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2022/05/07 七色スペクトルの海


今日何年ぶりかに会う人とご飯に行って、久しぶりすぎてどう喋ればいいのかも、何を喋ればいいのかもわからなくてアニメや漫画、ウィトゲンシュタインの話をした。彼女もどう話せばいいのか探っているようだった。相槌や質問が無いと話はすぐに終わってしまう。僕は自分が話している時、相手が興味なさそうにしていると感じるとすぐにその話を切り上げる癖があるなと感じた。彼女は何を話したかったんだろう? それほど深いことは話せなかった。海を見ながら、ごはんを食べて。プラスチックの衝立のせいで声は届きにくかった。海側を向いていない僕の席側の天井には鏡が貼られていて逆向きでも海が見えるようになっていた。鏡に光が反射して虹色に揺れているところがあった。「虹が見える」と僕が言うと彼女が何かを言ったけれど僕はよく聞こえなかった。聞こえなかったのに僕に対して批難するような言葉があたまの中で聞こえた。(内容はよく思い出せない)あれは何だったんだろう。聞き直すと「プリズムじゃない」と聞こえた。 スペクトルという単語が僕の頭に関連として浮かんだのでそれらしき話をした。僕は正しくないかもしれないけれど、あいまいでそれらしい話をするのが得意な気がした。帰りにジェラート屋でジェラートを食べた。コロナ対策か、その日は一組ずつ店の中に入れていた。注文もカップ限定だった。「昔は紙のカップだったよね。進化したね」 「昔からあった」って言われて、なんたる記憶力って思った。彼女はラムレーズン(これはなんか昔から僕は苦手だ)、 ピスタチオ、チョコレート、おまけにパイナップルを頼んでいた。トリプル550円。僕はチョコとピスタチオを狙っていたけど、先に取られたので別のを選んだ。昔から頼んだもののかぶるのが嫌だ。ミルク、人参、さつまいも、おまけにコーヒー。さつまいもとミルクの味がけっこう似ていた。「一口食べる?」「いい」  昼間だったけれど空には薄く月が出ていて「月だよ」って言うと彼女は顔を上げて空を見た。場所を変えて何度も空を見あげていた。ジェラート食べ終わったら「サビス」と言って彼女が指差して笑っていた。見ると銀行のATMのサービスコーナーと書かれている部分のーの部分が色褪せて消えてしまっていた。僕も笑った。そのあと、ジェラートのゴミを捨てて、待ち合わせ場所で別れて家に帰った。友人に借りたバトゥーキを少し読んだあと、3時間ほど眠った。

スペクトル
〘名〙 (フランスspectre) 可視光をプリズムで分光して現われる赤、橙だいだい、黄、緑、青、藍あい、紫などの色のついた帯をいう。その色の順が光の波長の順であるところから、一般に雑多なものをその成分の波長や、質量、エネルギー準位など特徴となるある量の大小に従って順に並べたものをいう。比喩的にも用いる。スペクトラム。
*春と修羅(1924)〈宮沢賢治〉オホーツク挽歌
「列車の窓の稜のひととこが プリズムになって日光を反射し 草地に投げられたスペクトル」   

日本国語大辞典

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