見出し画像

ドル誌の「好きな女の子のタイプ」問題――問いかけからすこし踏み込んでみる

前回のnote「好きな女の子のタイプ」、本当に聞きたい子ってどのくらいいるんだろう。まさかこんなにも多くの方に読んでいただけるなんて!本当に驚きました。Twitterで1万もいいねをいただいたのは初めてでしたし、リプやDMなどでたくさんの感想をいただけたこともうれしかったです。ありがとうございました!

自分としてはアイドル誌にある種の戸惑いを覚えながら作っていた人間のリアルな想いを知ってほしいという気持ちと、ジェンダーについて自分らしさについてを少しでも考えてもらえたら…という感じで、割と編集部時代の想いを厚めに、ジェンダー的な部分を軽めに書いていました。
アッサリと書くことで、押しつけがましくなく考えるきっかけを持ってもらえたらという意図もあったので書かなかった部分が結構あったのですが、もうちょっとだけ踏み込んで書きたいし、反響を見るなかで伝わっていない部分もあるなと思って今回、またnoteを書くことにしました。ご興味ございましたらまたお付き合いくださるとうれしいです。


前回のnoteは、私が元アイドル誌編集者としての立場から「好きな女の子のタイプ」や「デートに着て来てほしい服」という類の質問がはらむ危険性について疑問を提する内容だったのですが、ここで私が特に「アイドル誌」の経験をもとに書いたことには、もう一歩踏み込んだ理由がありました。

①「アイドル誌」読者の年齢層の低さ
自分が在籍していた編集部に届いたハガキの印象にはなるのですが、小学生~60代くらいまで、ものすごく幅広い年齢層に読まれているというのがアイドル誌の特徴だと思います。私は俳優誌やファッション誌の編集部にいたこともあるけれど、その幅がほかのどのジャンルの雑誌よりも大きいんじゃないかなという気がします。しかしそういう状況に対して、アイドル誌の編集者には低年齢層の読者に対する責任感が、児童向け媒体を作っている人たちのそれよりはかなり希薄なところがあるんじゃないかなと思っています。もちろん、法を侵したり倫理に反するようなことについては当然注意して作ってはいるけれど、道徳的な部分、心の持ちように関わる箇所……特に前回のnoteで提起したような「恋愛」に関するところでは、かなり昔の価値観のまま、ほぼアップデートのない状態で30年くらい出版し続けているように感じています。

一方で、受け手の読者はどうかというと、これもハガキを読んだ印象ですが高校生以上の読者に比べ、小・中学生の読者のほとんどは、アイドルと自分との距離感が測れていない。ただでさえ感受性の強い影響を受けやすい時期の読者、しかもほぼ全員がアイドルへの「リア恋」的な感情を持っている小・中学生の読者が、そのアップデートのない恋愛観を自然と植え付けられているのって、あまりにも怖いことじゃないですか? 多感な時期の子どもたちに対する「大好きなアイドルの発言」、その一つ一つが与える影響の大きさは測り知れないものだと思います。

大人の読者であればその手の質問の内容をすべて鵜呑みにはせず、たとえばアイドルがそれをどう返したのか、というところに人間的な魅力や面白さを見出すこともできるし、それもまた彼らを知るひとつの手段として有効ではあるでしょう。でも、それができない読者も多くいるのがアイドル誌の恐ろしいところ。そういうふうに、与える影響力の大きさと責任感の希薄さ、そのいびつなほどにアンバランスな部分を見て見ぬふりしながら作ってきたのがアイドル誌なんじゃないかなと思うんです。そして、そこにいまこそ向き合うべきなんじゃないかなと。


②取材を受けるアイドル自身の年齢の低さ
もうひとつアイドル誌特有のリスクと言えるのが、取材を受けるアイドル自身もまた、極めて低年齢の頃から取材を受けているということがあると思います。デビュー前のほとんどステージにも上がっていないような小学生や中学生の子たちも、こうした価値観を揺るがすリスクの高いインタビューを受けているのがアイドル誌。毎月発売されている5誌、そのどこかしらでは必ずといっていいほど恋愛についての質問がなされています。まだ恋愛感情も芽生えていないかもしれない子どもにも「好きなタイプ」といった質問をしている。そうすることで、「恋愛感情を持つのが当たり前」「女の子を好きになるのが普通」というような価値観が押し付けられること、無意識に刷り込まれることになると思うんです。

もしかしたら、アイドルたちのなかには恋する気持ちがわからず自分がおかしいのかなと不安に思う人がいたり、同性を愛していることを悩み苦しんでしまう人もいるのかもしれない。そういう人にとって、毎月のように何年も何十年もその手の質問に答えることはどれだけの苦痛になるんだろう。そういうことが積み重なって自分を好きになれなくなってしまった子、輝けなくなった子やアイドルを辞めてしまった子もいるのかもしれない。
また異性愛者であったとしても、「好きな女の子のタイプ」とか「結婚したい女の子の条件」とか、そういう質問に何度も何度も答えていくうちに「自分は(男は)女を選ぶ立場にある」「自分の価値観に女性が合わせるのは当然」というような思考に(無意識に)なっていくのを助長することにはならないでしょうか?’(そして、それを読むファンにも「好きな男の子の理想になるのがすべて」「彼の好きな女の子像にならないといけない」という強迫観念にも似たものを与えてしまうことにもなるんじゃないかな)

