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【100文字ドラマ】【「人生リハーサル」シナリオ】「隣の人生は輝いて見える」



abさんの「人生リハーサル」をもとにシナリオを書かせていただきました。センター試験が今日なのでなんとなく書きたくなったお話。
思いついた会話をばばーっと。

【あらすじ】

「ウッソだろ!?」教室中に俺の声が響いた。どうやら俺以外の人間には『リハーサル日』と『本番日』というものがあるらしかった。俺の人生は生まれてこの方『本番日』しかない。俺の一週間は『本番日』の連続で成り立っていた。なるほど、だからみんな俺よりもうまくできるんだな。そう思うと少しだけ心が軽くなった。
それを羨ましく思うこともあるけれど、他人のものは自分のものよりもよく見える、だけだろう。いいことも1回しか起こらないけれど、嫌なことも1回しか起こらないのだから。たった1回なら我慢できると思うことも2回目もあると思うと耐えられないこともあるからな。
自分の「当たり前」が他人にとっての「当たり前」ではなかったことに気が付くセンター試験前日の、何気ない日常会話。

【登場人物】

①高橋 正樹(18) 高校生
本番日しかもっていない。自分以外の人間がリハーサル日を持っているなんて知らなかった。
勉強は苦手で頭はそんなによくないが、運動神経はいい。

②佐藤 佳奈美(18) 高校生
リハーサル日を持っている。生まれてからずっとリハーサル日と本番日の繰り返しだったので、リハーサル日を持っていない人間が存在するなんて思ってもいなかった。

【伝えたいこと】

自分にとっての「当たり前」は他人にとっても「当たり前」だと自然と思い込んでしまっている中で、もしかしたら自分の「当たり前は」他人の「当たり前」ではないのかもしれない、と思わせたい。

【リハーサルのある人生は幸せなのか?】

リハーサルがあるから幸せとか、リハーサルがないから不幸というわけではなく、その中でどうするかで人生が幸せかは決まる。
幸せになれる確率は、ある場合もない場合もあまり変わらないのではと思う。
リハーサルがある人生ではそれが当たり前だし、ない人生ではそれが当たり前なので、あまり「リハーサル」についても考えずに生きている気がする。

私は目が悪いのでコンタクトをつけている。私にとって、モノを見るためにコンタクトをつけるのは当たり前。だから、コンタクトをつけなくても遠くのモノが見える人のことがよくわからない。……のと同じことかなと思った。

【シナリオ】

〇教室・放課後・センター試験前日
正樹「ウッソだろ~!?!?」
佳奈美「いやいや、それこっちの台詞だから」
正樹「いや、でも、そんなの信じられねえよ……。自分の信じていたものがガラガラと崩れていくぜ……」
佳奈美「その言葉そのまま返すわ」
正樹「いや、でも、マジかよ……」
佳奈美「あんたが嘘をついてるってわけでもないのよね?」
正樹「ああ、俺には佳奈美がいうところの『本番日』しか来ない」
正樹、ジッと佳奈美の目を見つめる。
佳奈美「はぁ(溜息)じゃあ私もあんたの言ってることを信じるわ」
正樹「とりあえず、頭ではなんとかわかったような気もするけどよく分かんねえから紙に書いてくんない?」
佳奈美、机の上にあるノートにペンで図を書き始める。
佳奈美「私たちは毎日が二回ずつある。一週間で言うと、月月 火火 水水、と計14日で構成されていて、同じ出来事が二日続けて起こる。一日目はリハーサル日って感じで、二日目が本番日ね。んで、あんたには本番日しかないってことは、私たちのリハーサル日と本番日ではあなたは全く同じ行動をしていることに……なるのかな?」
正樹「それは知らん。え、じゃあ佳奈美の一日は二十四時間じゃないの?」
佳奈美「一日の時間も分からないほど馬鹿なわけ……はないよね?私たちの一日は十二時間……。あんたが一日過ごす時間で私たちは二日過ごしているってことなの……ね」
正樹「難しいな……。考えるのやめようか」
佳奈美「そーね……。今はそんなこと考えてる時間じゃないわ」

