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【映画レビュー】ブルーベルベット

鬼才が作った昔の映画って感じの、シュールで独特で非道徳な作品。よくわからなくて、不思議で、面白い!と言い切れないのになんかスゴい。

子どもの頃の感覚を思い出した。映画やドラマを見ても、子どもだから理解できない事も多い。わかる部分とわからない部分がまだらで、でもなんか印象に残る部分があったり、自分が今まで触れてこなかった世界を覗き見たような興奮を覚えたり、だから背伸びして一生懸命わからないものを見ていた。大人になって、色んな事を理解できるようになって、すっかり忘れていた。あの頃見ていた映画やドラマみたいに、わからない部分が混ざっていて、でも印象深いシーンもあって、よくわからないけどなんかスゴいを味わった。

1987年に公開された映画だそうだ。その時代の人たちは、あまりに過激でさぞ驚いただろうなぁと想像できる。現代の感覚からすると、例えばもっと過激なエロはその辺にたくさん転がっているけど、この映画の変態的な思考や、独特のグロさや、不気味さみたいなものは真似できないものだなと思う。
例えば裸体が出てくる時、それは性的に興奮させるためではない。なんだか良くない所に引きずり込まれる感覚や、とんでもない事が起きている表現などに、効果的に使われている。だからエロい映画だと思って見るときっとガッカリするだろうけど、裸である事のセンセーショナルさをかなり使いこなしてはいる。

父親の入院を機に実家に戻ってきた青年が、偶然とある事件の手がかりを見つけてしまい、その事件にのめり込んでいく物語だ。どうして警察に任せずそんな危険をおかすんだと思う反面、何かに強烈に惹かれている時にはそういう信じられない行動に出てしまうのも理解できる。主人公ジェフリーが二人の女性の間で揺れ動くのが、凶悪事件を起こしたヤバい人間たちの世界と今いるごく普通の人たちとの世界を行ったり来たりしている事の象徴のように描かれている。
主人公が事件にのめり込んでいくのが、女性に惹かれているせいなのか、かわいそうな人を放っておけないヒーロー思考なのか、自分が今まで触れた事のない世界への好奇心なのか、はっきり描かれない曖昧さが上手い。主人公さえも動機があやふやな中でズルズルと事件を追っていたら、とんでもない事に巻き込まれる。この嫌〜な感じ、よくわからないけど恐ろしくて、どうなるんだろう?という地獄みたいな時間の臨場感はすごい。

たぶんずっと事件の闇ばかり追っていたら、この嫌〜な感じは出ないんだろうなと思う。ごく普通の世界とヤバい世界を行ったり来たりするから、そのヤバさが際立つ。そして2つの世界が混ざった瞬間に、強烈な異質さになる。
この感覚をちゃんと味わえさえすれば、ストーリーにちょっとよくわからない部分や納得できない部分があったとしても、映画の肝の部分は押さえたことになるのではないかなと思った。

『ブルーベルベット』 3.0

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