小さなころから何度も何度も、自分よりずっと年上の編集者、ライターたちに価値観を植え付けられるような質問をされて、それでも信念を持ち続ける人、途中でそのおかしさに自ら気づける人、そういうアイドルももちろんいるけれど、そういう人のほうが少ないかもしれません。今、ジェンダー的に危うい発言をして炎上している子たちもたまに見かけますが、アイドル誌を作っていた立場としては、その子たちをそうさせてしまった一因に、自分たちの無責任があったんじゃないかなと思いますし、そのリスクから目を逸らして、どんな大人になるかその結果を子どもたちにゆだねる甘えがあったんじゃないかというのを痛烈に感じています。


他の俳優誌や音楽誌やファッション誌にだって、同じような質問をする媒体はあるし、それだって仕事人としての相手に対して、また人として失礼極まりないことには変わりないと思っています。
ただ読者とアイドル、共に成長過程にある人たちの感情の橋渡しをする存在としての大人の集まりである「アイドル誌」には殊更に、今一度こういったことを考えてみてほしいという想いを一番に持ってあの記事を書きました。読者の皆さんに無責任にも古めかしい価値観を押し付け続けてきた人間の一人である私からは、問いかけのようなかたちで書くのが精いっぱいでした。それでもものすごく多くの読者のみなさん、アイドルやそれぞれの“推し”を応援する方たちがジェンダーについて、自分を好きになるということについて考えてくださったこと、とってもうれしかったです。

私もまだまだ勉強不足で、自分のいた場所で感じていたなんとなくのモヤモヤの理由をマリウス葉さんに気付かせてもらったことをここに書くことで、反響を受けてさらにまた今いろんなことを感じたり考えたりできるようになりました。

たとえば今回のことをきっかけにトランスジェンダー(いろんな意味がありますが、一番簡単にいうと自分の思う性と人から見られる(身体的)性が異なる人のこと)の方からDMをいただいて驚いたことがありました。
それは、「ライブ中に男性/女性で分けたコールがあると、楽しさが減ってしまう」というもので……私はこのDMを読んだとき、とても傲慢ではありますが、自分の考えの至らなさに泣いてしまいました。(noteの掲載許可はいただいております)
アーティストとファン、会場全体がひとつになるあの瞬間に、傷ついていた人がいたということに、私はこれまで一度も思い至ったことがありませんでした。そのDMをくださった方はFTM(性自認が男性で身体的に女性)でジャニーズが好きという方で、「一個人の考えなのですが」と前置きをくださった上で、(ジャニーズに限らず)コールを性別で分けられた経験が多々あるなかで、「どっちにも応えられない寂しさと、最高に楽しんでいる時間にいちばんの悩みが顔を出すのがつらい」とおっしゃっていました。
特にアイドルをはじめとする女性ファンの多い男性アーティストであれば、アーティスト自身が男性ファンの存在がうれしくコールを分けていること、女性ファンも男性ファンが多いとうれしくてすごく盛り上がること、それってすごくよくあることだと思うんですけど、そのときあなたの隣に傷付いている人がいるのかもしれない。そういうふうに考えたこと、みなさんもあったでしょうか?
そもそも、男性を女性が応援するのだって、別に恋愛感情などは関係のないことのほうが多いと思うし、純粋にアーティストとして応援しているなら女性も男性も関係ないじゃないですか。男性アーティストの男性ファンをありがたがること自体、女性自身に失礼というか……なんだかおかしくないですか? でもなんでそれに気づかなかったんだろう。

そのDMをくださった方は、Sexy Zoneは「ファンの総称を性別で分けることもなくなり自分が居やすい場所です」ということもおっしゃっていました。過去の雑誌を確認したところ、男性ファンが増えてきたため中島健人さんが「セクガル(Sexy Girls)、セクメン(Sexy Men)」から「セクラバ(Sexy Lovers)」に変えた呼称を考えたということだそうですが、たしかにそもそも、男性と女性でファンを分けることに理由なんてないというか……もはや「男性/女性」って何?という話にもなってきますよね。私はたまたま女性の体で女性の心(いわゆる女性が好きとされるかわいいものが好きだったり男性が好きだったりする)を持っているけれど…それでいうと、今度は「じゃあ女性の心ってなんなんだろう」ってなってきませんか?

答えは出なくてもそういうことを考えていくことが変な差別をなくすし、自分を嫌いになる必要のない人がそういう余計な苦しみを背負わずに済む世の中になると思う。考えるのってめんどくさいかもしれないけど、自分の知らないどこかのことじゃなくて、身の回りのことからいろんな違和感に気づき始めたら、自分のことだしそんなにめんどくさくはならないと思う。
私の場合も、自分のいたアイドル誌の世界を考えていたら今どんどん視界が広がっていっている。そしてそれを広げてくれたのは、前のnoteの読者の皆さんです。

長くなっちゃいましたが、前回のnoteで何かを感じて考えてくれた皆さんへ、感謝の思いを込めての長~い追記になりました。たくさんのいいねやご感想、本当にありがとうございました。私も知らないこと、気づかなかったことが本当にたくさんあるので、これからもいっしょにいろんなことを考えていっていただけたらうれしいです。
あと、編集という仕事やライターという仕事を目指す若い方たちからもたくさんDMをいただきました。なので、今後少しアイドル誌をはじめとする編集やライターの仕事について書いていこうかなと思っていますので、また気になる記事がありましたら読みに来てくださいね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?