×××
【数分前】

〇教室・放課後
日直の仕事を終え教室に荷物を取りに来た正樹。
扉を開けると、教室には一人で残っている佳奈美がいた。
正樹「明日はセンター試験なんだから早く帰れよ」
佳奈美「家だと集中できないのよ」
正樹「でも雪も降りそうだし、先生からも教室にいる生徒に帰るように言ってくれって頼まれたんだよな」
佳奈美「大丈夫よ。もし失敗したって明日は本番じゃないんだから」
参考書から顔を上げない佳奈美。
正樹「はぁ?何言ってんだ?明日はセンター当日だぞ?」
佳奈美「そういうことじゃなくて。確かにセンタ―はセンターだけどリハーサル日なんだからってことよ」
正樹「リハーサル日……?」
キョトンとする正樹。
ふり向く佳奈美。
佳奈美「え?どの曜日も二回くるでしょ?その一日目のことを私はリハーサル日って呼んでいて。いや、別にみんながどんな呼び方してるかはしらないけど……」
正樹「俺には一週間には一つの曜日しか来ないぞ……?」
佳奈美「え?」
正樹「は?」

×××

そして今に至る。

〇教室
正樹「でもいいな、いいな~。てことは俺以外の人間はみんなやり直しがきく毎日だったのか~。それなら失敗なんてなさそうだな!」
佳奈美「それ、本気で言ってる?」
正樹「違うのか?」
佳奈美「なんでもうまくいくんだったら、先週陸と私が別れるなんてことにはならなかったのよっ……!センター試験一週間前に振るやつっている?最低だわ、マジで」
正樹「あ、確かにな……」
佳奈美「いくらリハーサル日があるからと言って、私のリハーサル日は他の人にとってもリハーサル日なのよ」
正樹「俺には違うけどな」
佳奈美「黙れ」
正樹「ごめん」
佳奈美「リハーサル日にうまくいったからって、100%の確率で本番もうまくいくわけではないの」
正樹「本番日でそのリハーサル日と同じ行動をしても、か?」
佳奈美「リハーサル日での私の成功をうまく思わない奴らがリハーサルと違う行動をしてきたら、同じ行動をしたところで意味がないでしょ……」
正樹「確かに……」
佳奈美「この世界で私だけがリハーサル日を持っていたらうまくいくのかもだけど、みんなが持ってるんだから意味がないのよ」
正樹「俺は持ってないけどな」
佳奈美「はぁ……。リハーサル日もないのにあんたよく毎日普通に生活してこれたわね」
正樹「そりゃ、俺以外の人間が『リハーサル日』なんて持っているのを知らなかったからな」
佳奈美「自分の当たり前が当たり前ではなかったって……なんか小説の中の話みたいだわ」
正樹「現代文の問題で出てきそうだな……」
佳奈美「ぜひとも明日の試験に出して欲しいわね」
正樹「ところで、リハーサル日にあったことは本番日ではなかったことになるのか?」
佳奈美「うん。そう。すべて本番日にあったことだけが確定事項として人生が進んでいくの。リハーサル日には存在したけれど、本番日には起こらなかった出来事は、『あったかもしれない出来事』として処理される」
正樹「その『あったかもしれない出来事』ってのは人生において何も意味をなさないのか?」
佳奈美「なすわけないでしょ~。そんなのまで意味を成してたら、リハーサル日の意味がなくなっちゃうじゃない」
佳奈美「リハーサル日ってのは模試と一緒なの。模試でいくらいい点数を取ったところで、本番の試験でいい点数を取らないと生きたい大学には行けないでしょ?」
正樹「わかったような、わからないような……」
佳奈美「あんたには一生わかんないでしょうね」
正樹「うっせー。てか、リハーサル日があるってことはテストとかめっちゃ楽じゃん!前日のテストの内容が分かっていれば満点だろ?」
佳奈美「はぁ?ほんと、馬鹿じゃないの?」
あきれ顔の佳奈美。
それを気にも留めない正樹。
