幸福は貯めること

青年は手っ取り早く幸せが欲しかった。そのためならいろんなものを信じてみようと思った。幸せになるにはどうしたらいいのか。

「お金をためなさい」
初めて入った宗教団体でいわれた一言はこれだった。散在するということは幸せを逃がすことらしく、その人が言うにはお金を貯めることで幸せを感じることができるとのことだった。青年は確かにな、と思った。貯金をするということは不安を取り除くことができる。不安を取り除くというのは自分がこの先見えない暗闇を緩和するためのランプを手にするのと同義だ。真っ暗な道を進むよりも少しでもあたりが見える道を進むほうが安心するし、不幸になりにくいだろう。備えあれば憂いなしの精神だ。

「好きなもののためにどうすればを考えなさい」
宗教団体に入団した次に受けた講座ではそのように言われた。なるほど、自分の好きなものをするために何をするべきかを考えるのはとても楽しく、幸せになる。たとえそれが捕らぬ狸の皮算用だったとしても、一時だけでも幸せになるのならばアリであろう。青年は自分の好きなものを考えた…タワーマンションの最上階の広々とした一室、デザインはシンプルだが、機能性抜群な家具の数々、そして青年が大好きな猛禽類の大きなペット…それらをそろえるためにどうすればいいのかと言われれば、やはり目標に向けてコツコツと下積みをしておくことだろうか。青年は通帳の中身を確認し、その数字の目標を考えた。

「必要だと思ったもの以外買わないようにしなさい」
あれからコツコツと仕事にいそしみ、株などをしながら少しずつ目標に近づこうとしていた青年だったが、どれほど下積みをしようとしてもなかなか目標に近づかない。あまりにも嫌になり親にどうすれば目標を達成するにはどうすればいいか聞いたとき、この返事が返ってきた。その言葉を聞いて青年はふと自身の行動を振り返る…なるほど、確かに菓子類やジュースなど余分な食費がかかっているかもしれないし、何なら友人に見てれば幸せになるから、と勧められて集めだした植物にも沢山のお金をつぎ込んでしまっている。そうなってしまえば目標を達成することなんてできるわけない。それから青年は余分をとことん削る生活をしようと決めた。

あれから数年、青年は決めた目標を達成したが、タワーマンションの広々とした部屋にも、シンプルな機能性の高い高級な家具も、さらには自分が大好きな猛禽類のペットを飼うこともなかった。青年は気づいたのだ。自分が大好きで幸せを感じるものが何であるか。それは備えあれば患いなしの精神でも、好きなもののために行動することでも、無駄を削ることでもなかった。
「さて、次はどれぐらいの金額を目標にしようか」

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