私の連れは、彼の作ったペストマスクを購入していました。
ペストマスクとは、中世に恐ろしい黒死病(ペスト)が流行った時に、ペスト医者が着けていた長いくちばしのついたマスクです。
ペストに汚染された空気を浄化する為に、くちばしの先にお香を焚いていた、と聞きましたが、考えてみたら火をつけたらマスクが燃えてしまうので、お香を詰めていただけかも知れません。
連れは「クシュン!クシュン!みんな死ぬ」というフレーズを口にしていました。
マザー・グースのRing-a-Ring-o' Rosesという詩の一節です。

Ring-a-Ring-o' Roses,
A pocket full of posies,
Atishoo! Atishoo!
We all fall down.

一説によると、この詩はペストの流行を表しているのだそうです。
薔薇は、ペストの症状の赤い発疹のことなのだとか。
赤といえば、エドガー・アラン・ポーの『赤死病の仮面』もペストを連想させますが、こちらは実際にはコレラから着想しているということです。
全身から血を噴き出して死に至る、という症状からすると、エボラ出血熱のようでもありますね。
いずれにしても伝染病の恐ろしさを端的に表現した作品だと思います。

黒死病の名前の由来は、皮膚が内出血によって黒ずんで見えるからなのだそうです。
なるほど、フィレンツェのラ・スペコラにあるGaetano Zumbo(ゾンビの意味です。あだ名でしょうか?)作のペストの蔓延る街角の光景を描き出したジオラマでは、折り重なったペスト患者の死体は、不気味な黒褐色を呈しています。
この作品、実物を見ましたが、写真集で見た時の印象よりずっと小さかったことに驚いた記憶があります。
ペストのパンデミックでは、地域によって人口の30~80%が亡くなったというのですから、都市の機能は完全に停止していたことでしょう。

今世界中に広まっている新型コロナウイルス感染症ですが、未知の部分がまだまだ多いとは言え、感染するとほぼ確実に死に至るということはなさそうなので、その点はペストより大分マシと言えそうです。
とは言っても、油断は禁物。
亡くなった方のご冥福と共に、一刻も早い収束を祈ります。

画像はMONT★SUCHTアッシャー館の悪夢』より、赤死病のダンス。

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