yunoLv3
#1 ゴーストエンジニアリングとは
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#1 ゴーストエンジニアリングとは

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この記事は

ゴーストエンジニアリング Advent Calendar 2020の1日目の記事です。走りながら書き殴っているので、次の日に見たら記事が修正されているかもしれませんがご了承ください。

ここに全記事をまとめます↓

「アバター」という言葉が社会に浸透しつつあります。オンラインで自分を表すアイコン、ゲームのキャラクター、VRでの変身体験……。とりわけ、VRで身体化したアバターを体験することは、拡張された衣服のように自己を彩り、自己の振る舞いや考え方にまで影響を与えることが、様々な研究によって分かってきました。

アバターをはじめとする身体変容体験を通じて、自らの心(ゴースト)を自在にデザインする工学的技術。東大の鳴海拓志先生は、そういった領域にゴーストエンジニアリングという名前を付けました。

ゴーストエンジニアリング Advent Calendar 2020では、この技術の背景、理論、関連研究、活用事例、課題などを概説しながら、分野のガイドマップを描き出す努力をします。ゴーストエンジニアリングについて探究する人がたくさん増えると良いなと思っています。(興味がある人はTwitterでDMなりなんなりください、ディスカッションしましょう!)

学術的な内容を扱うつもりですが、語り口は平易に。出来れば、歌うように。より厳密な説明を求める人は、記事末尾にて論文や書籍を紹介しますので、そちらをご参照ください。

この記事、そしてアドベントカレンダー全体を貫くキーワードはこんな感じ。ピンときた人は、ぜひ他の記事も読んでみてください。

Keywords: アバター、身体変容、身体拡張、 人間拡張(augmented human)、
心と身体、身体所有感、情動、認知、自己、心理学、VTuber、変身、分身、合体……

身体と心

まずは人の身体と心の関係から始めます。

身体と心はそれぞれ独立していて、没交渉の状態にある、と考える人はいますか?いわゆる心身二元論ですね。これを唱えた有名人はデカルトでしょうか。「我思う、故に我在り(Cogito, ergo sum)」という言葉は、心がそれ単体で存在しており、身体を支配しているようにも読めます。

心、魂、情念、感情……そういったものが、身体から抜け出てもなお存在しているという表現は、津々浦々で見ることができます。沢の蛍も我が身よりあくがれいづるたまかとぞ見る、とかね(ちょっと違うか)。

でも、本当にそうなのか?

近年では、人の身体と心は互いに独立しているのではなく、相互に影響を及ぼし合っていることを示唆する研究が多く報告されています。

身体化情動・身体化認知

身体性認知(Embodied cognition)[1]
・身体を介して得られた感覚運動情報を取り込みながら実行される情報処理
・感覚運動情報の処理と概念処理の両方が認知を構成するとする思考の枠組

身体の状態が認知に影響を与える、身体化認知(身体性認知)に関する研究は、心理学の中で面白いテーマの一つです(レビュー[2,3])。

例えば、姿勢を正すと気分も正される、とか[4]。
身に覚えはありませんか?

吊り橋効果の実験も有名ですよね。吊り橋を渡ってドキドキしているときに魅力的な異性と接触すると、そうでない場合より、後からその異性に連絡する人が多かったとか。身体反応としてのドキドキが、好意を生み出す一端をになっているのかもしれません。

ちなみに、「ほら、身体は心に影響してるだろ!」と事例を並べ立てておいた手前で恐縮なのですが、この手の心理実験は過度に一般化されがちなので、日本心理学会のこちらの記事も合わせて読んでみてほしいです。(僕もオーバークレイムにならないように気を付けたい……。)

さて、

人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなるのだ、と心理学者のWilliam Jamesは言いました。現代の心理学はそれにYESと答え、身体(とそれを包む環境)のありようによって、僕らの情動や認知は変化してしまう証拠が集まっています。衣服を変えれば振る舞いや思考は変わるし[5]、オンラインゲームで使用するキャラクターによってもプレイヤーの行動は変わってしまいます[6]。

じゃあ逆に、発現したい「心」から逆算して、身体をデザインすることが考えられるのではないか?

