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第9話 役割を果たせ

前回のお話はこちらから↓

 よく「無人島に行くなら何を持っていくか」という質問がある。多くの人は必要そうなものを答えるだろうし、ネタ的に某ネコ型ロボットと答える人もいるだろう。
 もし仮に今その質問をされたとしたら俺は確実にこう答える。

「信頼できる仲間」

 この無人島に来てから大変な状況にさらされ続けたが、今が一番つらいかもしれない。前回の「島が本当に存在しているのか」という発言により、俺は現在孤立してしまった。いや、その発言だけなら孤立はしなかったかもしれない。そのあとに白昼夢のことを話したのがいけなかった。

「つまり、この島も僕らもすべてあなたの夢の存在だと」

 あのときの能登、灰原、三崎の俺を見る目と言ったら思い出したくもないほど冷たいものだった。それから彼らが去って行っていくし、声をかけても無視されるし、挙句の果てにはあの牛にまで相手にされない。
たぶん、この島に来て一番ダメージを受けている。最初に目覚めたときから一人であったならこんな落ち込むこともなかっただろう。けれど、そうではなく俺が目を覚ました時から彼らは一緒にいた。それがどれだけ心強かったのか気づいたのは失くしてからだ。
砂浜の上で大の字になり、太陽が照り付けてくるのがまぶしくて目を閉じる。また失くしてしまった。最初は記憶が無かった。次はうさんくさい自称超能力者、宇宙人、未来人の仲間を失くした。この次になくなるとしたら何だろうか。もう考えたくもない。

「時間がない、残せるならなんでもいい。次の俺たちに」

 身に覚えのないセリフが頭をかすめた。前後はないが、誰かと話している会話の断片。遭難前のやり取りなのか、けれど「次の俺たち」という部分に違和感が残る。こういうときに能登や誰かがいれば、そんな会話をしたことがあるか確かめることができるのに。
 それに、あの会話だと何かを残そうとしていたように感じる。それが何なのかはわからないし、きっと考えても無駄だろう。
 ただ、少しでもこの島を抜け出すヒントになるのなら行動しないわけにはいかない。俺は体を起こして彼らのもとへ向かうことにする。
 体に付いた砂を払いながら、照りつける太陽の暑さに負けて俺は服の袖を捲った。そこで身に覚えのない傷があるのに気づいた。それも一つではなく、いくつも引っ搔いたような形で腕にある。身に覚えのないものだが、それは力強く主張しいた。これがたまたまできたものでないと。

「時間がない、残せるならなんでもいい。次の俺たちに」
「巻き戻る前に残します。消えない形で」
「次はちゃんとやれるはずです。みんなの力を合わせれば必ず」
「宇宙人、嘘つかない」
 
 それぞれの声が頭の中をかすめた。それがいつの記憶なのかはわからないが、確かに俺の記憶だと言える。
 俺は再び自分の腕の傷を見た。今度はそれがただの傷ではないことがわかる。いびつながら彼らと残した言葉がそこにはあった。

 Fulfill role(役割を果たせ)

続く。

担当:志央生

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