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ルーミニアーズとフロスト

今年よく聞いていた、アルバム2枚の簡単な紹介を。

4月に出た、ザ・ルーミニアーズ(The Lumineers)の2作目、「クレオパトラ(Cleopatra )」が一つ目。このアルバム、約12万5000枚(そのうち10万8000枚は、CDの形)を4月の第2週に売り上げ、その週ではダントツの全米1位と、地味ながらけっこう凄い実績を上げている。

彼らはコロラド州デンバーで2002年に、当初は3人組で結成されたフォーク・ロック・バンドで、ドラマーの弟が19歳の若さで麻薬問題で亡くなったのが、結成の切っ掛けだそうだ。

それからピアニストやチェリストを、クレイグスリスト経由で追加し、結成から10年目にしてバンド名を冠したデビューアルバムを出すと言う、まあ呑気な人たちである。

するとそのアルバムが、牧歌的な音楽内容と日常風景的な歌詞の良さもあって、130万枚を超える大ヒット。シングルの"Ho Hey"なんかは、2013年の頃はそれこそ、その辺のスーパーやデパートに行っても耳にする程、こちらでもよく流れていた。

長寿番組サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)への出演を始め、様々なテレビ番組に出るようにもなり、バンドの知名度は大幅にアップ。その勢いを引き継いでの今回の2作目も、ほとんどデビュー作と同じ内容だ。

フォーク・ロックという音楽形態を地盤に、アコースティック・ギターやピアノ、チェロが優雅に響き、時折熱くなる歌声が、最初から最後まで続く。スマホやタブレットとは無縁の世界観を作り上げているというか、歌詞も極力シンプルだし、とても2016年4月8日に出た新作とは思えない雰囲気が、なんだか凄い。最初のシングル"Ophelia(オーフィリア)"の映像がまた、郊外の田舎町のイメージを打ち出していて、バンドの狙いもハッキリしている。

アルバムの写真は、1917年の白黒無声映画「Cleopatra」から引用されており、これがまた実際の音のイメージとピッタリだ。

正直、通して聞くとまったりしすぎているというか、シングルのオーフィリア以外は曲の区別が(2~3回聞いただけでは)あまりつかなかったりするが、11曲で33分しか無いし、夜に散歩をする時などに聞くと、けっこうハマる。

それにこの人たちは、コンサートでの生演奏が本領発揮なので、アルバムに興味を持てなくとも、機会があれば是非見て欲しいと思う。

で、もうひとつは、フロスト(Frost*)の3作目、「Falling Satellites」。

10年以上前から、本国イギリスを拠点とする腕利きのミュージシャン(その中にはミリオンセラーを記録したシングル作曲家も居る)が集まって、若干複雑な展開を盛り込んだハード・ロック(長い曲が目立つのでプログレの分類で語られる事が多いが、私はむしろFoo Fightersが壮麗さに目覚めた、的な印象を昔から受けていた)を演奏しているのだが、今回は大半の曲が短くまとまっていて、それが適材適所に置かれているから、アルバム全体の流れが過去以上にスムーズだと感じた。

抽象的な言葉の羅列によって醸し出される作品の神秘さを補助する、分厚いコーラス・ハーモニーがまた分かり易く大仰で、こういうベタなやり方が好きな私は、オープニングの「Numbers」で瞬時に惹きつけられたものだ。

この作品の何たるかを前面に出したシングル曲「Heartstrings」を含んだ、アルバム中盤までは、押しの一手でぐいぐい来る。それこそ、後半がやや尻すぼみ的なのが、気にならないほど。

彼らの綴る歌詞はどちらかと言うと、人間関係の面倒臭さをあれこれ言い換えたものが目立つが、キーボードが多用されることもあって、'80~'90年代に生活していたひとびとが漠然と思い描くSF的な光景を、聞き手によっては想起させるものがある。というか、私は確実にその中のひとりだ。ラグランジュポイントのBGMみたいなんだよ、彼らの奏でる音って。

ライブ映像を観るとやはり華が無いので、あくまでスタジオ録音のミュージシャンとして、私は彼らの音を楽しみたい。

上記の両作品とも、アメリカの新聞形式四段階で無理やり点数をつけるなら、私であればどっちも「★★★」。100点満点なら、80点台、といったとこ。