見出し画像

アメリカにおける表現の自由(地獄)

アメリカの表現の自由というものが色々取り沙汰されていますが、アメリカの表現の自由はこんな感じです、という記事です。アメリカという国は元々イギリスという権威主義から独立する形での「アメリカ独立戦争」

という形で自由を獲得しているため、アメリカ国民はとにかく自由にこだわります。ある意味では「自由」という概念に拘束されすぎているともいえるのですが、こういう経緯があったからこそ、日本を占領統治したときも比較的自治権を認め(プーチン戦争までは酷い圧政だと思っていましたが、他国の占領統治と比べると全然マシだったようです)、日本の独立を後押しできる土壌となったともいえ、一概に批判するのはなんだか腰が引けます。

しかしながら、個人を罵倒したり、虚偽の報道をされても実質的に報復したり名誉を回復する統一的な手段が確立されていない以上、「異常な判例」にて指摘している「表現の自由」事件は再考すべきと思います。また、国旗を燃やすという行為についても、少なくともそのメッセージ性の真偽くらいは法的に規制を設けても良いのではないかとも考えています。

憲法と司法

言論や表現の自由は、アメリカ合衆国成立のかなり早い段階で取り入れられた概念です。アメリカの憲法(1788年に発効)に盛り込まれている基本的人権の一つであり、「修正第1条[信教・言論・出版・集会の自由、請願権](1791年成立)ですから憲法が施行されてから3年後に盛り込まれたことになります。

「連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。」

というのが修正条項であり、本来は国や貴族のような権力者が、不正を働きその不正を改めないようなときに、国民運動としての権利を損なわないためという主旨が強いものです。これは憲法の理念の源流としての側面が強い「バージニア権利章典」の反逆の権利から具体化され、国家転覆権といえるほど不穏ではないものの、抵抗権(革命権、反抗権)の一部として明文化された「民主主義の根幹」というのがその看板です。

アメリカ合衆国憲法和訳

アメリカ合衆国憲法に追加されまたはこれを修正する条項

バージニア権利章典

一方で、権力者による圧政を恐れる余り、この「信教・言論・出版・集会の自由」に対してはほとんど限定規定を設けず、バージニア権利章典にあった「公共の福祉common benefit」という文言は取り払われています。

勿論、公共の福祉という名目が曖昧なために圧政に使われる可能性は捨てきれないのですが、これを取り払ったこと、さらにはアメリカが判例を重視する判例法(不文法、コモンロー)である点が、いわゆる「表現の自由」の暴走を招いています

この暴走は、日本におけるジェンダークレーマーの類とは真逆で、「具体的な個人を罵倒しても傷つけてもお咎めなし、商業的な損害が出れば民事で解決(つまり損害金を支払え)、ただし一般人は普通は損害認定しないぞ」というものです。ジェンダークレーマーが「別に個人を罵倒しているわけでも損害を与えているわけでもなく犯罪を助長している証拠もないけど、駄目な気がするから規制しろ」とはベクトルも立ち位置も異なるわけです。

アメリカは判例法なので、以下の判例は今後も適用されます。具体的に言えば、下記事案に相当する程度なら表現の自由として黙認され、一銭たりとも賠償しなくて良いし謝罪する必要もないのです。

意外な判例

アメリカは表現規制が強いようなイメージを持つ人が多いと思いますが、実は裁判になると大抵は表現の自由が優先されます。有名で記事にアクセス可能なものを以下に。

冒涜する目的でアメリカ合衆国の国旗を焼却することを禁止する法律は違憲。つまり、冒涜目的であっても国旗を燃やすのは自由。


自らアクセスしなければ触れずに済む性的な表現は好きにすればよい。


・ヘイ

トスピーチは表現の自由であり好きにしてよい。(ただし、わいせつ、文書による名誉毀損、喧嘩言葉など一部例外もある)


性的なコンテンツを扱う番組に過大な配慮を求める法律は、内容に基づく表現規制にあたるため違憲。


架空の児童を描いた、バーチャル児童ポルノの表現と所持を禁止する法律は違憲。


異常な判例

日本人からすると異常と思える判決ですが、これも許されています。

性的な意味でだいぶアレなものもありますので、苦手な人はご注意を。



・テレビ伝道師、政治コメンテーターのジェリー・ファルウェルが近親相姦に耽っていると描写したパロディ広告を掲載した『ハスラー』誌は合法。合衆国最高裁判所の判決。


人種差別的であっても商標登録できる。

ザ・スランツ(The Slants、つり目の意味)を商標として登録できる。関連して、レッドスキンズ(赤肌、これは現地のスラングでインディアンの蔑称と考えられている)というチーム名も問題ないと考えられるようになった。(人種、民族、性別、宗教、年齢、障害、またはそれ以外の固有の属性を持つことを理由に品位を傷付けようとする表現は忌々しいものである。しかし、表現の自由に関する法学で我々が最も誇りとする点は、「我々が忌々しく思うもの」を表現する自由を保障することである)

このあたりが有名なようです。他にも見たい方は以下のリンクをどうぞ。なお、日本にはアメリカの判例をそのまま読める翻訳本があまりなく、ネット上の情報が多くなります。


アメリカ合衆国連邦最高裁判所判例

アメリカ合衆国連邦最高裁判所判例の一覧


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?