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WHOにおける麻薬(特に大麻)の取り扱い

WHOと国連麻薬委員会は、いわゆる麻薬類の取り扱いの指標を定めています。厳密には、WHOが医学的立場から勧告しつつ、国連麻薬委員会が「1961年麻薬に関する単一条約」「1971年向精神薬に関する条約」において条文による定義を行っています。全文はこちら

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=97128000&dataType=0&pageNo=1

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=97136000&dataType=0&pageNo=1

にあります。麻薬に関する単一条約は主にアヘン系の麻薬を規制する目的で1961年に採択されましたが、後に覚醒剤のような合成麻薬が台頭してきたため、1971年に追加で向精神薬に関する条約を追加で採択しました。ですが、原文の可読性は著しく悪く、単純な内容でさえ誤読されています。特に、1961年の単一条約は麻薬類を有用性と危険性によってスケジュール(カテゴリー)Ⅰ~Ⅳに分類していますが、なぜかⅣが最も危険でその次がⅠという設定です。つまり、危険度順に並べると最も危険なⅣ→Ⅰ→Ⅱ→Ⅲの順です。わかりにくい!!

まあ、一応理由があるようで、ⅣはⅠ中の特別手配リストみたいな扱いなのです。つまり、ⅣはⅠの一部。Ⅳから外れると自動的にⅠのカテゴリーになるんです。Ⅰが殺人犯だとしたら、Ⅳは凶悪殺人犯みたいな感じですかね。

なお、1971年の向精神薬に関する条約は危険度は順にⅠ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳです。そしてさらに、大麻のスケジュール(カテゴリー)は1961年では最も危険で価値がないスケジュールⅣ、1971年では最も危険で価値がないスケジュールⅠ(と一部Ⅱ)です。つまり、数字は違いますが同じカテゴリーなのです。1971年の段階では、大麻は医療価値が認められず、危険性だけが大きいカテゴリーでした。

さて、一部の報道機関が「国連が、麻薬に関する単一条約の附表IVリストから大麻を削除」という誤解を招く報道をしています。これではまるで大麻が規制対象から外れたような印象を与えてしまいますが、実際には「移動」です。これは結局、報道がいい加減なのと、条約がわかりにくいのが原因なので、表を交えて解説します。

麻薬類のカテゴリー

麻薬は、麻薬に関する単一条約の第二条において4つのカテゴリーに分けられ、附表Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ に具体的に記されます。この附表の枠組みは以下の分類になっています。見ての通り、危険性は4,1,2,3の順に減少します。

1961単一条約1

そのほかの麻薬、向精神薬は向精神薬に関する条約の第二条において、4つのカテゴリーに分けられ、付表Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ に具体的に記されます。

1971向精神薬条約

そして、2020年12月に行われた投票により、大麻は1961年の附表のⅣから削除され、附表Ⅰのみの住人になりました。

1961単一条約2

大麻についてはこのような扱いになっただけであり、つまりはモルヒネのように、「危険だけど医学的に有用なので、医療目的のために厳格に管理された状況でのみ利用を許可する」というものです。

