植物の生存戦略 ~葉の変異~
葉の形は植物を見分ける重要なポイントですが、同じ植物でも成長段階や環境などで葉の形が変わることがあります。例えば、次の写真はクワ科のクワ(蚕がたべるやつです)と思われる野生株ですが、葉の形はバラバラです。
このような性質を、異形葉性といいます。クワ科の植物は特に変化が著しく、慣れないといくら図鑑をみても種類が判明しないことも。
一見すると面倒なこの性質ですが、実は植物が生きるために必要な戦略である場合が多く、ある程度の説明がつけられているものも沢山あります。
守りを固めるカイヅカイブキ
カイヅカイブキは普段は「鱗片葉」と呼ばれる葉を出しますが、剪定などで枝が激しく傷つけられると「針葉」を出すようになります。
これは、鹿などの食害から身を守る適応と考えられます。針葉は固くて作るのが大変な上、光合成能力も低いので日常用には向かないようなのですが、食害を受けた非日常においては身を守るために食害を受けた周辺だけ針葉に変わるようです。
面白いですね。このようにはっきりと二分できる異形葉性は別名「二型性 (dimorphism)」と呼びます。
ちなみに、カイヅカイブキは種から発芽した場合、幼いうちは針葉なのだそうです。こちらも、背が低くて食害を受けやすく、体が小さいために食害されたら枯れかねないので用心しているようです。このあたりの合理性には感心します。
小さいうちはがっちり防御するヒイラギ
ヒイラギは棘のある葉が有名ですが、
成長が進むと棘が小さくなったり数も減り、ついには丸くなってしまう性質があります。
人間と同じく、年をとると丸くなるわけです。理由は明快で、小さいうちは背が低いので鹿などの食害にあいやすく、体力もないので棘をつけてしっかり防御します。棘を作ると体力を消耗するので成長は遅くなりますが、死ぬよりはマシ、ということでしょう。
やがて成長し、多少食べられてもすぐ葉をつけなおす体力がつき、また背も高くなり全ての葉を食べられてしまう心配がなくなると、刺々しい態度をとる必要もなくなるわけです。
面倒になると切れ込まなくなるクワ
クワは、基本的に若いほど切れ込んだ葉になるようで、
あとは日陰になると切れ込みやすいようです。ただ、同じ木でもかなり変異があり、割と適当です。
イチジクは逆に大人になると切れ込む
同じクワ科ですが、イチジクは逆の傾向が見受けられます。挿し木にしたごく小さい葉では切れ込みはほとんどありませんが、
成木になると切れ込むようになります。
ただし、イチジクの葉の形は変異が激しく、品種間でぜんぜん違いますし、同じ木でも切れ込んだり切れ込まなかったり気分屋な感じ。
推測ですが、イチジクは葉が大きいので、太い葉脈に対してあまりに面積が広がりすぎる場合には破れやすくなるのである程度以上の大きさでは葉の広がりを抑制し、結果的に切れ込んでいるように見えるのではないかな、と思います。つまり、骨組みになる葉脈に近い位置に葉を成長させた結果、切れ込み型になったという。
ありえないほど変異するが合理的なカクレミノ
カクレミノについてはこちらが詳しいので詳しくはこちらを。
要は、切れ込みのない葉は「効率が良いが逆境(日照不足)に弱い」陽葉、切れ込んだ葉は「効率は高くないが暗くても光合成できる」陰葉であるとのことです。
いかがでしょうか。クワ科、ウコギ科、モクセイ科など一部の植物の葉は変異が激しく素人泣かせですが、その戦略は大変興味深いものです。庭木になっているものも多いので、一度注意して観察すると新たな発見があるかもしれません。
ではまた。
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