『クィア・アクティビズム』 を読んだ

LGBT やらクィアやらについて理解を深めたいなと思って読んだ。

どういう本か?

本書は、クィア・スタディーズという学問の成立過程を、社会運動との関係から整理するものである。 クィア・スタディーズはアメリカ合衆国の歴史と不可分とのことで、アメリカ合衆国における性的マイノリティの歴史 (同性愛についてはドイツも) を追いながら、その中で起こった社会運動や、アカデミズムにおける理論形成についてが整理されている。

大まかには、以下の流れで解説される。

  • 第一波フェミニズム (19 世紀から 20 世紀はじめごろ)

  • 性革命 (1960 年代)

  • 第二派フェミニズム (1960 年代以降に登場)

  • 同性愛に対する差別と同性愛者たちの組織化、抵抗 (1870 年代から第二次世界大戦までのドイツと、第二次世界大戦後のアメリカ)

  • HIV / AIDS (ヒト免疫不全ウイルス / 後天性免疫不全症候群) とエイズ・アクティビズム

  • クィア・アクティビズム (あるいはクィア・スタディーズ)

  • トランスジェンダー、トランスセクシュアル、トランスベスタイト (異性装)

著者は大阪公立大学教員の新ヶ江章友氏。 大阪公立大学の講義での教科書にもなっているとのこと。

感想など

本書を読むことで、第一波フェミニズムからクィア・アクティビズムまでの整理された流れを俯瞰して把握することができたので、非常に理解が進んだ。

また、これまで自分は、クィアという概念を 「同性愛者やバイセクシャル、トランスジェンダーなど、性的マイノリティをまとめた呼称」 というような認識をしていたが、(もともとクィアという概念を考えた Teresa de Lauretis (テレサ・ド・ローレティス) の考えでは) それは誤りである、ということがわかったのも大きな収穫であった。 クィア理論とは、互いに様々な差異があるという前提で、どう連携できるかを考えるためのものである、ということらしい。

上記のように、歴史の流れを俯瞰し、それぞれの話題についてざっくりと理解できるという点で良い本であった。

当然ながら、全体を俯瞰する本なので個別の話題の詳細までは説明されていない。 例えば、クィア・スタディーズやクィア理論というものの概要はなんとなくわかるが、その詳細な中身はわからないままである。 本書で全体を俯瞰したうえで、個別に詳細を別途調べていく、というような使い方をするのが良さそうである。

以下、自分が特に印象深かったトピックを書き残しておく

既存の社会への同化か、既存の社会構造への批判か?

性的マイノリティの運動や活動には様々なものがあるが、本書では大きく 2 つに分けられるとしている。

  • 既存の社会 (男性中心の社会) に同化するもの

  • 既存の社会構造を批判し、変革しようとするもの

例えば、同性婚について。 「同性婚を認めてほしい」 とするのは、婚姻制度によって家族が成立する既存の社会に同性愛者も包摂してほしい、とする考えで、前者にあたる。 婚姻制度について後者の立場をとるものとしては、例えばレズビアン・フェミニズムやゲイ解放運動があり、「婚姻制度が女性の抑圧の根源である強制的異性愛を支えるものである」 とする批判や、より多様な関係性の構築の必要などを訴えている。

私自身も同性婚については反対の立場なのであるが、それは同性愛を否定したいわけではなく、どちらかというと 「婚姻制度というものに同性愛を組み込んだとしても、そこから取りこぼされる関係性はあるわけで、婚姻制度そのものを見直すべき」 だという立場からである。

世の中では 「同性婚を認めるのか、認めないのか」 というような二項対立的な議論のされ方が多い印象で、「そもそもの婚姻制度はどうなのか」 という議論がなされづらいと感じているのだが、「既存の社会への同化か、既存の社会構造の批判か」 という軸で区別するという考え方はなるほどと思わされた。

クィア・アクティビズムも、既存の社会構造を批判し、変革するという立場らしく、興味を覚えた。

エイズ・アクティビズムがクィア・スタディーズに及ぼした影響

本書では HIV / AIDS に対して性的マイノリティがどのように向き合ったのかが書かれている。 フェミニズムや同性愛差別とその抵抗などは性的マイノリティの歴史として自分も知っていたが、HIV / AIDS の位置付けは全く知らなかったので、興味深かった。

エイズ・アクティビズムでは、様々な性的アイデンティティの人たちが一緒に活動し、その中でお互いの背景をわかっていなかったことや、白人ゲイ男性の特権性などが明らかになっていった。 そういった、ひとつのアイデンティティで連携することの難しさが、クィア理論 (あるいはクィア・スタディーズ) に影響を与えたらしい。

おわり

『クィア・アクティビズム』、性的マイノリティに関する社会の運動や活動について俯瞰するのにおすすめです!

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