見出し画像

「好きな女の子のタイプ」、本当に知りたい子ってどのくらいいるんだろう。アイドルに興味のなかった元ドル誌編集者がずーっと思っていたこと。

先日アップした7ORDERについてのnoteにチラッと書きましたが、私は数年前、「アイドルに興味のないドル誌編集者」でした。

そもそも「編集」ってやってみないと何してるのかまったくわからない職種だと思うんですが、ものすごく簡単にその内容の一部を説明するならば、そこで取り扱う人・ものの魅力を、広く誰かに知って愛してもらうキッカケ、場所を作るべく奮闘するのが編集者のお仕事です。
たとえば美術館の展示でひとつの有名な絵画があったとして。それをどんなテーマの展覧会に置くか(他のどんな作品と並べるのか)、その展示のどの場所に、どういったフレームや解説文を付けて見せるのか。それだけで、見に来る客層が変わるし、見た人に与える感覚もまったく違うものになりますよね?
そういうふうに、「あえて」こんな表情を見せたいという切り口や角度をつけるものから「ストレートに」その天然の素材をドンと提示するようなものも含めて、必ずある種の意図をもっていかにそれの良さを見せるかというのを考えそのために必要なすべてを準備するのが編集者の役割のひとつです。

「〇〇さんの魅力の中でも特に今こんなところが唯一無二で、特に〇〇にそれが響きそう、あるいは〇〇にこそその魅力を訴求したい」
「だったらそれを最大限に引き出して見せられるように、今回はこんな衣装を着て、こういう表情やポージングを引き出せる撮影場所で、それを引き立たせるにはこんなライティングで」
「だからカメラマン・スタイリスト・ヘアメイクはあの人がいいだろう」
「こういう質問が〇〇さんのあの魅力を紐解くキーになる」
「Q&Aのほうがフックになる、いやロングインタビューでこそ刺さる言葉の持ち主だ」

そういうものを考え、事務所に提案していくかたちが主で、時には信頼関係があればタレントといっしょに1から考えて作っていくこともある。ゆえに編集者は誰よりもその見せたいものの魅力を知って、感じていないといけない。本人たちも知らなかった、ファンも見たことのないようなものまでを提示できるほどに。

だからこそ最初にドル誌の編集部に配属されたときは、自分にできるのかとにかく不安で仕方がなかったです。好きな音楽は60-70sを中心とした洋楽ロック、趣味はアニメや舞台鑑賞。ただ幸いにも(!?)「新しいものを」というよりは「その雑誌らしい」企画を求められる媒体だったので、最初は過去の企画をなぞるようなところから始めました。

バレンタイン、クリスマスなどのイベントから、季節感を意識して「彼らと読者がいっしょにその時を過ごす」イメージで、定番からいわゆる「トンチキグラビア」と呼ばれていたものまで、手を変え品を変え毎月撮影とインタビューの内容を必死に考えて。
私は2次元のオタクなので、アニメや漫画イラストからポージングや衣装などのイメージを拝借することでなんとかなったところが大きいと思う。
「シンメ」の意味を知らなくても、「カップリング」に限りなく近い認識からはじめて、組み合わせに萌える感覚はもともとあったので、そういうものを意識した誌面作りはすぐにできました。
そういうただのオタク特有の嗅覚から、求められているであろうものを理解し読者の想像以上のかたちにして見せるのは得意だったようで、雑誌の売上をかなり伸ばし、勤めた3年の間には現場長的な役職についたりもしました。

その間、仕事上必要なことなので、担当タレントの仕事は誰よりもしっかりと追いかけるようになる。過去の活動や発言もたくさん調べて、記事作りの参考にしたり。そうしていくうちに、少しずつその魅力がわかるようになりました。頑張っている裏側を見れば応援したくもなるし、ライブなどでは純粋に楽しんだり、感動するようなこともたくさんあって。そのなかで、今でも応援しているグループだっています。

でもそうやって必死に走り続ける中で、自分のやっていることに疑問を持つことも多くなりました。毎月のように、彼らの活動とは関係ない恋愛やプライベートについてのインタビューをすること。謎設定のグラビアで時には彼らがやりたいわけではないかもしれないこともお願いすること(無理やりやらせているのでは決してないけれど、本人たち発信ではない仕事なら、どんなものでもその可能性があるという意味で)。一生懸命に夢や目標を持って活動している彼らの想いをないがしろにしてはいないだろうか。毎月彼らがドル誌に出るメリットって何だろう、と勝手に想像したり考えることもたくさんありました。

ただそれに関しては、仕事のインタビューは他の媒体でもたくさんやっているので、アイドル誌はアイドル誌としてのこの独特な在り方というのが面白いしファンも求めているところもあるのだろうから、棲み分けということでむしろ突き抜けてやっていけばいいのかなと思ってやっていきました。
「トンチキ」な撮影をすることに関しても、申し訳ない気持ちもありつつ定期的にファンに刺激的なものを見せることは、彼女たちが応援を続けるモチベーションにも繋がるだろうなと思ってやってきました。ファンは媒体を通してしかほとんど彼らに会えない。だったら、ファンが見たことのない格好や表情の彼ら(恐らくドラマや映画じゃなかなか見られないようなものも含めて)を見せてあげる機会を作るということも、必ず月1で時間をもらえるドル誌の大切な仕事のひとつだろうと思っていました。

