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令和のオンライン井戸端会議 仁科勝介さん(かつおさん)とまちの話をしてみた

新型コロナウイルスの感染が拡大してから3年が経ちました。最近では国境を超えた移動の制限が緩和され、稲荷湯のお客さんには、国内外から東京に観光で来られた方も増えた気がします。

湯の輪らぼメンバーも、色々なまちを訪れては、銭湯や飲食店での時間を満喫しています。

銭湯を軸にまちをゆる〜く哲学している湯の輪らぼ。今回は、日本の全ての市町村を巡り、昨年は東京23区の駅を全て回った仁科勝介さん(かつおさん)をお招きして「まちあるき」をテーマにお話しました。20代男子のまちあるき談話をお楽しみください。


まもる:かつおさん、最近ガラケーにしたらしいですね。

かつおさん:集合写真を撮るときにウケるかな、って。

たなかい:ウケますね

かつおさん:SNSも使いたいけれど、物理的にちょっとだけ距離をもつ感じかな。スイッチのオンオフを自分で作ったって感じ。スマホを使っていたとき、「今日は機内モードで過ごそう!」と思っていても、気づいたら解除してしまう。でも、さすがにガラケーからテザリングするのはちょっと面倒くささがいるんだよね。その段階を増やしただけかな。

たなかい:なるほど。ガラケーって電源オフにするのが明確でいいですよね。

かつおさん:そうだね。自分たちの世代はさ、気づいたときからずっとネットと繋がってるからさ。もうちょっと選ばせて、ぐらいの感じ。

まもる:僕はサウジアラビアに行った時、向こうでSIMは買わなかったので、強制的にネットから遮断されてました。だから待ち合わせとかは不便なんですけど、ネットが繋がってる人に頼ればいいかなって思って過ごしてました。Wi-Fi入ったときのオンオフはすごい感じましたね。

たなかい:かつおさんの記事で、道を知りたい時はそこら辺のおじいちゃんとか警察官に聞いた方が早くてわかりやすかったって書かれてて、確かにそうだなと思いました。Googleマップで検索すると、多分それが最短距離なんですけど、すっごい煩雑な道を教えてくるんですよ。よくわかんない裏路地を通ったり。

かつおさん:そうだね、早く解決したいもそうだし、あと、おもしろいよ。よっぽど自分が変質者じゃない限りはさ、大体そんな悪い気にもならんし、お互いね。大体だいたい昭和のトレンディドラマって、そういうところからが始まってるんじゃないかな?とうよ。スマホでやっとってもね、始まらん。


たなかい:僕は、写真が好きで撮り始めた頃、インスタでよく見るところとかを撮ってました。けど、段々それに飽きてきて、今は裏路地にいた猫とかに関心が移っています。かつおさんも、インスタ映えとはまた違って、多分普通の人から見たら映えではないものを、映えさせるようなところがあるなって僕は感じたんですけど、どういうことを意識しながらまちを歩いているんですか?

かつおさん:みんなが見て良いと思う景色もあるけれど、みんなが撮っているわけだし、それを俺が撮っても仕方ないと思ってね。その場にあるけれど、みんなが普段通り過ぎてしまっていることを探す方が、自分の役割っていうかな。それを宿命だと言う写真家さんもいるし。

何かに気づいたら、戻ってでも撮ることは好きだし、それをやりたいなと思っていて。映えるとかの問題ではなく、単純にここにある花びらとか、そこの置物がどうであるとか、基本的には“そこにある”っていうことに対しての反応を、繰り返していて。それが自分のピントみたいなものだよね。

たなかい:僕なら絶対通り過ぎちゃうようなところも見られていてすごいなって思ったんですけど、どうやって見つけてるんですか?

かつおさん:3回歩いて1回気づくかどうかだと思うよ。自分が見慣れた道でも、探そうと思えば気づくことって絶対にあるから。一応自分のモードとしては、観察モードみたいな状態はあって、何か面白いことがあったら立ち止まる。だからほどほどにキョロキョロしてるぐらいの感じかな。

そういうのって探そうとしてなかったら気付けなかったりするから。例えばそれは、特別ではないごく普通の標識なわけで、その普通に対して自分が好奇心を持っているかどうか。もちろんその中には見つけてないものもあるから、それを繰り返してるって感じかな。

たなかい:なるほど。たしかに、繰り返すことが1つのキーワードだと思うんですけど、旅をする中で新たな発見をしたいっていうのがモチベとしてあるんですか?

