雑貨屋『このは』のお話。その6「ポスター」
「もみじさん、喜んでくれるかなぁ」
私は出来上がったポスターとお土産の入ったバスケットを手に、雑貨屋『このは』に向かう。
定休日の二日間と、私の本業の関係で都合がつかなかった二日間の、合わせて四日ぶりの『このは』。なんだかすごく久しぶりに感じてしまう。
ーーもみじさん、私のこと忘れてないよね?
夏休み明けの登校日のような気分。ドキドキしながら、店の扉を開ける。いつものドアベルの音が響く。
「こ、こんにち……ぅわあッ!?」
私は思わず荷物を落としそうになった。いつもはもみじさんと私しかいない店内に、なんと人がいたのだ。
髪を結い上げた和装の女性が静かに佇んでいる。すらりと背が高く、色白で黒目がちな瞳が印象的。年齢はおそらく私よりは上だろう。落ち着いた雰囲気の涼やかな美人さんだった。
「あら、ポン子ちゃん、お客さまみたいよ」
声も鈴の鳴るような……って、あれ?
「もう、お姉さん! ここでポン子はやめてっていったでしょう!」
カウンターの奥から、いつものエプロンを身につけたもみじさんが姿を現す。私は安心して、思わずへたり込んでしまいそうになった。
「あらあら、ごめんなさい。あなたがポン子ちゃんをお手伝いしてくれてる人間さんね」
「お・ね・え・さ・ん!」
「ああ、そうだった、ここではもみじちゃんだったわね」
「えっと、私は森山里子といいます。初めまして」
「初めまして、里子ちゃん。いつもポン子……じゃなくて、もみじちゃんがお世話になってます。私は、カノコといいます。今日は、山からお届け物をしにきたの」
ああ、この人が、前にもみじさんが話していた、鹿のお姉さんか。人に姿を変えられるのは、もみじさんだけじゃないらしい。すると、他の山の動物たちも人に姿を変えられるのだろうか?
「お姉さんはね、山では神社で暮らしている白い鹿でね、神様のお使いなの」
「今日はもみじちゃんのお使いだけどね」
カノコさんはそう言いながら微笑む。神様の使いにお使いをさせてしまうもみじさんは、なかなかな人物かもしれない。思わず応援したくなる気持ちにさせてしまうというのは、すごい才能だ。
「ところで、里子さん、その手に持っていのってもしかして」
「あ、そうだった」
私はバスケットをカウンターの端に置き、二人にポスターを広げて見せた。
「わぁ、ステキです! なんかキラキラして見えます」
「みんなの作品が並んでいるわね。山の子たちにも見せてあげたいわ」
「私ともみじさんで、イチオシの作品をじっくりと選んだんですよ。予備で何枚か作ったので、良かったら持っていって下さい」
どうやら、休み返上で作った甲斐はあったようだ。そして、もう一つ、この休みに頑張った作った物がある。
私はバスケットを開けて、中の物をもみじさんに手渡す。
「もし良かったら、3人でお茶にしませんか? アップルパイを作ってみたんです」
もみじさんは、満面の笑顔で、
「私、桑の葉茶、いれてきま〜す」
とカウンターの奥へとスキップしながら向かっていった。
「あらあら、もみじちゃんったら。私もフォークとお皿を準備してくるわね」
カノコさんもそう言って、カウンターの奥へ。
二人の背中を見つめながら、この幸せな空間を、いろいろなお客さんにお裾分けしていきたいという想いはさらに強めたのだった。
つづく。
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