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雑貨屋『このは』のお話。(その5) 「初めてのお茶会」

 雑貨屋『このは』宣伝ポスター大作戦は、作者一人(一匹?)につき一点という枠を作ったお陰で、どうにか作品を絞り込むことができた。
 分類して気づいたのは、それぞれに持ち味があるということ。あなぐまくんは几帳面、うさぎさんはポップ、きじさんは上品、おさるさんは真面目。そしてもみじさんはどこか懐かしくて温かみがある。
 私はスマホで何枚かずつ写真を撮ると、家のパソコンで、それを元に簡単なポスターを作ってくることをもみじさんと約束した。

 私たちは、品物を棚に戻す作業に取り掛かった。
「ところで、もみじさん」
「何ですか、里子さん」
「もみじさんはご飯とかどうしてるんですか?」
「それは一週間ごとに鹿のお姉さんに運んできてもらうことになっています。どんぐりとか木の実とか。山にいた時はミミズや虫も食べていましたけど、人の世界にいる時はやめておいた方がいいって言われて」
 私はミミズや虫と聞いて、内心ちょっとドキッとした。けれど、でもそれがもみじさんの自然の姿なんだと思うと、気の毒に感じた。
「でもでも、師匠がビーフジャーキーとか魚の干物とかも送ってくれて助かっています。塩気が強いから、お湯で煮て塩気を抜いて食べなさいって。あとは……非常食にドッグフードも置いてます。パッケージの写真が怖くて、ダンボールに詰めたままなんですけどね」
 いやはや、動物が人間界で暮らすのって、こんなにも大変なのか。近くのコンビニで外国人の店員さんがいるけど、もしかしたら同じような苦労をしているのかもしれない。そんな苦労をしてでも、お店を開きたいと思ったもみじさんの情熱と覚悟はやはり並ではない。
ーーでも、もしできるなら。
 もみじさんと休憩時間に一緒に食べられる物もあると良いな。果物とかが大丈夫なら、砂糖控えめのアップルパイとかどうだろう? 私は梅の花柄のお皿を眺めながら(多分、これはうさぎさんの……当たった!)思案を巡らせた。

「里子さん、ちょっとお茶にしませんか」
 もみじさんがお盆にマグカップを2つ載せて店の奥から現れた。
「ありがとうございます」
私はカップを受け取ると、一口すすった。口の中に香ばしい香りが広がる。緑茶ではないようだけれども。
「もみじさん、このお茶って……」
「あ、これは桑の葉のお茶です。山で取った葉っぱを使っているんですよ。師匠のお気に入りで。気に入っていただけるといいんですけど」
「初めて飲んだんですけど、なんかホッとする味です。おかわりしたくなっちゃう」
「どうぞどうぞ、まだいっぱいありますから」
 もみじさんは、嬉しそうに私のカップに桑の葉茶を足してくれた。
ーーこんなに美味しいお茶があるなら、やっぱり美味しいおやつも必要だわ!
 私の頭の中は、ますますスイーツの妄想でいっぱいになっていったのだった。

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