かつおさん:結局はいつか死んじゃうからね。自分が生きてる間に、どういうことが好きで残せるかなと思ったときに、自分が好きな範疇でできることで、やってみたいことがあって、それを、人生のトータルで見てる感じかな。残りの人生でできることはきっと限られてるから、それをできるだけたくさん、どんどん細々とやっていくしかないかな。

たなかい:メメントモリ(ラテン語で「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」「人に訪れる死を忘ることなかれ」という意味)とかいいますよね。

かつおさん:うん、それは俺はすごく思うし、自分が好きだなと思う人たちは大体そのことを言ってることが多いなって思う。

たなかい:たしかに、写真もその目の前のことを今切り取らないとなんか逃してしまうみたいな感覚ってありますよね。逆に今残せると、それが永遠になるっていう感覚。やっぱ繋がってるんですかね。

かつおさん:そうだね、本当にそのときしか残せないからね。


たなかい:僕たちとかつおさんの共通点を考えていて、僕たち一応「日常をゆる〜く哲学する」ことをスローガンにしていて、かつおさんの写真を見ていると似たようなことをモットーにやられているのかなって感じました。なので、日常を深ぼる力みたいなところを学びたいなと思って、例えばまちに行く時に、何を意識して深掘りしているのでしょうか。

かつおさん:面白いなって思うことをできるだけ馬鹿にしないで、その場にある自分の好奇心を大切にする…とかかな。テレビ番組のクイズも、自分たちが普段気づきそうで気づいてないようなところを、クイズ作家さんが提示してることって多いじゃん。“あるある”は面白い。それを写真の分野では、できるだけ平面の中に落とし込みたいわけだけど、根っこの考え方はそういう感じかな。

まもる:かつおさんは、色んな地域を回ったり、お話を聞いたりして、インプットがあるから、面白がれるのかなって思いました。

かつおさん:単純に今の日本の市町村の数が1700くらいで、それぞれの土地で1年住んでみようと思ったら、1700年かかる。絶対に自分の人生じゃ追いつけないぐらいの、色んな土地の生き方があるわけ。だからそこを見ていくのが自分の中では面白いし、そこで見つけた面白さを提示できたらいいな、っていう気持ちはあるね。

まもる:それを実際に現地に行って、見たり聞いたりしてくるっていうのがすごいですよね。

かつおさん:自分はその土地に対して外様だから、やっぱそこに住んでる人が一番その土地のことを肌でわかっていて。自分は表面ばかりを見ているわけだから、なかなか知ったつもりにはなれないなって思うかな。

ゆうと:僕は、写真が好きな人ってこの風景を撮りたいからそこに行くっていうイメージがあったんですけど、田中井とかかつおさんの話を聞いてると、これを撮りたいっていうケースももちろんあると思うんですけど、なんかフラフラ歩いてて、逆に今この瞬間を収めたいっていう視点はすごい大事なんだなと思ったんですよね。それも経験の中で養われていくものなんですか。

かつおさん:そうだね。1日1回ぐらい面白いなって瞬間ってきっとあるよなって思って、フラフラっとしながらおもろいと思ったらもう体が動いてる。

まもる:かつおさんが僕と一緒に喫茶店にいて、雨が降り始めた時、雨の写真を撮りに外に出たじゃないですか。その時僕は、雨が降ったら普通は外に出ないって思ったんですけど、水遊びをするために外に出る人もいれば、外でいきなり雨が降られちゃった人もいるなって思い、かつおさんはそういった色々な人の視点を行き来してるんだろうなって感じました。常に自分の好奇心で動いてるっていう感じなんですか。