[1] 大江 朋子.2016年.身体と外界の相互作用から醸成される社会的認知.実験社会心理学研究,55巻2号,pp.111-118[2] Barsalou, L. W. (2008). Grounded cognition. Annu. Rev. Psychol., 59, 617-645.
[3] Winkielman, P., Niedenthal, P., Wielgosz, J., Eelen, J., & Kavanagh, L. C. (2015). Embodiment of cognition and emotion.
[4] Nair, S., Sagar, M., Sollers, J. III, Consedine, N., & Broadbent, E. (2015). Do slumped and upright postures affect stress responses? A randomized trial. Health Psychology, 34(6), 632–641.
[5] Johnson, K., Lennon, S.J. & Rudd, N. Dress, body and self: research in the social psychology of dress. Fashion and Textiles 1, 20 (2014).
[6] Pena, J., Hancock, J. T., & Merola, N. (2009). The Priming Effects of Avatars in Virtual Settings. Communication Research, 36, 838–856.

人間拡張、VR、アバター

脳の神経にデバイスを直に接続する電脳化技術や、全身の義体(サイボーグ)化技術が発展した世界を描く『攻殻機動隊』では、身体(シェル)の対比として、心はゴーストと呼ばれています。

また、僕らの「現実」では、Human Augmentationとも呼ばれる身体拡張、人間拡張技術が、工学の分野を中心に大きな盛り上がりを見せています。

腕を増やすMetaLimbs[1]。

他方、身体機能のアシストという文脈とは全く別のところで、VR技術は身体化されたアバター体験を可能にしています。

さらにはそうした可能性の大海に、バーチャルYoutuber、バーチャルシンガー、Virtual Being……などと呼ばれ社会的に認知される「存在」も誕生し始めています。

身体の変容に合わせて心が変容するというのなら、人間拡張技術がアップデートし続ける身体(という概念)に、我々のゴーストはどのような影響を受けるのでしょうか?

そう、新しい技術が社会に急速な拡がりを見せている今こそ、身体と心の相補的関係について、さらなる探究が、議論が求められています。身体編集技術がゴーストにどのように影響を与え,人間や社会にどのようなポジティブな、ネガティブな効果をもたらし得るのか?

[1] Sasaki, T., Saraiji, M. Y., Fernando, C. L., Minamizawa, K., & Inami, M. (2017). MetaLimbs: multiple arms interaction metamorphism. In ACM SIGGRAPH 2017 Emerging Technologies (pp. 1-2).

プロテウス効果

身体化されたアバター体験が人にもたらす影響を調べた萌芽的研究は、スタンフォード大学のJeremy Bailensonのチームによって行われました。

身体化されたアバター体験は自己知覚を更新し、その外見に適合すると思われるような振る舞いをユーザーから誘発します。この現象は、何にでも変身してしまうギリシア神話のプロテウスにちなんで、プロテウス効果と呼ばれています[1]。

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上に行くほど魅力的と評価されたアバター。魅力的なアバターを使用したユーザーは、そうでないユーザーと比べて自己紹介時にオープンに振る舞うなど。

アバター体験を通じた認知や行動の変化は、近年活発に探究され始めています。2020年にはメタアナリシスが行われて、その効果が確認されました[2]。

身体拡張体験による心の変化を積極的に活用して,自らのゴーストをアップデートし,個々人による自らの心的状態や認知の適切な変化を支援しよう、というのがゴーストエンジニアリングです。

情動、認知、行動を自在にコントロールすることは難しいです。無意識的なバイアスは影のように、人の傍に常に寄り添っています。ゴーストエンジニアリングは、そんな人の認知を拡張し、感情や思考、そして自己や他者との新たな関係を提供できる可能性を持っているのです。

[1] Nick Yee, Jeremy Bailenson, The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior, Human Communication Research, Volume 33, Issue 3, 1 July 2007, Pages 271290
[2] Rabindra Ratan, David Beyea, Benjamin J. Li & Luis Graciano (2020) Avatar characteristics induce users’ behavioral conformity with small-to-medium effect sizes: a meta-analysis of the proteus effect, Media Psychology, 23:5, 651-675.


さぁ 行こうか

この現実編集技術は、どんな未来を見せてくれるのか。僕はドキドキしてしょうがない。

みなさん、準備はいいですか?

アバターというコンパスで以って、身体と心、自己と他者、リアルとバーチャルをめぐる冒険へとご招待いたします。


関連文献

ゴーストエンジニアリングを学術領域として定義し、研究の概観を行なっている論考は下記で無料で読めます。またそれを改訂したものが本にも収まっています。




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yunoLv3
東京大学大学院 学際情報学府の博士課程でアバタやVRの研究をしています。趣味は作詞作曲です。/ Twitter:https://twitter.com/yunoLv3 Web: https://yunolv3.work