正樹「俺がテストでいい点数とれないのはお前らみたいにリハーサル日がなかったからなんだな~」
佳奈美「私の言ったことなんも理解してなくない?あんた以外の人間にはみんなリハーサル日があるって言ったでしょ。試験作る先生にもリハーサル日はあんのよ」
正樹「……あ、そか」
佳奈美「そー。だから意地悪な先生なんて、リハーサル日に出来が良かったりすると本番日では試験内容変えてきたりすんのよ?マジあり得ない。リハーサルを知っているからこそ、腹が立つのよね」
正樹「それは大変だな……」
佳奈美「これでわかったでしょ。リハーサル日なんてあったってろくなもんじゃないのよ」
正樹「リハーサル日があってもそれはそれで大変なんだな……」
佳奈美「そーよ。まぁ、本番日しかないってのもそれはそれで大変なんだろうけど」
お互いに顔を見合わせる。
正樹「明日のセンターガンバローな」
佳奈美「あたしにとっては、センターのリハーサル日だけどね」
正樹「てかセンターはズルくね!?リハーサルあんの!だってそんな一日じゃ問題変えられねぇだろ?」
佳奈美「今までの模試だって、本番日とリハーサル日で問題が同じことなんてなかったでしょ?だから大丈夫よ。あなたが損することはない」
正樹「いや、リハーサル日のことは俺知らねえし」
佳奈美「それと同じでセンターだって明日と本番じゃ違う問題のはず……よ……待って」
正樹「どうした?」
佳奈美「いや、今まで私は『みんなにリハーサル日がある』って思ってたけど、あんたみたいにリハーサル日が存在しないやつがほかにもいるかもしれないってことよね……?」
正樹「確かに!!てか俺以外にはみんなリハーサル日があるとか言ったけど、佳奈美にだけリハーサル日があるってことも」
佳奈美「それはない。今までリハーサル日って言ってあんたみたいに華自我通じなかったやつはいないもん」
正樹「よくわかんなかったけど相手がそのままスルーしてただけかもよ?」
佳奈美「それは……ありえ……る。いや、待ってよ!私たちどういう状況なのよ!センター前日なのに!」
正樹「まじでよくわかんねぇ……とりあえず、俺にとって明日はセンター本番だからもう帰るわ。佳奈美もはいいよな、リハーサル日で」
佳奈美「ない方がいいわよ、『リハーサル日』なんて。こんなものがあるから『成功する可能性』に希望を持っちゃうんだもん。リハーサル日が本番日だったらよかったのになぁって何度思ったことか。私はあんたが羨ましいわよ。毎日が本番日のあんたが」
正樹「隣の芝生は青く見える」
佳奈美「よく知ってたわね、そんな言葉」
正樹「馬鹿にし過ぎだー」
手に持っていた国語の参考書を佳奈美に見せる。
佳奈美「とりあえず、この話はまた今度しよう」
正樹「そうだな。今は人生にリハーサルがあるかないかよりも、センター試験で点数を取ることの方が大事だ」
佳奈美「明日のセンター頑張ってね」
正樹「おう。明後日のセンター本番頑張れよ」

正樹、教室を出ていく。
佳奈美、参考書で勉強を再開する。


【終わり】

【最後に】

『自分以外の人にはリハーサル日がある』という、普通に考えたらヤバイような発見をしたとしても、それを解明することよりも、センター前日の高校生にとっては単語を一つでも多く覚える方が大事で、優先事項だろうな……と電車で前に立っていた高校生二人組を見て思いました。
私も例えば試験前に『自分以外の人にはリハーサル日がある』ということが分かっても、たぶん「あ、マジ?」とはなるけれど、試験勉強にすぐ戻ると思います。
戯言ばかり書いてないで、私もそろそろ期末試験に向けて勉強頑張らなくては……。


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