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知名度の武器

名誉毀損に当たる内容をRTしただけで、名誉毀損に当たるという判例が生まれました(橋本氏の件に続いて2件目?)。


これはまったく別の犯罪要件を構成しうる判例です。名誉毀損の内容を述べるのではなく、RT、つまり拡散したこと自体が罪に当たる。それはすなわち、「拡散罪」というべき概念です。街頭で継続的に特定の人物の悪口を叫び続けることは当然名誉毀損になりえます。ところが現在では、このような明らかな現行犯逮捕できる名誉毀損ではなく、しかも手軽かつ莫大な拡散力を得られるSNSによる情報の拡散が可能であり、今回の判決はこの「拡散」を有罪化したといえます。

通常の人間は、他者の名誉毀損行為を肩代わりしたり、手伝うほど奉仕的ではありません。しかし、SNSの手軽さ、匿名性が加わるとそのハードルは大きく下がり、「正義感」「愉快感」「売名」「嗜虐性」などを動機として、RTや拡散といった名誉毀損の手伝いや代替行為を担ってしまいます。これはやられた側からすればたまったものではありませんので、何らかの抑止力が必要なのは当然でしょう。

これ自体に異論はありませんが、こうなると明らかに法的な不平等が生まれました。それは拡散力の違いです。フォロワー100人の人間が名誉毀損した場合と、フォロワー10万人のインフルエンサーが名誉毀損した場合の被害は同じではありません。インフルエンサーは、その「拡散力」をもって、いわゆる「アフィリエイト」で稼ぐこともできる反面、時には特定の店をこき下ろすだけで店を潰してしまうことも可能です。つまり、拡散力は武器でもありますが、使い方を間違えれば凶器にもなります。

一般的な認識として、フォロワー100人の人間が特定の蕎麦屋Aの蕎麦に虫が入っていたと中傷した場合と、フォロワー250万人のインフルエンサーが蕎麦屋Aの蕎麦に虫が入っていたと中傷した場合、これはまったく違います。拡散可能性も単純計算で25000倍です。ゴム鉄砲と本物の拳銃くらいの違いです。



大げさでしょうか?例えば、千鳥のノブさんはインスタグラムで271万人のフォロワーがいます。ノブさんは賢いと思うのでありえない事ですが、もし、彼が「○○の蕎麦屋の接客が最悪だった。二度といかない」と特定の店をこき下ろしたとすると、その店はとても無事ではすまないでしょう。賢い芸能人が政治の話題やこういったネガティブな話題に触れないのは理由があります。彼らは自らの知名度が危険な凶器となりうることを理解しているのでしょう。知名度がありすぎると、余計な一言が一般人の人生すら変えてしまうということです。

輪ゴム鉄砲で人の顔を撃っても傷害罪にはなりえますが、これが拳銃による狙撃と同等に扱われるものではないのと同様に、SNSにおける拡散の被害算定にもその威力を換算するなんらかの指針が必要だと思います。少なくとも現状では、

  • 飲食店の店長を拡散力という拳銃で撃ったインフルエンサーも拡散力という輪ゴム鉄砲で撃った人間も同じ罪状・量刑

  • インフルエンサーを輪ゴム拡散力で撃った人間は、インフルエンサーの拡散力で私刑にしてもいいし、裁判でぶちのめしても良い

  • インフルエンサーに拡散力という拳銃で撃たれた個人は、経済力が死ななければ裁判で勝負できるが、負けたらおしまい

という極めて不均衡な力関係にあります。拡散を行った場合の、実際の拡散影響力の試算や概算方法が必要だと思います。


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