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タイのビーチはほっといてくれない②

パタヤといえば、タイ観光では定番の有名なビーチだ。ホテルからも歩いて行ける距離だったので、私たちはさっそくビーチに直行した。通りを歩いていると、Tシャツや土産物が所狭しと並んでいる。女性にしてはガタイの良いワンピース姿の店員が、たばこを吸いながら行き交う旅行者をじっと見ている。にぎやかで明るい印象だけど、なんとなく落ち着かない町だ。それはきっと母も同じ気持ちだっただろう。

ビーチにつくと、すぐさま目の前に男が現れた。地元の兄ちゃんといった風情で、笑ってはいるけれど狙った獲物は逃がさないという商売魂がガンガンに伝わってくる。とっさに身構えると、日本語で「ベット、パラソルこっち」と強引に誘導された。指さす先を見ると、白人の老夫婦や家族連れがビーチベットに寝そべっているのを見て少し安心する。どちらにせよパラソルがないと日差しがきつくて長居できないだろう。相場がわからないまま、言われた金額を支払って腰を下ろした。

やっと海を眺めてのんびりできる・・・そんな私の期待は、見事に打ち砕かれた。「ヒヤケドメ、サンオイルあるよ」「ドリンク」「オミヤゲ、Tシャツ」息つく間もなく、大量の売り物を抱えたおばちゃんたちが次々と目の前に現れ、消えていく。なかには、フェイスペインティングや編み込みをしてくれる子連れの物売りまで出てきて、少しでも子どもに微笑もうものなら、その隙をついてグイグイ値段交渉してくるお母さんもいた。

隣にいる母は、笑顔も拒絶もなくただ座っているので、しかたなく私が首を振り続けて右から左へ受け流す。もうのんびりどころではない。断るという作業は、私が一番苦手な分野なのだ。彼らだって生活がかかっているのだから必死なのはわかる。しかし、もうちょっと時間をおいて控えめに登場してくれてもいいではないか。断ったからってしつこくされるわけでもないのに、私は彼らの強烈なパワーに押されまくっていた。

やがて1人の兄ちゃんが、母とは反対側の私の隣に座り「ヨル、出テコレナイ?」と小声で話しかけてきた。その頃にはもう完全に心の余裕を失っていたので、彼の顔も見ずに「さあ」とそっけなく返す私。(そんなん知るか!)そんな心の叫びが聞こえたのか、しばらく黙っていた彼はこう言い残してその場を去った。「イッスン先ハ、闇ネ」


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