見出し画像

銭湯×がんサロン?! 「ふらっと」が生み出す相乗効果とは

「今度うちの銭湯でがんサロン開くんだよね」。
中高時代の同級生で稲荷湯3代目(仮)のまもる(以下、長谷川護さん=実名)からその話を聞きました。

「銭湯」「がん」「サロン」。
どれも知っている単語ですが、その組み合わせにはどこか違和感があります。

そもそも、銭湯なのに参加者は服を着たままだというのです。

気になった私は当日、稲荷湯に足を運びました。

画像19

横線


(文=専属記者、しゅんた)

5月22日午前10時半、都心にひっそりとたたずむ銭湯に人の影が。
中にはスーツケースを持った人も。
がんサロンの話を聞きつけた人たちが、営業時間外の稲荷湯に続々と集まってきました。

稲荷湯でがんサロンを開催することが決まったのは今年2月のこと。
秋葉原にある会社で働く水戸部ゆうこさんに、同じ職場で働く長谷川護さん=稲荷湯3代目(仮)=が話を持ち掛けたことがきっかけでした。

「がんサロンを銭湯で?」

水戸部さんは最初、驚きを隠せなかったといいます。

がんについて気軽に話せる場所を作りたいと考え、様々な活動をしてきた彼女は、すぐに「これは面白くなる!」と思い、快諾したそうです。

こうして突如開かれたがんサロンには、5人が集まりました。

営業前の脱衣所に椅子を並べ、参加者は輪を作って向かい合います。
スピーカーからはカフェで流れるようなBGMの音。
そこはまるで、銭湯とは思えない雰囲気でした。

画像1

脱衣所の洗面台には、手作りのお菓子やフリードリンクが並んでいます。

画像2

画像3

画像4

話は序盤から盛り上がり、時折大きな笑い声が脱衣所に響き渡ります。
参加者はがんが発覚したときのことから、今悩んでいること、辛かったこと、はまっていることなどを思い思いに話しました。

印象的だったのは、ネガティブな言葉がほとんど出てこないこと。
「どんなに大変なときでも、手術以外は仕事を休まなかったのよ!!」
がんを抱えながらも力強くそれを乗り越えようとする姿が輝いて見えます。

中には自分が服用する薬を見せたり、手術跡を見せたりする人も。
「自分とは異なるがん種(がんの種類)の人と、情報共有をする場でもある」と参加者はいいます。

サロンの終盤は、参加者同士で質問タイム。

格式ばった質疑応答というより、井戸端会議をしているかのような雰囲気で、お互い気になったことを聞き合っていました。

最後に全員で記念撮影をして終了。
こうして、稲荷湯で開かれた1回目のがんサロンは盛況のうちに幕を下ろしました。

画像5


横線


がんサロンは稲荷湯にとって初の試み。

では、銭湯でがんサロンを開くことにどのような意義があるのでしょうか
主催者である水戸部さんと参加者の方々に話を聞きました。


主催者のお話 水戸部ゆうこさん=現在闘病中の小平市在住がんピアサポーター
(聞き手=しゅんた)

画像8

参加者のお話 匿名(聞き手=同)


スクリーンショット 2022-05-25 22.57.58

※がんサバイバーとは、「がんを経験しながら生きている人たち」のことを指します(ヨミドクター)。

がんサバイバーの多くは、発見当初「まさか自分がなるとは思わなかった」(参加者談)といいます。

そのため、がんに関する情報を主治医から聞くだけでなく、自分でも調べようとネット検索を繰り返してしまいます。

ネット空間は常に大量の情報であふれているため、真偽不明の情報を信じてしまい、ますます不安に駆られる人も多いそうです。

必死になる患者の心理につけこみ、高額の商品を買わせようとするサイトも出回っているのが現状です。

水戸部さん:がんサバイバーの多くは藁にもすがる思いでいっぱいです。悪質なサイトを見て、たくさんのお金をつぎ込んでしまった人もいます。

そうした情報に惑わされないためにも、がんサバイバー同士で集まりおしゃべりすることが重要なことのひとつです。

お互いが持つ情報の交換ひとりではないと感じること、生活の中での悩みなどを共有し合う空間が、がんサロンなのです。

画像20

また、がんサバイバーにとって学びの場にもなっています。

病院では通常、異なるがん種の人と話をする機会があまりないといいます。

参加した女性:自分は乳がんを患っていますが、今日は他の「がん種」についても知ることができました。こういう機会はあまりないので、とても勉強になりました。

しかし、会場をおさえるのも至難の業。
抗がん剤の副作用で、当日にキャンセルをすることもあるかと不安で、事前の予約を躊躇する人も少なくありません。

銭湯であれば、当日人数が変更になっても大きな問題が生じにくいため、参加者が気軽に予約できるのです。


スクリーンショット 2022-05-25 23.00.18

「銭湯とは皆がふらっと立ち寄れて、年齢や国籍など関係なくみんなが同じ湯銭を払って同じ姿となり、同じ湯に浸かるふらっとな関係性のある場所です。さらに銭湯は、ありのままの自分でふらっといられる空間だと思います」。

