見出し画像

植物の生存戦略 ~クルミ~


古くから食用とされ、健康食品としても注目されているクルミ。

その果実(堅果)には植物としての工夫が込められています。

日本には可食クルミが4種類

日本に自生または栽培されるクルミは4種類あるとされ、全てクルミ属(Juglans)に含まれています。サワグルミという植物もありますが、こちらはサワグルミ属(Pterocarya)で、近縁ですが同属ではありません。

カシグルミ
シナノグルミ(テウチグルミ)
オニグルミ
ヒメグルミ

が正式和名とされるようですが、ややこしいことにシナノグルミをカシグルミと呼んだり、テウチグルミのほうを基本名称としている本があったり色々混乱があります。色々見てみると、「カシグルミ」「テウチグルミ」は「菓子に使える」「手で割れる」という用途由来の名称なので、条件が合えば気軽に使われている印象です。

うちはカシグルミ、オニグルミ、ヒメグルミがあります。

特に詳しいサイトはこちら

さらに、ヒメグルミはオニグルミの変種とされていたり、そもそもオニグルミのうちしわが少なくて割りやすいものをヒメグルミとする分類もあったり……。詳しく分け入るとそれなりに複雑です。

クルミの実は水に浮く

クルミの硬い実は水に浮くようには見えませんが、実はとても安定して浮いていられます。水に浮いているともう中身が無いんじゃないかと思われるかもしれませんが、ちゃんと生きていて芽生えることができます。

逆にドングリは水に浮きません。水に浮くドングリは既に虫食い状態なので発芽できないのです。

つまり、クルミは水に浮いて移動することも視野に入れて設計された堅果なのです。

動物散布もする

これはご存知の方も多いと思いますが、アカネズミやリス類は貯食といって冬の保存食としてドングリやクルミの類を大量に巣穴や土に埋めて保存します。このときに掘り出し忘れたものが芽を出すので、クルミもドングリも生息域を広げることができます。

さらに、カラスもクルミを好みます。地元でジョギングをしていると、道路上に脈絡なくクルミが落ちていることがあります。こういった鳥による移動でも生息域を増やせるかもしれません。ただし、クルミは基本的に「埋めてもらう」必要があるので、ネズミやリス、あるいは物好きな人間が埋めてくれなければ高確率で枯れます。

ちなみに、カシグルミの類は高度10mくらいから硬い道路に落とすと高い確率で割れます。カシグルミの場合は、カラスが落として回収しそこねた物が道路に落ちているのでしょう。ところが、オニグルミのほうはそれくらいでは割れません。オニグルミの殻は極めて厚く、硬さと弾性を併せ持ち、単純に固い場所に打ち付けても跳ねるだけです。実際、僕が道路に叩きつけてみても、割れるどころかとんでもない方向へ飛んでいってしまいます。よってカラスは、オニグルミについては落として割るのではなく、車が踏むように仕向けているようです。

埋めると生える

クルミの発芽には湿り気が必要です。リスやアカネズミが地面に埋めることで発芽しますが、人間も真似して土深く埋めることで発芽し、しっかり根を張ることができます。以下のように、中途半端なところで芽を出そうとすると枯れてしまいます。

人間用

人間もまた、クルミの分化と繁栄に貢献してきました。カシグルミは殻が薄く、割りやすいものが品種改良されていきました。

ヒメグルミは、一見すると小さく、食べづらいように見えます。ところが、割ってみると中身はつるつる滑らかで、取り出しやすいのです。

オニグルミもヒメグルミも日本では縄文時代から食べられていたと考えられていますが、割ったときに中身を取り出しやすいヒメグルミは特に便利だったのではないかと考えています。

もしかしたら、ヒメグルミのような性質は人間が選んである程度品種改良した結果かもしれません。

クルミは常温で数年保存できるため、保存食としてとても便利です。油分を豊富に含み、健康食でもあるクルミ。最近はヒメグルミも道の駅でも販売されていることがあります。試してみては?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?