ちょっと「百合SF」について語らせてくれ
自分は昔から小説や評論問わず本をよく読むんですが、ここ最近でかなり刺さったジャンルがあります。それが「百合SF」です。その名の通り、百合とSFをかけ合わせたジャンルで、ハヤカワのSFマガジンで組まれた百合特集から大々的に認知されるようになりました。
ただ、ネットを見てても百合SFそんなに流行ってるようには見えません……。「百合SF」を押した作品も特段増えてるわけでもありませんし。なんだかブームが一瞬で過ぎ去った感じです。
というわけでいっちょ、百合とSF、そしてそのふたつをかけ合わせた百合SF好きの自分がその”良さ”について書いていき、百合SFを少しでも広めたいと思います。どうかお付き合いください。
百合はの良さは「純粋さ」
百合とは一言で書いてしまえば女の子同士の愛にまつわる感情を描いたジャンルです。そしてその百合の良さ、それは「純粋さ」です。
同性同士の愛という現代では未だ禁忌とされている感情の「純粋さ」が百合の良さなんですよね。禁忌ゆえに報われない、叶わないかもしれないのに愛して”しまう”、まさにアガペーでピュアな感情の揺れ動きに感動するのが百合の醍醐味だと思います。あと、登場人物が自身の気持ちが愛なのか、それともまた別の感情なのか悩むのもいいですよね。モラトリアム的なかわいさがあります。
百合は愛の表現方法も多種多様です。直接、愛が表現されたりしていることもありますが、ちょっとしたセリフや行動の端に現れたりしていることも多々あります。そんな奥ゆかしい愛を探しながら作品を読み進めるのが楽しいと思います。「これがこのキャラクターの愛情表現だったんだ!」となること間違いナシです。
ハヤカワの百合SFのキャッチコピーである「心の距離の物語。」は結構良いですよね。2人の間にある心の距離、その距離が生み出す2人だけの純粋な物語、それが百合ですからね。
自分のおすすめする百合作品は「あの娘にキスと白百合を」です。オムニバス形式になっていて、たくさんのカップリングの中で繰り広げられる多様な恋心が素敵な作品です。メインのカップリングである努力家な優等生のあやかと、天才肌でズボラなゆりねの2人の間にある若干重めな感情が素敵です。尊い。ほかの作品だと、「ふたりべや」や「終電にはかえします」とかもおすすめです。
SFの良さは「退廃さ」
では、SFの良さは何かというと、それは「退廃さ」です。SFの多くは科学技術の発達した未来やパラレルワールドを舞台にしています。そこで繰り広げられるのは理想とはかけ離れた退廃した現実です。科学技術が発達して世の中のさまざまな問題が解決された(される)はずなのに、どうもそうはならずに問題はまだまだたくさんある、みたいな感じでしょうか。そんな世界で登場人物がもがく姿に共感したり感動したりするのがSFの楽しみ方だと思います。
あと、SFでは人間の性のようなものがよく描かれています。科学技術が発達したのにも関わらず、良くも悪くも人間が進化していない光景は定番ですね。そこで描かれているのは血の通ったヒューマニズムな物語です。意外と熱いストーリーを楽しめるのがSFです。
まあ、SFは題材が多く複雑なので一概に良さは語れません。センス・オブ・ワンダーという言葉もありますし、未知のものが見れる/体験できることもSFの良さの1つだと思います。
自分のおすすめするSF作品の「夏への扉」は割りとカジュアルなSFです。小難しい科学的な話があまりないので、予備知識がない方でも読みやすいです。とにかく主人公が頑張る話なので感情移入しやすいですし、最後はスッキリと終わってくれます。ほかの作品だと、「星を継ぐもの」や「華氏451度」なんかもおすすめです。
百合とSFは「理想」を描いた物語
ここまで読んでもらってわかると思いますが、百合とSFには共通点があるんですよね。それは両者が「理想」を描いているということです。百合は2人だけの理想で純粋な物語、SFは人類が想像した理想の未来といったところでしょうか。しかし、この2つの理想は全く正反対の性質を持っています。
それが、上で書いてきた”良さ”の部分です。つまり、百合は「純粋な理想」を、SFは「退廃した理想」を描いているんですよね。この2つの真反対の理想によって百合SFの世界や物語にコントラストが生まれ、作品をより奥深いものにしているんです。これが、もう、素晴らしい。
アステリズムに花束を
そんな百合SFのアンソロジー小説がコチラの「アステリズムに花束を」です。
「アステリズムに花束を」の中で特に好きなタイトルは伴名練さんの「彼岸花」ですかね。吸血鬼(のような生物)に支配された世界で最後の人間の主人公が、吸血鬼の女学校に編入する物語です。交換日記を通して、女学校の”お姉さま”に想いを寄せ始める主人公の純粋な献身さと、主人公を取り巻く退廃した世界観がすごく素敵です。大正ロマン風の文体と相まって、すごく耽美。一発でやられました。
「アステリズムに花束を」のちょっと残念なところは、参加してる作家さんがSF畑の人ばかりなんですよね。なので、どの作品も内容の8割くらいがSFで2割くらいが百合の配分なんです。ちょっと百合成分が足りない……。
今後、もし同じような百合アンソロジーを出すなら百合をメインで書いてる作家さんを積極的に採用して欲しいですね。なんとかなりませんかね?ハヤカワさん。
あれも百合、これもSF
さんざん好き勝手に書いてきましたが、人によって百合やSF、そして百合SFの定義は異なると思います。どこかで聞いた言葉ですが、ジャンルなんてものは出版社が売り出しやすいように作られた括りでしかないです。作品そのものが面白く楽しめれば何でもいいんです。
というわけで、小説を読んでる方でちょっと変化球なものが読みたいな、百合好きだな、SF好きだな、と思った方は「百合SF」という視点で作品を探してみてはいかがでしょうか。新たな扉が開けるかもしれませんよ。では、また。