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沼田友の [short story]

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5~10分ほどで読み終えられる物語たちです。ちょっとづつ御蔵出ししてゆきます。
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2014年4月の記事一覧

横浜アリーナ/supernova [short story]



【あらすじ】新横浜駅で久々に再会した兄と妹は、これから横浜アリーナへミュージシャンのライブを観に行く。ところが、兄が友人として連れてきたのは――。
天文学者への道を進む兄と、その兄を天文学へ引きずり込んだ妹。ふたりの距離は、まるで遠い星の天文現象のように、ライブ開演前までの短時間で静かに揺れ動いてゆく。

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蜂起 [short story]

 とある遠い遠い国の、人里離れた山奥に、まったく馬鹿げているほど巨大な工場が建っていた。中には何千人もの、何万人もの従業員がひっきりなしに働いている。大小様々な無数のパイプが天井を這い、延々と続く長い長いベルトコンベアーが折り重なって広い敷地を埋め尽くしている。納期を控え、従業員たちは多忙を極めていた。

 流れてくる不良品を手早く選り分けながら、従業員の一人が隣の者にこう呟いた。

 「なぁ、日

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バッテリー [short story]

 正午を回り、照り付ける光はますます激しさを増して男の背中に突き刺さる。三十代前半だろうか、ワイシャツのボタンを三つも四つも空けて、男はコンクリートの道路の上をよろよろと歩いていた。

 この暑さで男の車のバッテリーがオーバーヒートしてしまい、止む終えず、車から3キロも離れたスタンドへと急いでいたのである。灼熱の中、男は無防備なほどの軽装で――この砂漠の、ど真ん中を、一本の直線道路を挟んでどこまで

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渋谷  1225  [short story]

 道玄坂のガストは満席で入れなかった。二人はそのまま渋谷駅の方に向かって下り始める。12月25日、午前3時。寒々とした夜だった。計画性というものに乏しいふたりにとって、普段のコースで一泊するにはあまりにも混雑した夜で、ふたりはこの深夜過ぎの渋谷の路上にはじき出されてしまっていた。

 道々の過剰な装飾が、彼女をさらに苛立たせる。

「クリスマスなんて、嫌いだよ」

「何、いい思い出無いの?」

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ぐりうむ達のクリスマス [short story]

 『“サンタハラボジ”はうちにも来るの?』

 まだ幼い日に、膝の間から見上げたあのオンマの顔を、ミンホは今でも忘れられない。

 12月24日。ミンホにとって11回目のクリスマス・イブは、決して楽しいものではなかった。オンマは長らく患っていた持病が悪化し、この夏からずっと市のクリニックに入院したままだった。それからミンホは、アッパとふたりでこのマンションに暮らしている。アッパはミンホをよく気遣っ

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神の審判 [short story]

  A市市内、夜の繁華街。

 その少女は、人が最も多く行き交う、一番街の真ん中に建つビルの階段を登っていた。この非常用階段が、ふだん使われていないことは良くわかる。ネオンのほのかな明かりに照らされている、大量に置かれたダンボールには、厚く埃が積もっていた。

 少女はすでに、この屋上まで続く階段の最後の扉が、常に開いていることを知っている。一度下見に来ているのだ。

 なぜ少女は、夜、多くの人々

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