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スペインで香水を買うお話

死ぬまでに一度は行きたい街と心に決めていたバルセロナに念願叶って母と訪れることができた。6月のバルセロナの空は、美しい青でまさに太陽の似合う街だった。道ゆく人々は小麦色の肌をしており、私は自分の生っ白い肌と見比べて、彼らの健康的な肌見せに憧れを抱いた。


ある日、ゴシック地区を母と観光をした。ここはかの有名なコロンブスが登った階段があると言われるように、古くからある街並みであった。スペイン王国が覇権を持ち、世界地図を広げ始める前、からある街並み。時空を超えたロマンスに私は心躍らせた。


少し路地に入ると土産物やバルが立ち並ぶ。そこで私は「ARQUINESIA」を見つけた。少し日に焼けた赤いペンキの壁に暗めのショーウィンドウが目を引く。どうやら香水のお店であると、近くでまじまじと見てようやくわかるくらい、街に溶け込んだこぢんまりとした店構えだった。


店内には人気がなく、母と恐る恐る入ると、レトロなインテリアで壁一面に美しく商品が飾られている。一気に興奮のボルテージが上がる。お店の奥から金髪の細身の男性が出てきて、小さな声で言葉を交わす。


「海の微風」「歴史のかおり」「オレンジ」など、海に面し歴史のあるバルセロナらしい香りが並ぶ。慣れない手つきで香りを確認すると、クリアなイメージが広がってくる。私はその中でも、「Fig」というイチジクをベースにした香水に一目惚れをした。はじめは甘く果実の匂いが広がり、徐々に太陽やからっとした夏の空気を感じさせる香りだった。


もともと新しい香水を探していたので購入することは即決だった。

私と母はそれぞれ気に入った香水を購入した。すらっとした中性的な店員さんが丁寧に商品を包む。ずっしりと重みを感じる袋を手にして、嬉しさいっぱいでお店を後にした。


後からネットで調べた情報だが、このお店はバルセロナ発祥で地中海を旅した際のイメージから生まれたフレグランスのブランドだった。日々の喧騒から離れた、隠された美しい場所をコンセプトにした店舗のデザインで、香水の香りを楽しんで貰うことに焦点を当てている。ひと目につきにくいイメージのお店であるにも関わらず、偶然出会えて旅の醍醐味だと実感した。


念願叶って訪れたバルセロナで思いがけず出会った、秘密めいた香水店。帰国してからもフレグランスボトルを見てはあの素敵な出会いを思い出す。


日本から遠く離れた土地に訪れて美しい街並みや食事を楽しみ、その思い出はこのかわいらしい香水に凝縮された。


この香りを嗅ぐたびに遠い異国の地を思い出し、また次なる旅への心がくすぐられるのである。


おわり

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