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【映画レビュー】DOGMAN ドッグマン

エンドロールでリュック・ベッソン監督作品と知って驚いた。いやーどおりでめちゃくちゃ素晴らしい映画なはずだ。個人的には『レオン』より好きかも。『レオン』もめちゃくちゃ良い映画だけど。

とある孤独な犬使いの、辛く悲しい半生を描いた物語。家族を恐怖で牛耳る父親の元で生まれ不幸に満ちた彼に、犬たちはいつも傍らにいて無償の愛を注ぎ続け、彼もまた犬たちに深い愛情を注ぐ。そんなドッグマンと呼ばれた彼の人生を、拘置所でとある医者の女性に語る形で振り返る。
物語の吸引力というか、続きを早く知りたいという強烈な欲求をかきたてるような作りが本当に上手い。そういう一番適切な順番やタイミングで時間軸を移動できる技術は、さすが名監督と思わせる。
ドッグマンと呼ばれる不思議で魅力的な主人公を作り上げているのもすごい。彼の人生はとても辛いものだったけど同情に傾きすぎる事もなく、犯罪者ではあるものの悪人に偏りすぎもせずヒーローという訳でもない。ものすごく極端な人生なのに共感できる部分もあって、でも唯一無二のキャラクターだ。
そんな彼の対話相手はシングルマザーのお医者さんで、医者という社会的地位の高そうな職業の割に彼女の境遇は社会的弱者である。正直、二番手キャストとは思えないほど情報が最低限しか与えられていないが、彼女にもまた共感したり魅力を感じたりする部分は多い。彼女のドッグマンへの接し方、付かず離れずの距離感の上手さや、善良だけど優しすぎない感じも好きだ。

メインテーマと言っていいほど神や信仰について多くの描写があるが、そういう個人個人で価値観が大きく異なり、ありふれているけど描きにくいテーマを真正面から描き切っているのがすごい。このシーンのために作った映画なのかなと思わせるような印象的な美しいシーンもある。
かなり暴力や犯罪が多い映画にもかかわらず、ディズニー映画かな?と思うぐらい犬と意思の疎通ができている事と、わかりやすい口パクの歌を許容できさえすれば本当に心に残る素晴らしい映画になると思う。

何気ないけど、個人的に好きなシーンがある。ドッグマンが半生を語り終え、医者の女性が別れ際にどうして自分に語ってくれたのか、つまり信頼して心を開いた理由を問う。彼はその理由を短く語るが、正直私にはその言葉があまりピンとこなかった。
でも、その後医者の女性は部屋を出るのだけど、カギを開けに来た看守の女性がちらっと見える。その医者の女性と看守の女性がすれ違うのを見て、この看守だったら打ち明け話をしようという気分には絶対にならないなと二人を対比して思ったのだ。なんかこの医者は信用できる、ドッグマンが半生を語ってもいいと思える人柄だなと腑に落ちた。そういうキャラクターの生き様みたいなものが見える、説得力のあるキャストをその医者と看守だけでなくドッグマンも含めて全てのキャラクターで選んでいる事が伺えて、すごい映画だなぁと改めて思った。

『DOGMAN ドッグマン』 4.5

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