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短編小説 : 影もかたちも

ゆにおでっす!

まいど!

イベントラッシュも終わり、執筆に気持ちを向けられるようになりました。
ってわけで、久々に小説書きましたー!


どれだけ孤独になっても、
どれだけひとりぼっちになっても、どれだけ惨めな境遇でも。

自分だけは、ずっと自分の友達でいてくれるんじゃないか。

そんな気持ちを
「影」と「かたち」という二人の人物に託して、作品にしたっす。

二千字ちょいで短いですんで、noteに掲載です。
お暇つぶしにお読みくださいまっし!




短編小説「影もかたちも」 ゆにお・作

私の棲家(すみか)は、荒地のあばら屋。
あまりに誰も訪ねて来ない。

まるでこの世界から置いてけぼりにされたようなこの場所で、
私はいつも、私の影と憐れみ合うばかりだった。

私は影のことを「影」と呼ぶけど
影は私のことを「私」とは呼ばずに、「かたち」と呼ぶ。

「ねえ、かたち。あんたのご先祖さまって、貧しい農民だったそうよ」

「でしょうね。だってこの土地じゃ、大豆に粟やひえが少し採れるくらい。
自分が食べるのも精一杯で、売るほどありゃしないもの」

「ねえ、かたち。せめてもこの蓬とドクダミのお茶を飲みましょう」

「ええ。蓬もドクダミも強いわね。乾いた土地でも、こんなに香りを漂わせて」

「魔女たちからも、守ってくれるね」
「そうね」

「ああ、温かい」

ふと思う。
私の先祖は貧農だけど、影の祖先は誰だろうって。

それとも私の影だから、私が産んだことになるのかしら?

どうせそんなの誰にもわからないし、尋ねたところで、
どんな返事でも気重になるから黙ってた。

だって私はこの場所で、ずっと影と生きていかなきゃいけない。
それは揺るがないから。




「太初の昔、その昔。この惑星(ほし)は、早くも黄昏時だった。

なぜならば、惑星(ほし)の影が惑星(ほし)のかたちを捨てて、どこかへ行ってしまったから」

影が突然、説話を始めた。

私は乾いた畑をぼうっと見ながら、小さくうなずき、話半分に耳を傾ける。


ーーこういうのって昔、学校でよくあった。先生が唐突に、意味深な暗喩を含んだ話を始めるとか。

話も沈黙も、どちらにせよ私にとって退屈なんだ。だから、話したいなら、好きに話させておけばいい。


「影に置いてけぼりにされたかたちは、
湧き上がる寂しさと怒りと情けなさに蓋をして、
煮え滾(たぎ)る感情のマグマをお腹の中に閉じ込めた。

そして地表に冷たい水を纏(まと)って、涼しい顔で浮いていた。

『一人でもへっちゃらですよ』って風情でね。

それでもお腹は煮えるから、その熱で身体が勝手にくるくる回り始めたの。
傾いたまんまで、不恰好に」

空を見上げれば、鱗雲。
もうここ何日も、雨はおろか露の一粒も落ちない世界の隅っこで、私は今日も生きながらえている。

明日も、明後日も、ギリギリなぜか生きている。

「影をなくしたかたちには、冷たい血しか流れないの。

お腹の中では、何ルーメンもの光がギラギラと灯っているけれど。
確かに息づく光だけど。

置き去りにされて傷ついた命は、もう冷たく振る舞うしかない。
捨てられた者はみんなすべからく、そうならざるを得ないから」

じゃあ、私の身体はーー? 思わず、剥き出しの二の腕をさすってみた。
ざらざらしている。けれど、まったく温かい。

これだけの冷え冷えとした孤独な日々を送っていても、十分すぎるほどに。

この体温を。私はどう受け止めればいいだろう。

影が、にゅう、と前に手を伸ばした。
そして、私が何日か前に庭に捨てた紙巻きタバコを、ちょんと拾う。

「まったく、こんなものを吸う余裕はあるんだから」

影が、ふふ、と笑う。地面に視線を落とし、私は応える。

「うん。私って、たまに町に身体を売りに行くでしょう。すると、チップでくれる客がいるわけ」

「真っ暗な部屋じゃ、私はいろんな影と混ざり合うしかないから。かたちのあの姿は見ていないわ」

ふうん。だから何? 私は、影の気遣いにもやっとして、タバコに話題を戻した。

「タバコって今とても高いの。ほとんど税金なんですって。バカらしいわね」

身体を売ってる時って、あんたとお喋りしている時間より孤独になるのよ。影みたいなまぼろしじゃなくて、実体のある誰かといるはずなのに、不思議なもんね。

そんな泣き言で駄々を捏ねて、影に甘えたくなったけど、私はその言葉を飲み込んだ。

何も見なかったことにするような人に、重い話をしてもしょうがないじゃない。




影は、庭の小石をチッと擦ると、タバコに火を灯した。私は眉をピクリと動かす。

「おいしくないわ。もうちびてるし、湿気ってるもの」

私はそっぽを向いたけど、影はタバコを口に咥えて、すうっと吸い込んだ。
影の身体の内側に、青い煙が閉じ込められる。

「ヤダ、身体に悪いわ。影の身体、真っ青よ」

にゅう、と手が伸びてきた。私の口唇に、ちびたタバコが挟まれた。

「私がつくった吸い付けタバコよ。かたちにあげる」

「…………」

私は黙って、素直にちびたタバコを吸った。肺を煙で満たし、ホウ、と吐き出す。

荒涼たる庭先に、青い煙がニョロニョロと踊った。

「私はかたちを置いてどこかへ行ったりしない」

「……ありがとう」

「私が闇に溶けて見えなくなっても、光ある場所に戻れば、私は必ずあなたのそばに現れる」

「……うん」

これからも、かたちと影でもつれ合って生きていこう。あなたがいれば、他に誰もいなくても平気だし、他の誰がいても気にならない。

そんな話を、ちびたタバコが摘めないほど熱く欠けてもお構いなしに、
私たちは続けていた。

ぽつり、ぽつりと、千切れるように。

fin

⬛︎お読みくださり、ありがとうございます!

by ゆにお

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