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京都【泰山タイル考】布目タイル編③(結論)

京都を代表する産業とは?

そう「織物産業」です!布目タイルは「織物産業の布から発想を得た」っと言われているんですね…

なんでやねん!

これは全くの見当違いな話なのです!!いわゆる、泰山タイルあるある「っと言われる」&「根拠のない噂レベルの話」ってやつです。


結論を端的に説明します。

布目タイルの発想の原点は藁でした。雨の日、資材置き場の足場がぬかるみ滑ったため、それを藁で抑えていました。この藁がすぐにぐちゃぐちゃになり機能しなかった為、穀物を入れていた麻袋(後のドンゴロス)に変わりました。

麻袋が水を吸い乾いた際、その模様が土に付き、それが布目柄だったとのこと。そこから着想を得て、それがタイルに転用されました。

つまり滑る場所を滑らなくする知恵を、逆に滑るタイルにその機能をくっ付けてしまった訳です。

もうお気付きかと思いますが、「布目」の目的は「滑り止め」なのです。

先に説明したように、日本に伝わった西洋仕様の無機質タイルが非常に滑りやすかったため、日本仕様の滑り止め付きタイルを開発。それが布目タイルの始まりでした。

このことは、陶磁器試験所の記録に「藁から発想を得て転用した」との記述が残っています。

藁以外にも葦、竹、切り株、小石、指で押さえるなど、さまざまなことが試されました。

「布目タイル」は、安全性、衛生面を備え、見た目にも配慮した“しつらえ”としてのタイル。まさに京都的な「和」の観点から作られた傑作タイルなのです!(記録には触り心地にも言及されています。)

東九条の一般住宅に張られた、泰山製陶所の布目タイル。

(泰山製陶所の前に高瀬川が流れていたため「高瀬川で運ばれていた麻袋が布目タイルに使われるきっかけとなった」っと言われることがありますが、その事実は不明です。そもそも布目タイルを開発した陶磁器試験所と高瀬川の位置は離れています。また泰山製陶所で作ったタイルを高瀬川を使って運んだ記録もありません。高瀬川を使用するのにお金が必要だった為、泰山製陶所から鴨川までリヤカーを使って運んでいました。)

木綿布目柄のタイル

京都市陶磁器試験所近くの一般住宅では、陶磁器試験所で試験的に作られた「木綿布から布目柄を取った」、本当の意味での布目タイルを見ることができます。ただし布目が細か過ぎ、滑り止めの意味を成さなかったため、製品化されなかったと聞きます。実際は…!?(こちらは④の記事にて)


陶磁器試験所では、その他にも多様なスタイルで安全面や衛生面に配慮したタイル(装飾タイル)が作られました。それは床だけではなく、室内装飾や建物外壁にも使われました。

ちなみに滑り止めと言う観点では、各社様々な研究を行なっていたようです。玉石タイルを不規則に並べ滑り止めを作るスタイル、細かなモザイクタイルを幾何学模様に並べ滑り止めを作るスタイルなどです。こちらはタイルの産地に影響されるのか、地域性が見られることも興味深い事実です。

玉石タイル
幾何学模様のモザイクタイル(きんせ旅館)

最後に、ではなぜ「布目タイル=泰山タイル」と言われるようになってしまったのでしょうか。理由は簡単です。

①泰山製陶所がいち早く製品化したため。

②泰山製陶所以外に布目タイルを作っていた会社が、現在はあまり知られていないため。

実際には、泰山製陶所(泰山タイル)以外にも、辻製作所窯業部(泰平タイル)、宇野製陶所(宇野美術タイル)、大佛組(大佛タイル、大佛美術タイル)、志野陶石、京都以外では伊奈製陶(常滑)、日本陶業(東京)、山茶窯製陶所・山茶窯タイル(瀬戸)など、陶磁器試験所で学んだ陶工達がこぞって布目タイルを作っています。(製作方法は様々です。)

ただし、手起こしで型から作る泰山製陶所の製作スタイルが、布目の美しさが安定し、品質も良く人気でした。

「美しくなければならない」と言う、泰山さんが最もこだわった信念が、泰山タイルを広く流通させるきっかけであったことも間違いありません。

おわり。

最後までお読みいただきありがとうございました。


▼余談①
京都には「打ち水」文化があります。打ち水後、敷居をまたぎ玄関に入った際、敷瓦(タイル)が滑り、ひっくり返ったなんて話も。京町家は“うなぎの寝所”と言われるように、玄関、炊事場、坪庭、厠と離れていたため、そこを草履や下駄で移動したことも影響したんだとか。

▼余談②
「釘で引っかいた常滑煉瓦は品がない。」(陶磁器試験所・研究ノートの記述から。)

おそらくスクラッチタイルのことだと思います。陶磁器試験所ではスクラッチタイルの研究や製作の記録が無いのです。タイルの開発は、単なる工業製品、建築資材ではなく、清水焼の工芸品として位置付けていたことが判ります。

▼余談③
最初に話題に挙げた「あるデパートの布目タイル」は、結果的に「泰山タイル」で間違いないことを柏原が確認しました。

①泰山製陶所の記録にある。
②サイズが泰山タイルの規定である。
③釉薬が泰山製陶所が開発した物と一致する。
④張り方、目地が泰山製陶所の指示通り。
⑤建築家と池田泰山との関係が確認できる。

5つのエビデンスがあれば、紛れもなく泰山タイルだと自信を持って判断出来ます。


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