かつおさん:いろんな人の立場とか気持ちとか、そこに想像できるものがあると、自分も一緒になって考えたいって思うかな。

まもる:一緒に考えられるっていうのは、色んな人に話を聞いていると、この人だったらこうしてんだろうなっていう想像にも繋がるんですかね。

かつおさん:そうだね、そんなに深く考えられているわけではないけれど、何でも自分の中に取り入れたいっていう気持ちはいつもあるから。写真を撮るにしても、大事なのは色々本を読んだり、映画を見たり、人の話を聞いたりとか、できるだけたくさん受け手であるしかないからさ。そこはもっとやりたいなって思うし、まだまだこれからだなって思うね。

まもる:できるだけ受け手でありたいって面白いですね。色んなところに取材に行って、発信もしていて、能動的な感じがしますけど、常に受け手でいるっていうのは面白い表現ですね。

かつおさん:すごい人たちはみんな同じことを言ってる。有名な漫画家さんも作家さんも、話を見たり聞いたりしてると、結局やっぱり受け手なんだなってすごく思う。

自分は、小さな頃はほとんど外でワーキャーして遊んだりとか、スポーツしたりとか、そんなことばっかしてきたから、インプットは遅れてるんだよね。読書も全然してこなかった人間だし。だから、自分の伸びしろを信じてやってる。

まもる:かつおさんでもインプットが足りないからって言われると、僕ももっと勉強をしなきゃなって思います。


かつおさん:何かになりたいと目指していて、「こうすればなれる」みたいな、単純な答えというのは絶対にないと思う。もう、どうやってもなくて、答えのないことを細々と続けていくしかないというか。とにかく自分と向き合うことでしかないから、つらいですよね。

でも、すごいなと思う人たちは、しんどいとわかっていても、自分と向き合うことに徹底している。結局はそのシンプルさに辿り着く。だから、自分もそうありたいし、その上で自分が何かを残せるのかは、やってみないとわからないわけで。それで無理なら、全然ドンマイって感じ。

まもる:なるほどー。ちなみに、すごいしんどいなって思ったとき、かつおさんはどうされてるんですか。

かつおさん:まずは頭を切り替える。切り替えっていうのは、外部から何かを加えて変えるほうが楽で、それもいいのだけれど、結果的に変わらなきゃいけないのは自分自身だから、結局自分を普通に戻すしかない。しんどいときって生活が崩れていて、部屋が散らかっていたり、外食ばかりになったりとか。自分を労わる、甘やかすことも大事だけれど、戻し方のもう一つのやり方としては、ごくごく普通のことを、普通のルーティンとしてこなす。掃除をして、洗濯をして、8時間寝る、みたいな。普通のことを普通にやることが、しんどさから戻る自分のポイントかな。

まもる:掃除をしてって言われたとき、僕は思わず自分の部屋を見てしまいました。

かつおさん:普通のことをすることって、案外しんどいんだよね。しんどいんだけれど、でもそこなんだよなっていうことを思うから、いかに踏ん張るかをいつも自分と向き合ってる感じかな。

まもる:4月からはそれぞれ新たな生活が始まりますが、外の環境を変えるのではなく、自分を普通に戻すってことは、大切にしたいですね。

かつおさん:新しいことも、やってみなきゃわかんないじゃん。どうしようもないんで、どうなっても大丈夫って感じだよね。うん、なんか、生きていけるよ。

たなかい:普通にそれ響きますね。

かつおさん:お互い頑張っていきましょう。


当たり前の日常が突然失われたコロナ禍で、普通の日々を過ごせる有り難さを感じました。行動制限が緩和され始めた昨今、パンデミックが始まった頃の感覚を忘れかけていましたが、かつおさんと話す中で、普通が普通であることの価値を改めて認識しました。

そんな普通の生活も、違うレンズを通して見てみると、新たな気づきがあり楽しみが増すことも、今回の対談で教えてもらった気がします。人生のタイムリミットがいつ訪れるかわかりませんが、前だけでなくて後ろも向いたり、たまには脇道に逸れたりしながら、自分なりに楽しく歩んでいきたいと思います。

かつおさん、今回は貴重なお話を聴かせていただきありがとうございました。

今回、インタビューさせていただいたかつおさんは、写真集の出版もされているので、ぜひチェックしてみてください!

また、かつおさんが、ほぼ日さんにて連載中企画『神田の写真。』で、湯の輪らぼを紹介してくださっているので、こちらもぜひ!





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