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【映画レビュー】羊たちの沈黙

サイコサスペンスとかサイコスリラーとかサイコホラーとか、とにかくそういうジャンルの金字塔のような映画。名作をどんどん見ていこうという試みで見てみた。いやはや確かにこれは金字塔だ。

どちらかというとスリラーやホラーがメインなのかと思っていたけど、サスペンスとしてもしっかりしている。それに根本的な、映画を作る上手さみたいなものを見始めてすぐに感じた。主人公の女性を追っているだけで、彼女が成績優秀なFBIの訓練生で、収監中のめちゃくちゃヤバい犯罪者に会いに行って、現在起こっている凶悪事件を解決するためのヒントを貰ってくる任務が始まったのだと、とても自然に物語に入っていける。この情報の出し方の上手さは、私は映画を見る上でかなり気にしてしまうのだけど、本当に上手い。ごちゃごちゃしないペースで登場人物を増やしたり、その登場人物について適宜情報を追加していったり、そういうのが絶妙だ。この映画の肝はレクター博士の圧倒的な存在感なのは間違いないけど、脇役についてちょうど良い塩梅の情報量がちゃんと与えられているのはすごい。レクター博士のとなりに収監されている男がどんな失礼な奴なのかを一瞬で印象づけたり、その後の気持ち悪い行為がいかにもそういう事をしそうな奴だと思わせるだけのキャラクター像がすでに出来上がっている事とか、さらにその事がストーリーの推進力になっている点など、本当に上手い。

ただまあ、やはりレクター博士の圧倒的にやばい感じが本当にすごい。よく、サイコパスは物語になりにくいと言われるが、このレクター博士はサイコパスがちゃんと物語として成立している成功例だろう。成功の要因は、理由がちゃんと理解できる事にあると思う。過去の犯罪の理由はともかく、少なくともこの映画の中でレクター博士が行動を起こす事については、ちゃんと理由が理解できる。もちろん、底知れない恐怖とかヤバそうな雰囲気はもうずっとビンビンに感じられるのだけど、そういう全く何も理解できない部分だけでなく、ちょっと理由がわかる部分が大事なのだろうと思う。このレクター博士の一見とても紳士的なようで少しでも何か刺激が伝わったら途端に凶暴さが剥き出しになるであろう雰囲気は本当に唯一無二の存在感だった。

現代の成熟したストーリーをたくさん見てきた私たちには、正直予測できるストーリーも部分的にはある。でも、それでも30年以上前に作られたとは思えない成熟したストーリーである事は間違いない。というか、この30年の成熟の過程でこの映画がたくさん真似されてきた事が、新鮮さを感じない証拠なのだろう。サイコやスリラーとしても静かに淡々と恐ろしい事が起こる恐怖が随所にあって、グロいだけじゃない。ミステリーも、謎解きを楽しむようなものではないけどちゃんと作ってある。
本当に上質のサイコサスペンスを堪能できた。

『羊たちの沈黙』 4.0

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