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ここのとこ聞いたアルバム(10月下旬)

文章最後の「★」は最大4つの、アメリカの新聞方式

REOL - Σ(Sigma):快活なのに後ろ向きさを漂わせた歌声と、終始速やかに畳みかけるバック・トラックが、間髪入れず紡がれていき、13曲46分を一気に聴かせてくれる、とても新人のデビュー作とは思えない密度の濃さ。トイズが力を入れてPRするわけだ。2、3、5、7、8、10、13曲目辺りは一発で気に入ったし、ここ何年も30分を超えるアルバムを聞くのがキツくなっていた私が、各曲に興味を惹かれっぱなしで聞けたホドだもの。(歌詞のローラーコースターぶりも含めて)やさぐれていた頃の椎名林檎的な声質を持った「れをる」の歌声に、私は時折、アメリカのテレビドラマでも曲が使われていた10年ぐらい前の頃のイモーゲン・ヒープを思い起こしたりもした。バック・トラックのキレたハネっぷりは「The Warning」の頃のHot Chip的だが、8bitサウンドの器用な使い方に関してはこっちが遥かに上。凄いの出てきたね、ほんと。(★★★1/2)


Anohni - Hopelessness:一線級のゴシック・ソウル(ブルース)にやたら思い詰めたような世界観(池上直哉が撮った大野一雄の写真を、ジャケに使うぐらい)を重ね合わせた事で、他とは異なる存在感を見せつけていたAntony and the Johnsonsが活動休止になり、一方で、中心人物であるアントニー・ヘガティがアノーニと芸名を変えて出してきた、デビュー作。とても女性とは思えないヘガティの、野太くオペラティックな歌声はさらに音量と力強さが増し、バックのデジタルな演奏もサイコ的というか、やけに強迫感めいている。四方から押し寄せてくる壁に徐々に居場所を奪われていくような感覚というか、衝撃的ではあれ気軽に聞ける音楽では無いが(ビョークの「Homogenic」から希望を全て取り去ったような雰囲気)、求めた「時」には強い惹きと刺激を与えてくれるのは、間違いない。(★★1/2)


Oranssi Pazuzu - Värähtelijä:LAウィークリーに掲載された、このハロウィンの時期に合わせた特集記事で知ったバンド。選曲も通好みな当該の記事がまた秀逸で、威圧感や不気味さを分かり易く演出する上では、ヘビーメタルの要素が必要不可欠なのを痛感させられたものだが、まあこのひとたちも、フィンランドの中でも近年はIT企業が発展しているタンペレ在住なのが信じられないほど、粗野で原始的。本当の意味で真っ黒なブラックメタルに、それこそ五臓六腑を(どっかの有名漫画の有名シーン級に)捧げている。こんなの気軽に聞く奴は誰も居らんし、なんてダジャレをつい書きたくなるほど、このひとたちは本気だ。曲目は全部フィンランド語だが、翻訳機に投げたら、saturationやらhierarchyやらhatredとか出てきたし、アルバムタイトルの「valehtelija」(ばれてーら)は「liar」だそうなので、まあ、そういう内容だろう。(★★★)

Bon Iver - 22, A Million:周囲の絶賛がまるでピンと来ないほど、私はこの凡・相庭さんの、宗教讃美歌的且つ実験的な方向性に惹かれない、というよりもやってる事の面白さで測ったら私が確実に興味を持ちそうなものなのに、やはりこういう所でも評論家大絶賛の弊害が出ているというか、なんか邪念ばかりに襲われてぜんっっっっぜん気持ちよく聴けないんだわよ、特に今回。ほぼ全曲レビューに近かったピッチフォークの記事内では「Beyond its sonic striving, 22, A Million is also a personal record about how to move forward through disorienting times.(<音楽的に>尖鋭化した達成感以上に、この作品は、混迷した今の時代をどうやって前向きに進んで行くかを謳った、パーソナルな内容でもある)」と評されていて、成程とは思ったし、確かにその当該の記事並みに解析がされていれば説得力はあるが、この作品を良く分からない理由で持ち上げている文章は、私の中では確実に赤信号だ。そう、「   」(←空白を埋めよfill in the blank)とかな。(★)

Meshuggah - The Violent Sleep of Reason:スウェーデンのウメオ(Umea)という、学生中心の街から1990年代突入直後に飛び出してきたのが分からないほど、人間が演奏しているのに機械的すぎて人間味が感じられない音楽性の礎を築いたひとたちで、ロックの世界でもかなり異端な存在感をアピールしていたが、そうかと思うと自分たちの曲に合わせてエアギターする謎の動画を投げてきたりなど、ユダヤ語で「crazy」を意味する「メシュガ」を名付けるだけのユーモアも昔は感じられた。近年ではそのダジャレさ加減が薄れ、より人間性を削ぎ落とした、ひたすら殺伐とした音楽性(ガチガチの硬度を前面に出したリズム面が、呆れるほど凄い)に徹してはいるし、安眠妨害的な歌詞も含めて今回もそれは変わらず、刺激的な音を出しているのに刺激が薄いという矛盾を依然として抱えているが、「MonstroCity」を始め、不意打ちをかけてくる楽曲や瞬間も少なくないので、それこそ作業用BGMに向いていると思う。(★★)