見出し画像

演劇の宣伝美術ができるまで

みなさんこんにちは、
デザイナーのこうのななこ(akaちょいちょい)です🐣

デザイナーになるきっかけは演劇の宣伝美術でした。趣味で作りはじめたフライヤーで少しずつお金をいただくようになり、今やすっかりお仕事に。

現在はWEBデザインとUIデザインがメイン業務ですが、
いつだって心の故郷は演劇のフライヤー
特に自分の劇団の宣伝美術は、創作の原点です。

この記事では、自分が主宰する劇団ゆらじしゃくの次回公演『授業』の宣伝美術がどうやってできていったのかを説明します。
偶然の出会いも含めて、かなり自由な創作過程でした。

ものづくりの楽しさを感じていただけたり、
みなさまのアイデアの一助になれば幸いです🌱


ダブルキャストで2色パターンを作ったフライヤー


こちらが今回のフライヤーです。
何を感じるでしょうか?

ちょっと怖そう、
ちょっと人間のグロさを感じる、
派手、
でもよく見ると変でオモロい。

大体こんな感じの感想を持って欲しいなと思って作っています。

観た人が最初に気になってくれるのが、この真ん中の「ぐるぐる」。
こちらははじめに出てきたアイデアでした。

「男女が喰らいあっている輪」が最初のアイデア

最初に戯曲を読んだときに思ったこと、
それは「教授の一人芝居にしたくない」ということでした。

『授業』は、教授と生徒の関係性の変化を描いた作品です。

授業が進むにつれて、教授が生徒を支配する力が強まっていき、最終的に生徒は教授の◯◯の犠牲になります。(何の犠牲になるのか、犠牲とはなんなのか、は是非劇場でご覧になっていただきたいです!)

この戯曲を読んだとき、教授は自分だと思いました。

だからこそ、教授が1人で盛り上がり、まるで「人形」のように生徒を物質化するのではなく、
生徒も欲望を持った複雑な「人間」であり、
そのひとりの個性や欲望や想いをもった「人間」を私たちは、簡単に消費してしまうこと。
そしてその元になっている欲望は誰もが待ち合わせており、誰もが加害者にも被害者にもなりうること。

そんな舞台上で作りたい関係性の構造から、
教授と生徒がお互いに喰べあい、循環している様をモチーフに決めました。

男女が喰らい合うモチーフ

また、この作品には「繰り返し」が色んな形で登場します。
永遠に回り続ける様子は、その作品の持っている「繰り返し」へのオマージュでもあります。


「教える」ことで浮かび上がる自分自身のいやしさ

「教える」という行為は学校だけに限りません。仕事で後輩に依頼する行為も、演劇の演出と役者も、「教え、教えられる」の関係性を含んでいます。

また、わかりやすく「教え、教えられる」の関係性でないことが、いつのまにか支配関係に陥ることもあります。
最初はフラットな関係性からはじまった恋愛がいつの間にか上下の関係になったり、
はじめは1人の世界で楽しんでいた趣味が、いつの間にかその世界の中での闘争になっていたり。

人間という生き物は、何か人がいる土俵に立った瞬間に、
その場を「自分の優越心を満たすためのバトルフィールド」に変えてしまうのです。

その力は強く、人を蹴落としたり、自分の優越のために怒りを向ける行為は、脳内に猛烈になアドレナリンを産みます。
その結果、人は簡単に他人を、自分のために犠牲にしてしまいます。
そしてこれには、教える教わるという関係性の中で「正しさ」という武器をもって表に出てきやすい性質があると思います。

みなさんにも思い当たる節はあるでしょうか?
私にはバチバチにあります。
最終的に相手を犠牲にするところまでいかなくても、その虚栄心がにょきにょきと顔を出して、相手を蹴落とそうとする挙動を知っています。

この自分の中のどうしようもない欲望を「卑しさ」と呼び、
デザインのトーンは「人間の卑しさ」を前面に出した、いい意味で「きしょいもの」にしようと決めました。

こんな思考を経て、

・メインのモチーフは男女が食べ合う輪
・デザインのキーワードは「人間の卑しさ:きしょさ」

に決定しました🎉🐸

作成したムードボードの一部。Webで拾った画像の他、美術館で撮影した写真、旅行先で撮影した写真などが含まれています。

(普段のクライアントワークで「きしょいもの」を作れる機会ってなかなかないですよね。私は笑ゥせぇるすまんや、岡村靖幸や、アンリルソーやら、最高な意味でのちょっときしょい物が大好きなので、本当は「自分の趣味を全面に出している」という理由かもしれません👻)


イラストレーター探し

作りたいモチーフが抽象的なので、この時点でキービジュアルはイラストにしようと決めていました。
イラストレーター探しは、普段二つの方法で行っています。

一つ目は書籍です。
旬のイラストレーターさんがまとめて掲載されている書籍から探します。
「イラストレーションファイル」の上下巻にはなんと800人掲載されていて(凄まじい量…!)、おすすめです…!

