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会社に秘密にしていること

『空芯手帳』(八木詠美)という小説を読んだ。

主人公は、「妊娠している」と会社に嘘をついて、ゆるやかに時短、産休、育休を経て、一年後職場復帰していた。きっかけは、女だからというだけの理由で押し付けられてきた(「名もなき家事」ならぬ)「名もなき仕事」に嫌気がさしたため。来客時のお茶だしや洗い物、あふれたゴミ箱の始末、もらった羊羮を切り分けて各机に配ったりすること。嫌気がさしたのは「仕事に」というより職場の男たちに。「妊娠」にともない発動した主人公の<拒否>に男たちは変わるのか…。

主人公は終始淡々としていた。

淡々と時短勤務をもぎ取り、淡々とお腹にストッキングなどを巻いてカモフラージュし、(時々単純に太ったり、)淡々と会社の特典を利用してマタニティーヨガに通い、プレママ友を作り、淡々と産婦人科に通って、念みたいなもので(としか思えない!)赤ちゃんのエコー写真を映し出しては医師にホラここですよと赤ちゃんの足や顔をしめされて泣き、周囲に促されるまま性別を決め、名付け、一年後職場復帰する。唯一、独身であることに対して同僚から下世話な詮索を向けられたときだけ激昂するが、居酒屋で酔っぱらいの声にかき消される程度の声量なので誰にも聞こえなかった。

つまりそんなに誰も、主人公に踏み込まない。

本当に出産したかどうかとか、子を養っているかどうかなどは、きっと職場に届ける何らかの紙に何らかの証明を付けるか、申告した内容とリンクするかどうか何かの手段で(裏で)(国とかと)会社が確認とかするのだろうから現実的には無理、とかいうクソな感想があったりしそうだけど(見てないけど推測)、そんなことはほんとにマジでクソどうでもよくて! 嘘とか本当とか、非現実的とか現実的とかもすべて!!そんなことじゃないんだ!!!【急に激昂】
はーはー。【気を取り直す】
自分でも不思議なことに、そういった現実性のようなものに私は1ミリも興味がなくて、ただ本当にそうなんだろうな~と思いながら読んだ。
主人公は妊娠していないけど妊娠していて、出産していないけど出産したのだろう。本人がそう言っていて、そうありたいと思っているのだからそうなのだ。ただそれだけ。会社(や国)は、そのためのサポートを全力ですればいい。本当にただそれだけ。

そうして、それはこの小説の中の話だけじゃなくて、全部みんなそんなものなのかもしれないと思う。
その人がそうありたいと思ってることをそのまま受け取るだけ。なんだな。

(特に、この主人公には誰も大して踏み込んでこないし、深く関わろうとしたり、手を差し伸べようともしないのだから、それはどっちもどっちでイーブンという気がした。)

そう考えたら、私が「そうありたいこと」って何かな?と思った(考え中)。

ところで、「そうありたいこと」について、考えてみたけど、主人公が「妊婦になることにした」のは、主人公の「そうありたいこと」だったのかな?
主人公はただ、職場のシンクを片付けたり、人の来客者の世話(お茶だし、片付け)をしたり、ごみ箱のごみを片付けたりするのがもうイヤだっただけだよな。
それと「妊婦になることにした」のがくっつくのがすごく面白いし、そのヤケっぱち感とか、いくらそうでもそこにはたどり着かないでしょう普通! っていう異常性…が超魅力的。怒りや憤りが異常値まで上がりきって振りきっちゃうと、後先考えない狂気の行動に出るのワカルーって思ったし、私も経験があるし、変な話だけどその方が信用できるような…。
この主人公はその辺りの葛藤(後ろめたさとか)をしていないので、ニューエイジって感じ。ニュータイプ?宇宙人??
よくわからないところがちょっと怖くて素敵。

私が今我慢できない臨界地点で、これを越えたら出奔する!っていうことは……残念ながら無いので、かわりに、私が過去に会社に秘密にしてきたことついてリストアップしてみたい。

古着屋さんの窓の猫

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