以下、条文を一部引用します。


1961年の麻薬に関する単一条約
第二条 統制を受ける物質
1 附表Ⅰに掲げる薬品は、特定の薬品に限つて適用される統制措置を除くほか、この条約に基づいて薬品に適用されるすべての統制措置、特に第四条(c)、第十九条、第二十条、第二十一条、第二十九条、第三十条、第三十一条、第三十二条、第三十三条、第三十四条及び第三十七条に定める統制措置の適用を受けるものとする。
2 附表Ⅱに掲げる薬品は、小口取引について第三十条2及び同条5に定める措置を除くほか、附表Ⅰに掲げる薬品に適用される統制措置と同一の統制措置の適用を受けるものとする。
3 附表Ⅲに掲げる製剤以外の製剤は、その含有する薬品に適用される統制措置と同一の統制措置の適用を受けるものとする。ただし、これらの製剤については、その薬品に関する見積り(第十九条)及び統計(第二十条)と別個の見積り及び統計を必要とせず、また、第二十九条2(c)及び第三十条1(b)(ii)の規定を適用することを要しない。
4 附表Ⅲに掲げる製剤は、附表Ⅱに掲げる薬品を含有する製剤に適用される統制措置と同一の統制措置の適用を受けるものとする。ただし、これらの製剤については、第三十一条1(b)及び同条3から15までの規定並びに取得及び小口分配に関して第三十四条(b)の規定を適用することを要せず、また、これらの製剤に係る見積り(第十九条)及び統計(第二十条)については、必要な資料は、これらの製剤の製造に使用される薬品の数量に関するものに限られる。
5 附表Ⅳに掲げる薬品は、附表Ⅰにも含まれるものとし、附表Ⅰに掲げる薬品に適用されるすべての統制措置の適用を受けるものとする。さらに、
(a) 締約国は、これらの薬品の特に危険な特性に照らして必要であると認める特別の統制措置を執るものとし、また、
(b) 締約国は、自国における一般的状況から判断して、これらのいかなる薬品についてもその生産、製造、輸出、輸入、取引、所持又は使用を禁止することが公衆の健康及び福祉を保護するために最も適した手段であると認めるときは、これらの行為を禁止するものとする。ただし、医療上及び学術上の研究(締約国の直接の監督及び管理の下に又はこれに従つて行なわれる臨床試験を含む。)にのみ必要なこれらの薬品の数量については、この限りでない。


