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ふるさとは近くにあれど思うもの

僕の故郷は、神奈川の南部に位置する港町だ。
そう聞くとうらやましい、と思う人もいるのかもしれない。神奈川県で港町といえば横浜、湘南の海沿いの道を想像するだろう。

だが、僕の故郷は、そんなオシャレな場所ではない。

最近は少しだけ知名度も上がったが、元々は神奈川の中でもぱっとしない場所だ。海沿いにオシャレな店が立ち並ぶ光景はなく、どちらかというと古くさい商店街がまだ市内に存在しているような、そんな町である。

バブルの真っただ中だった子供の頃は、町の規模の割にはそれなりの人口を持っていた。重工業が盛んな地域だったので、関連会社に勤めている人やその家族が居住していたのだ。
今は、その頃の面影は薄い。

バブル崩壊後、かなりの企業が撤退してしまったせいで人口流出が甚だしく、一時期は全国ワーストに躍り出る勢いで衰退を続けている。
他の地方都市の例にもれず、国道沿いにシャッターを下ろした店舗が寂しげに肩を落とし、その横に名の通ったチェーン店が並ぶ、そんな光景がちらほらと見られる町だ。

確かに、若い世代が仕事をして生きていく上では、かなり不便な場所だ。
田舎のくせに物価は東京と大差ない。市民税や固定資産税こそ都心部よりマシだろうが、そこまで安い訳でもない。
都内に勤めるには、通勤時間の長さがかなりのネックになるのに、市内で勤め先を探すと月収はかなり低くなり、手取り10万を切る会社も出てきたりする。都内と大差ない物価で手取りだけ低くされたら、実家暮らしでもなければこの町で暮らしていけない。

ひどいな、と思わないでもないのに、それでも僕は実家を出てもなお、この町に居ついている。

明確な理由はない。住めば都、というには、僕はここ以外の場所を知らない。

もちろん、いい思い出ばかりでもない。
それでも、悪いことばかりでもない以上、なかなか離れる決心もつかないのだ。

高台から目を凝らすと、海が見えることが当たり前の町で、ちょっとバスに乗れば、小さな山のハイキングコースにも入っていける。
郊外にありがちなショッピングモールから少し歩けば、とんでもなく狭い路地にこじんまりとした個人店がひしめく。

別に珍しい光景でもないのかもしれない。他を知らない僕には、よく分からない。
それでも僕は、やはりこの雑然とした町が好きなのだと思う。

ここを離れる決心がつかない、くらいには。

※一部、追記しました。

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