二つ目は、日々の情報ストックです。
raindropというソフトを使い、日々気になったイラストレーターさんや写真家さん、印刷会社などの情報をストックしています。PCからでもスマホからでも、一瞬で情報をタグづけ/フォルダ分けしてストックできるので、raindropはなくてはならない存在です。

イラストレーターさんをストックしている実際のraindrop

今回イラストを依頼した谷小夏さんは、raindropの中から発見しました。
書籍やまとめ情報以外からイラストレーターさんを見つけるのは意外と難しいので、日々のストックが大切だと感じます。
かつての自分に感謝…🙏

ただ綺麗なものだけではなく、少し壊れたようなものや、気持ち悪いものにも、良さを感じている方にイラストを依頼したかったのですが、谷さんのイラストからはまさにそれを感じました。

どこか奇妙な点があるからからこそ滲み出るセクシーさや、人間の不完全さに、面白みを感じているようなところが谷さんのイラストにはあると思います。

オンラインMTGで
「どうやって男女が喰らいあっている絵にしようか?」
と構図の相談をした時には、
最近描いたという「顔が人間で身体が動物の絵」を見せていただきました。
そこにウロボロスの輪のヘビ🐍のアイデアを組み合わせ、イラストのキービジュアルは顔が人間、身体がヘビになりました。

MTG後にいただいたラフイラスト

ラフ段階でのクオリティが高すぎる😭
イメージが合致していたので、スムーズに進んだイラスト制作でした。

アーティスト植田さんとの出会い

イラストが決まったところで、後はチラシのデザイン。

元々、「授業」の題字は、ロープを編んで文字を作り、それをベクターデータに落としてロゴにしようと考えていました。
舞台美術や衣装で「木」のモチーフを大切に作っているので、ロープで木の幹や根っこが絡み合っている様子を作れたらなと。

そんなことを考えていた折、
1人で上野公園を散歩していた時に植田さんの展示に出会いました。
自身の脳神経回路を元にした版画作品を作っている植田さんの絵を観た瞬間、「これは授業の題字でやりたいことにぴったりだ」と感じました。

脳の神経回路から作られたオブジェクトは、血管のようにも、木の根のようにも見えます。
怒りや快楽を生み出す脳の神経が、養分を吸い取る木の根や、血を巡らせる血管に近いことに面白さを覚えました。

その場で題字制作のオファーをさせていただき、最初にあがっていたものがこちら。

凄まじい出来に驚きました😭
植田さんがこれまで積み上げてきた感性と技術をお借りできて、本当にありがたいです!

デザインの完成!

谷さんのイラストと植田さんの題字が両方活きるレイアウトを考えて、チラシのデザイン、WEBデザインが完成しました。

チラシは当初印刷しない予定だったのですが、デザインが気に入ったので趣味的に印刷しました。片艶クラフトという紙で、表面と裏面で質感が違っており、ダブルキャストで違う手触りを作ろうとしている演出にぴったりの紙です。インクのノリがよく、濃い色が綺麗で、満足いく仕上がりです…!

WEBデザインはこちら

WEBならではの動きを色々と遊びで入れていますので、ぜひ触ってみてください!


また、自分の劇団では、お客さんへの当日パンフレットの代わりでZINEを作成しています。今回も前回以上に豪華に作ろうと計画中ですので、ぜひお楽しみに!
前回公演のZINEはこちらからお読みいただけます👉

前回公演のZINE。役者インタビュー、舞台美術対談など、目一杯制作の裏側を公開しました。


振り返り

昨年、ロンドン芸術大学でファッションスタイリングの短期留学をしていたのですが、
その時に学んだのは「足を運んで、感じることの大切さ」でした。

普段デジタルのデザインをしている自分は、ついオンラインでデザインのリファレンスを探してしまいますが、
いざ「自分の制作物」を作ろうとなると、「今自分が何を作りたいのか」の直感がとても大切になってきます。

そのため今回の制作では、制作を始める2ヶ月ほど前から、美術館や旅行先など、リアルな現場に足を運び、ときめくものを五感で探すことを大切にしていました。
特に横浜トリエンナーレと、稽古開始直前に遊びに行った香港には大きな影響を受けました。

その影響は、ムードボードの作成に現れています。以前は、デザインをするときに直接アウトプットに影響するもの(WEBデザインだったら、グラフィックやタイポグラフィ、色、写真トーン)を集めて具体的な見た目のトーンを探っていましたが、
もっと広く「雰囲気」を表す別媒体のものを入れることで、ムードボード自体が立体的になるのを感じました。

また、散歩中に出会った植田さんにご依頼ができたのも、この「足を運んでときめくものを探す」の延長線上でできたことかと思います。
以前の自分だったら、その場ですぐに依頼しようという直感までは働かなかったかもしれません。


今回は宣伝美術の紹介でしたが、
本番の舞台では、さらに舞台美術・衣装・照明・音響、そして演技が加わります。

家で検証中の舞台美術

デザイナーと演劇はすごく似ていると思います。

「紙面で表現する」
「ウェブ上で表現する」
「舞台上で表現する」

ともに「何もない空間」の上に「抽象的な意味空間」を作り上げていく点が一緒だからです。

何もない空間の上に乗った舞台美術は一体何を意味するのか、その上で演じる役者の衣装にはそんな意味が込められているのか。

演劇は、そういった「デザインの意味」を考えるだけでも楽しんでいただけると思いますし、
目の前で人間が、普段の生活ではありえないレベルで感情を露わにする姿はそれだけで心を動かされるものがあり、音楽のように、ただ感じるだけでもお楽しみいただける芸術です。


上演時間は1時間と短く、劇場デビューにハードルの低い作品です。

7/14(日)と15(月祝)に阿佐ヶ谷で上演しますので、
演劇を見たことがある方も、
演劇にはあまり馴染みがないあなたも、
ご来場を心よりお待ちしております🫶☺️

🐍 公演詳細はこちら


🎟️ チケット好評発売中

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?