1971年の向精神薬に関する条約
第二条 物質の統制範囲
1 締約国又は世界保健機関は、まだ国際的な統制の下にない物質に関し、自己の有する資料により当該物質をこの条約のいずれかの付表に加えることが必要であると認める場合には、事務総長に対し、その旨を通告し、かつ、その通告の裏付けとなる資料を提出する。このような手続は、締約国又は世界保健機関が一の物質をいずれかの付表から他の付表に転記し又は付表から削ることを正当とする資料を有する場合についても、適用する。
2 事務総長は、1の通告及び関係があると認める資料を締約国、麻薬委員会及びその通告が締約国によって行われたときは世界保健機関に送付する。
3 1の通告とともに送付された資料により、国際的な統制の下にない物質を4の規定に従って付表Ⅰ又は付表Ⅱに含めることが適当であることが明らかとなった場合には、締約国は、入手可能なあらゆる資料に照らして、それぞれの場合に応じて当該物質について付表Ⅰ又は付表Ⅱに掲げる物質に適用されるすべての統制措置を暫定的に適用することの可能性を、検討する。
4 世界保健機関は、国際的な統制の下にない物質が次の(a)及び(b)の基準を満たしていると認める場合には、麻薬委員会に対し、当該物質についての評価(濫用の程度又は可能性、公衆の健康上及び社会上の問題の重大さの程度並びに当該物質の治療上の有用性の程度を含む。)を、その評価に照らして適当と認める統制措置を勧告するときにあってはその勧告とともに、通知する。
(a) 当該物質に次の(i)又は(ii)のいずれかの状態を引き起こす作用があること。
(i) (1)依存の状態及び(2)幻覚をもたらし又は運動機能、思考、行動、知覚若しくは感情に障害を起こす中枢神経系の興奮又は抑制
(ii) 付表Ⅰから付表Ⅳまでに掲げる物質と同様の濫用及び悪影響
(b) 当該物質がこれを国際的な統制の下に置くことを正当化するような公衆の健康上及び社会上の問題となるほど濫用されており又は濫用されるおそれがあるという十分な証拠があること。
5 麻薬委員会は、世界保健機関の通知を考慮する(ただし、医療上及び学術上の事項に関する世界保健機関の評価は、そのまま受け入れなければならない。)とともに、経済的、社会的、法律的及び行政的要因その他関係があると認められる要因に留意して、国際的な統制の下にない物質を付表Ⅰから付表Ⅳまでに加えることができる。麻薬委員会は、世界保健機関その他の適当な情報源に対し、更に他の資料を求めることができる。
6 1の通告がいずれかの付表に既に掲げられている物質に関するものである場合には、世界保健機関は、麻薬委員会に対し、新たに判明した事項、4の規定を準用して行うことのある当該物質についての新たな評価及びその評価に照らして適当と認める統制措置に関する新たな勧告について通知する。麻薬委員会は、5の規定を準用して世界保健機関の通知を考慮するとともに、5に規定する諸要因に留意して、当該物質をいずれかの付表から他の付表に転記し又は付表から削ることを決定することができる。
7 麻薬委員会がこの条の規定に基づいて行ういずれの決定も、事務総長により、すべての国際連合加盟国、国際連合の非加盟国であるこの条約の締約国、世界保健機関及び統制委員会に通知される。当該決定は、その通知の日の後百八十日を経過した後、各締約国について完全に効力を生ずる。ただし、一の物質をいずれかの付表に加える決定に関し、例外的な事情のため、当該付表の物質について適用されるこの条約の規定のすべてを当該一の物質について適用する状況にはない旨の書面による通告をその期間内に事務総長に送付した締約国については、この限りでない。通告には、このような例外的な措置をとった理由を記載する。締約国は、その通告にかかわらず、最小限、次の統制措置を適用する。
(a) 従来統制の下になかった物質で付表Ⅰに加えられたものについて通告を行った締約国は、第七条に規定する特別の統制措置をできる限り考慮するとともに、当該物質について次のことを行う。
(i) その製造、取引及び分配について、付表Ⅱに掲げる物質に関する第八条の規定に従い免許の取得を義務付けること。
(ii) その供給又は調剤については、付表Ⅱに掲げる物質に関する第九条の規定に従い処方せんによることを義務付けること。
(iii) 第十二条に定める輸出及び輸入に関する義務を履行すること。ただし、(a)の物質について通告を行った他の締約国を相手とする輸出又は輸入については、この限りでない。
(iv) 輸出及び輸入に関する禁止及び制限についての義務であって付表Ⅱに掲げる物質に関して第十三条に定めるものを履行すること。
(v) 第十六条4(a)の規定に従い統制委員会に統計報告を提出すること。
(vi) (i)から(v)までに定める義務の履行のために定められた法令に違反する行為を防止するため、第二十二条の規定に従って措置を講ずること。
(b) 従来統制の下になかった物質で付表Ⅱに加えられたものについて通告を行った締約国は、当該物質について次のことを行う。
(i) 第八条の規定に従い、製造、取引及び分配のための免許の取得を義務付けること。
(ii) 第九条の規定に従い、供給又は調剤については処方せんによることを義務付けること。
(iii) 第十二条に定める輸出及び輸入に関する義務を履行すること。ただし、(b)の物質について通告を行った他の締約国を相手とする輸出又は輸入については、この限りでない。
(iv) 第十三条に定める輸出及び輸入に関する禁止及び制限についての義務を履行すること。
(v) 第十六条4の(a)、(c)及び(d)の規定に従い統制委員会に統計報告を提出すること。
(vi) (i)から(v)までに定める義務の履行のために定められた法令に違反する行為を防止するため、第二十二条の規定に従って措置を講ずること。
(c) 従来統制の下になかった物質で付表Ⅲに加えられたものについて通告を行った締約国は、当該物質について次のことを行う。
(i) 第八条の規定に従い、製造、取引及び分配のための免許の取得を義務付けること。
(ii) 第九条の規定に従い、供給又は調剤については処方せんによることを義務付けること。
(iii) 第十二条に定める輸出に関する義務を履行すること。ただし、(c)の物質について通告を行った他の締約国を相手とする輸出については、この限りでない。
(iv) 第十三条に定める輸出及び輸入に関する禁止及び制限についての義務を履行すること。
(v) (i)から(iv)までに定める義務の履行のために定められた法令に違反する行為を防止するため、第二十二条の規定に従って措置を講ずること。
(d) 従来統制の下になかった物質で付表Ⅳに加えられたものについて通告を行った締約国は、当該物質について次のことを行う。
(i) 第八条の規定に従い、製造、取引及び分配のための免許の取得を義務付けること。
(ii) 第十三条に定める輸出及び輸入に関する禁止及び制限についての義務を履行すること。
(iii) (i)及び(ii)に定める義務の履行のために定められた法令に違反する行為を防止するため、第二十二条の規定に従って措置を講ずること。
(e) 一層厳しい統制及び義務が課される付表に転記された物質について通告を行った締約国は、当該物質につき、最小限、これが掲げられていた付表について適用のあるこの条約のすべての規定を適用する。

以上です。


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