稲荷湯3代目(仮)である長谷川護さんは、サロンの冒頭でそう語りました。

病気の中でもとりわけ「がん」は目に見える変化がない場合もあり、外からもわかりづらいため、ひとりで抱え込みやすいといいます。

だからこそ気軽に集まる場所があることで、誰かと直接話し合える機会が生まれるのです。

家にこもっているのではなく、外に出て人と話せば自然と気持ちが豊かになります。

水戸部さんはそれを「心の栄養」と呼んでいるそうです。

また、誰もが対等に話し合うことができる空間というのも銭湯が持つ魅力の1つです。

銭湯が生み出す3つの「ふらっと」が開催場所として味を出しています。

水戸部さん:私たちは日々、それぞれが抱えるがんの話を気軽に話せる場所が欲しいと考えて活動しています。今後は患者さん以外にもがんについて知ってもらう機会を作りたいですね。


スクリーンショット 2022-05-25 23.01.44

銭湯は本来、「お風呂に入る場所」。

いつもと違った場所に集まることで、参加者が非日常感を味わうことも狙いのひとつです。

普段は会議室のような場所に、机と椅子を並べて開かれることが多いがんサロン。

そこをあえて銭湯で開催することについて、主催者の水戸部さんは次のように語ります。

水戸部さん:今日はじめて銭湯でがんサロンを開催し、銭湯の持つ「レトロ」「非日常」そして「庶民的」という感じが開催場所として、とてもぴったりだと思いました。

特に昭和世代の人たちには、この方がどこかなじみやすい感じがしますね。

また銭湯の脱衣所は天井も高く、開放感があります。
そのせいか、知らず知らずのうちに自分の心をさらけ出してしまう
そうした体験ができるのも銭湯で開くことの魅力です。

水戸部さん:「がんを語る」ということは「自分と向き合う」ということです。銭湯の開放感があってこそ、自分と向き合った気持ちを開放することができ、それを井戸端会議のように出し合えるのだと感じました。

実際、参加者した人たち全員がコンセプトに対して興味津々で、ワクワクしている様子でした。

画像21

「遠足気分」でがんサロンに足を運ぶ。銭湯ならではの良さがそこにあるようです。


スクリーンショット 2022-05-25 23.03.20

乳がんを患う人の多くが、手術の跡や傷を他人に見られたくないといいます。

患者本人は気にしていなくても、他人がそれを不快に思うのではないかと考えてしまい、公衆浴場から足が遠のいてしまうのです。

参加した女性:乳がんになってから、やっぱり人前で服を脱ぎづらいですね。でもこうしてがんサバイバー同士で入る機会があれば、一歩踏み出す勇気が出る気がします。

参加者同士で風呂に入れば、より心を開放して話すことができるかもしれません。

最近では「乙女温泉」など、がんサバイバー同士でお風呂に入る試みが増えているそうですが、タイミングや場所が合わずにチャンスを逃してしまうことが多いといいます。
また、男性にとっても同じような悩みはあるそうです。

こうした取り組みが増えるきっかけに、稲荷湯が一役買うことも期待できるのです。


スクリーンショット 2022-05-26 15.13.38

通常、銭湯が営業を始める時間はお昼過ぎ。
それ以前の時間を有効活用することは、銭湯を活気づけるためにも大きな意義があります。

地元の人に愛され、地元に密着した存在である銭湯でがんサロンが行われれば、町の活性化にもつながります。

世間ではサウナブームに火がつく中、銭湯における新たな活路として、このような取り組みが期待されるのです。


スクリーンショット 2022-05-25 23.04.30

今回取材をして、印象に残った言葉がありました。
それは、「がんを経験したことで、新たな絆が生まれた」という言葉です。

がんを患ってから性格がかえって明るくなったという方や、家族との絆が深まったという方もいました。

今回のがんサロンでは、普段YouTubeでがんに関する啓発活動をしていた人同士が、偶然稲荷湯で再会したという出来事もありました。

いまや、2人に1人はがんになる時代。
がんを経験した人もそうでない人も、気軽に集まり語り合う。

服を着たままのイベントなのに、裸の心をさらけ出せるというところが、銭湯がんサロンの面白さだと感じます。

銭湯が生み出す「ふらっとな空間」とがんサロンの相乗効果
そこから新たな絆が生まれる予感がしてきます。


スクリーンショット 2022-05-25 23.05.38

7月23日(土)に2回目のがんサロンが稲荷湯で開催されます!!
記事中にも少し触れましたが、次回は実際に参加者同士で入浴する機会もあります。

乳がん以外の方や男性のご参加もお待ちしております。

気になった方はぜひ、この機会に参加してみてください!!

画像15


スクリーンショット 2022-05-25 23.08.24

画像21

遅ればせながら、はじめまして!

今回取材・記事執筆を担当した”しゅんた”です。

今月から『湯の輪らぼ』の専属記者として活動しています。
現役大学生で、まもる・たなかいとは中高の同級生です。
趣味はスポーツ観戦と温泉・銭湯巡り。

朝は新聞を読み、夕方は大相撲中継を見て、夜はビールで乾杯。
友人界隈では唯一、バーコード決済未経験者です。
Z世代とはかけ離れた人間ですが、よろしくお願いします!!


この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?