けれど、どうしてもずっと自分のなかで解消できなかったのが、恋愛系企画の中で必ず出てくる「好きな女の子のタイプ」や「デートに着て来てほしい服」などの質問でした。正直なところ、「好きになったらその子がタイプ」だし、「好きな服を着て来てくれたらいい」というのが本音だと思う。我々編集者ですらそう思いつつも、でもファン心理としては「好きな人の好みのタイプに近づきたい」みたいな気持ちがあるのもわかっていたので、粛々とその質問をし続けてきました。実際、特に若い子ならなおさらそういう発想になりがちだと思うし、同級生の男子に聞くみたいにファンはアイドルに直接聞くことができないんだから、それを代わりに聞いてあげることも大事な仕事だろう、という気持ちもありました。

だけど最近は、それ以上の理由をもって、それを聞いていいんだろうかと感じるところがある。彼らの好きなタイプを発信することで、女の子たちが「自分らしくあること」を否定することになるんじゃないか、と。そしてそれは絶対にあってはならないことだと思うから。

今フリーランスのライターとしても、たまにこういう質問をしないとならない場面に出くわすけれど、やはりタレント側でもこういう質問に答えにくそうにする人が増えてきているというのを感じます。以前なら、少し気にはなりつつもそういうものとして答えてきたけれど、やっぱりこれを答えることがどういうことなのか、というのを考え始めている男性が増えてきていると感じるし、私はそれがとても嬉しく、健全なことだと思っています。

誰しも自分の好きな自分として生きていいのだし、それが自分を肯定すること、他人の個性を尊重することにも繋がる。そういう考え方が特に若い子たちの間でかなり浸透しつつある今の世の中から、アイドル誌はどんどん離れて行ってはいないだろうか。今の女の子たちの中のどのくらいの人たちが、好きなアイドルの「好きな女の子のタイプ」を知り、それになりたいと思うんだろう?もちろん、そういうのを知りたいという感情もあるだろうけれど、それが知りたいと思うこと自体、自分を大切にしてない証拠だって感じることも大事なのかなって思うんです。

以下の引用は雑誌に載った発言だから書くけれど、私がこれをnoteに書こうと思ったのは、以前Sexy Zoneのマリウス葉さんにインタビューさせてもらったときにものすごい感銘を受けたからで。それこそ「デートに着て来てほしい服は」という質問には「好きな服を着て来てくれればいいと思うんだけれど」とハッキリ答えてくれたし(その上で、かわいいと思う服を答えてくれた彼の優しさと賢さにも感動した)、「頑張る女の子を応援するメッセージを」と言ったときには、「まずは自分自身を好きになることから始めて」という言葉からはじまって書ききれないほどの温かいメッセージを考えてくれて。
そういった彼の言葉を聞いて、ものすごくハッとさせられたんです。
「自分を信じて好きになること」これができればいいのはわかっているけど、でもどうしてもできない。そういう長い思春期を過ごしてきた私にとっては、あの若さでハッキリとそれを言えるマリウスさんがとても眩しく見えたし、この生きる上で恐らく一番大事なことを、影響力のあるアイドルの役割のひとつとしてファンに伝えようとするその在り方にものすごい感動を覚えました。そして、改めて自分のずっと抱えてきた疑問がフツフツ蘇ってきたんですよね。

私はドル誌にいたときもSexy Zoneの担当になったことがなかったので、彼らのことをそれほど知らなかったんですが、マリウスさんや中島健人さんをはじめ、かなりこういったジェンダーの問題を意識してハッキリと言葉にされてきた方たちなんだなというのを最近いろいろと知りはじめて、どんどん彼らのことを好きになってきています。
Twitterで見たのですが(霜田明寛さんという方の体験とのこと)、中島健人さんが男性ファンに言った「僕たちは結婚だけができないね」という言葉もすごいですよね。いろんな愛の形を尊重しているし、当たり前だとか普通だと思っていたけれど本当にそうなのかな?という気付きをも自然と人に与えられるアイドルってこれまでなかなかいなかったんじゃないかな。(さらにいうと、ここで「好きな〝女の子の〟タイプ」を平然と聞き続けてきたことにも疑問を感じ始めますよね…?)だから多分、Sexy Zoneのファンのほとんどは、「好きな女の子のタイプ」的な質問の違和感に気づいているんじゃないかなぁと思うんだけれど、実際みんなはこのあたりのことをどう感じているんだろう?

もちろん、そういうインタビューを読んでドキドキしたり、恋愛する妄想が膨らむのもうれしいことだし大事なことだから、そのすべてを否定しようというのじゃないのだけれど。でも一方で、おかしいなと思ったり、違うなと感じたりする人がいることも肯定したいし、そういうふうに自分の身の回りに起こっていることについていろいろ考えるのって大事だよっていうことは伝えたい。そしてそこから「自分らしさ」を見つけてくれたらうれしいなって思う。そして編集者としては、そういう「読んだその先の読者」のことも大事に、本を作っていきたいなとも思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?