短編小説 : 影もかたちも
ゆにおでっす!
イベントラッシュも終わり、執筆に気持ちを向けられるようになりました。
ってわけで、久々に小説書きましたー!
どれだけ孤独になっても、
どれだけひとりぼっちになっても、どれだけ惨めな境遇でも。
自分だけは、ずっと自分の友達でいてくれるんじゃないか。
そんな気持ちを
「影」と「かたち」という二人の人物に託して、作品にしたっす。
二千字ちょいで短いですんで、noteに掲載です。
お暇つぶしにお読みくださいまっし!
◇
短編小説「影もかたちも」 ゆにお・作
私の棲家(すみか)は、荒地のあばら屋。
あまりに誰も訪ねて来ない。
まるでこの世界から置いてけぼりにされたようなこの場所で、
私はいつも、私の影と憐れみ合うばかりだった。
私は影のことを「影」と呼ぶけど
影は私のことを「私」とは呼ばずに、「かたち」と呼ぶ。
◇
「ねえ、かたち。あんたのご先祖さまって、貧しい農民だったそうよ」
「でしょうね。だってこの土地じゃ、大豆に粟やひえが少し採れるくらい。
自分が食べるのも精一杯で、売るほどありゃしないもの」
「ねえ、かたち。せめてもこの蓬とドクダミのお茶を飲みましょう」
「ええ。蓬もドクダミも強いわね。乾いた土地でも、こんなに香りを漂わせて」
「魔女たちからも、守ってくれるね」
「そうね」
「ああ、温かい」
ふと思う。
私の先祖は貧農だけど、影の祖先は誰だろうって。
それとも私の影だから、私が産んだことになるのかしら?
どうせそんなの誰にもわからないし、尋ねたところで、
どんな返事でも気重になるから黙ってた。
だって私はこの場所で、ずっと影と生きていかなきゃいけない。
それは揺るがないから。
◇
「太初の昔、その昔。この惑星(ほし)は、早くも黄昏時だった。
なぜならば、惑星(ほし)の影が惑星(ほし)のかたちを捨てて、どこかへ行ってしまったから」
影が突然、説話を始めた。
私は乾いた畑をぼうっと見ながら、小さくうなずき、話半分に耳を傾ける。
ーーこういうのって昔、学校でよくあった。先生が唐突に、意味深な暗喩を含んだ話を始めるとか。
話も沈黙も、どちらにせよ私にとって退屈なんだ。だから、話したいなら、好きに話させておけばいい。
「影に置いてけぼりにされたかたちは、
湧き上がる寂しさと怒りと情けなさに蓋をして、
煮え滾(たぎ)る感情のマグマをお腹の中に閉じ込めた。
そして地表に冷たい水を纏(まと)って、涼しい顔で浮いていた。
『一人でもへっちゃらですよ』って風情でね。
それでもお腹は煮えるから、その熱で身体が勝手にくるくる回り始めたの。
傾いたまんまで、不恰好に」
空を見上げれば、鱗雲。
もうここ何日も、雨はおろか露の一粒も落ちない世界の隅っこで、私は今日も生きながらえている。
明日も、明後日も、ギリギリなぜか生きている。
「影をなくしたかたちには、冷たい血しか流れないの。
お腹の中では、何ルーメンもの光がギラギラと灯っているけれど。
確かに息づく光だけど。
置き去りにされて傷ついた命は、もう冷たく振る舞うしかない。
捨てられた者はみんなすべからく、そうならざるを得ないから」
◇
じゃあ、私の身体はーー? 思わず、剥き出しの二の腕をさすってみた。
ざらざらしている。けれど、まったく温かい。
これだけの冷え冷えとした孤独な日々を送っていても、十分すぎるほどに。
この体温を。私はどう受け止めればいいだろう。
影が、にゅう、と前に手を伸ばした。
そして、私が何日か前に庭に捨てた紙巻きタバコを、ちょんと拾う。
「まったく、こんなものを吸う余裕はあるんだから」
影が、ふふ、と笑う。地面に視線を落とし、私は応える。
「うん。私って、たまに町に身体を売りに行くでしょう。すると、チップでくれる客がいるわけ」
「真っ暗な部屋じゃ、私はいろんな影と混ざり合うしかないから。かたちのあの姿は見ていないわ」
ふうん。だから何? 私は、影の気遣いにもやっとして、タバコに話題を戻した。
「タバコって今とても高いの。ほとんど税金なんですって。バカらしいわね」
身体を売ってる時って、あんたとお喋りしている時間より孤独になるのよ。影みたいなまぼろしじゃなくて、実体のある誰かといるはずなのに、不思議なもんね。
そんな泣き言で駄々を捏ねて、影に甘えたくなったけど、私はその言葉を飲み込んだ。
何も見なかったことにするような人に、重い話をしてもしょうがないじゃない。
◇
影は、庭の小石をチッと擦ると、タバコに火を灯した。私は眉をピクリと動かす。
「おいしくないわ。もうちびてるし、湿気ってるもの」
私はそっぽを向いたけど、影はタバコを口に咥えて、すうっと吸い込んだ。
影の身体の内側に、青い煙が閉じ込められる。
「ヤダ、身体に悪いわ。影の身体、真っ青よ」
にゅう、と手が伸びてきた。私の口唇に、ちびたタバコが挟まれた。
「私がつくった吸い付けタバコよ。かたちにあげる」
「…………」
私は黙って、素直にちびたタバコを吸った。肺を煙で満たし、ホウ、と吐き出す。
荒涼たる庭先に、青い煙がニョロニョロと踊った。
「私はかたちを置いてどこかへ行ったりしない」
「……ありがとう」
「私が闇に溶けて見えなくなっても、光ある場所に戻れば、私は必ずあなたのそばに現れる」
「……うん」
これからも、かたちと影でもつれ合って生きていこう。あなたがいれば、他に誰もいなくても平気だし、他の誰がいても気にならない。
そんな話を、ちびたタバコが摘めないほど熱く欠けてもお構いなしに、
私たちは続けていた。
ぽつり、ぽつりと、千切れるように。
fin
⬛︎お読みくださり、ありがとうございます!
by ゆにお
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